Neetel Inside ニートノベル
表紙

単身赴任中にNo1ホストでクズになった話
第二話

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「はっ、初めまして・・・!新斗と申しマス」
「やだ~!ガチガチじゃん!超緊張してないー?」
「はっ、ハイハイ!そうですネ、ちょっと緊張してマス・・・」
「片言みたいになってるじゃん~!マジでウケるんだけど!」

ここは、歌舞伎町でホストクラブを複数店舗展開する"NEETグループ"の本店"Club NEET"。
何故、一般ピープルである至って夜の世界と無縁な俺が、こんなところで接客しているのか。

時は、数時間前に遡る・・・。

今日は土曜日。
企業戦士(社畜)の俺にとって、戦場から解放される大切なひと時。
だが、この日俺は、朝から自室のデスクで使い古された低スペックのPCに張り付いていた。

「"サラリーマン副業"で検索、っと・・・。」

株、FX。
SNS広告、アフィリエイト・・・。
お小遣いサイト、不動産資産運用・・・。

「ダ、ダメだ・・・。」

俺には到底無理だ。
株やFXは何の知識も無いし、そもそも軍資金が必要だ。
SNSやお小遣いサイトなんて、そんなにマメじゃない。
不動産資産運用なんて、もっての外・・・。

「世の中、そんなに甘くないよな」

溜息をつきながら、PCの電源をオフにした。

何故、副業なんて調べているのかって?
それは、お金が無いから。
とにかく、お金が無いから。

「くそっ」

俺は商社の営業マンだが、我社は完全歩合制だ。
売上が上がれば収入は増えるが、売上が無ければ新入社員と変わらない。
東京に転勤してから、恐ろしい程成績が悪かった。
それもそのはず、田舎の鳥取で生まれ育ち、田舎の企業相手に営業してきた俺。
都内のスマートな企業には好まれず、人生で一番成績が悪い状況に陥っていた。

ただでさえ二重生活で金が掛かるのに、ボーナス全額カットとなれば、俺のお小遣いは大きくカットされる。
そうなると、生き甲斐であるゲームや、パチンコに使う娯楽費用をカットせざるをえない。

「このままじゃ、ダメだ・・・。」

慣れてない単身生活のストレスに圧し潰されそうなのに、唯一の趣味ができなくなると、本当にメンタルがやられてしまう。
だが、新居のローンもあるし、嫁に無理を言ってお小遣いを増やして貰う事もできない。

「気分転換に散歩でも行くか」

そういえば、転勤してから三ヵ月。
今の環境に適応するのに必死で、全く観光もしていなかった。
とはいえ、田舎者の俺はこちらに友人も居らず、頼れる当ても無い。
この日、とりあえず自宅からそう遠くない、新宿の街を散歩することにした。

「これが大都会なんだな・・・」

見渡す限りの人・ビル。
空がこんなに小さく見えるとは。
到着してから僅か10数分、早くも場違いである事に気付いてしまったのだ。

「せっかく来たから、適当にラーメンでも食べて帰ろうっと」

新宿なう!とか投稿するような柄でもなく、腹を満たして帰路に着こうとしたその時だった。

「お兄さん!カッコいいね!」
「・・・ん?」

不意に呼び止められ、辺りを見渡す。
だが、近くに居るのは女性とダンディとは言えない疲れたご老人。

「・・・もしかして、俺に言ってますか?」
「そうそう!お兄さんだよ!」

声を掛けてきたのは、大学生ぐらいだろうか?
何だろう、半グレとでも呼べば良いのだろうか?
かつて、人生で関わった事が無い人種に声を掛けられ、恥ずかしい程にキョドる俺。

「え、あ・・?」
「いやー!お兄さんカッコいいね!モテるっしょ?」

こいつは何を言っているんだ。
自分で言うのも何だが、俺は生まれてから容姿を褒められた事は無い。
いや、正確には、子供のころは両親に可愛いとは言われていたが、それとは別次元である。
さらに言うと、人生でモテた事など当然無い。
童貞のまま成人を迎え(魔法は使えなかった)、社会人になってから、何とか回りの援助もあり、初めて彼女ができたレベルだ。
そりゃあ、どこぞのネタになる芸人程酷い顔面ではないが、甘口で評価をつけても、10段階評価で3ぐらいだと思う。

「お兄さん、良い仕事があるんだけど、話だけでも聞いてみない?」

あぁ、そうだ、知ってるぞ。
これは悪徳商法だな。
大体、この手の人種はブスでも"カッコいい"ってキーワードで声を掛けて来るんだろう。
甘かったな、確かに俺は田舎者だが、もう良い大人だ!
そんな子供騙しにひっかかる程バカではない。

「いえ、結構です」

極力目を合わせず、駅に向かおうとする。

「待って待って!マジで良い話なんだよ!」
「良い話には裏があると思いますので、結構です」
「違う違う!全然真っ当な表の仕事だよ!」
「表の仕事で良い話があれば、俺じゃなくってもすぐに見つかりますよ」
「ダメダメ!人としての価値が求められる仕事だからね。騙されたと思って着いて来てよ。3時間で1万貰えるよ」
「ピクッ」

何だと?
3時間で1万というキーワードに、わかりやすく反応してしまった。
確かに良い金額だが、時給にしたら3千円少々・・・。
そこまで悪事に手を染める仕事ではないのでは?
悪事に手を染める仕事なら、この取り分は低すぎるだろうし・・・。

「ね?今日すぐに日払いで1万で貰えるよ」
「え、本当っすか?」

ついつい振り返ってしまう。
この時、俺を見ながら微笑んだ男の表情から、悪意は感じられなかった。

「うん。良い話でしょ?ちょっと着いて来てよ」
「はぁ、ま、まぁ、話を聞くぐらいなら・・・」

俺は運動神経には自信がある。
もし、変なところに連れ込まれそうになっても、きっと走って逃げられるだろう、なんて考えていた。
そんな事を考えながら男に着いて行くと、何やら周りがギラギラする異様な光景に・・・。
こ、これは噂に聞く伝説の歓楽街、歌舞伎町ではありませんか?

「あの、どこに向かってるんでしょうか?どんな仕事なんでしょうか?」
「はは、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。もうすぐ店に着くから?」
「店?」
「うん、ホストクラブ」
「ホストォ!?」

思わず声を上げる。

「いやいや、ホストなんて無理です無理です!」
「そんな事ないよ!お兄さん感じ良いし」
「いやいや、無理です無理です!絶対!に!向いてません!」
「そんなに否定しなくっても・・・。別に今日だけで帰っても良いんだよ、それで1万円ね」
「え?」
「体験入店って知らない?働く働かないは別として、1日だけ体験するんだ。それでもお金貰えるんだよ」

あぁ、そういえば、大人の雑誌で女性向け求人広告で見た事あるような。
働かなくても、3時間程で日払い1万円が貰えるのか、うぅむ・・・。

「あの、殴られたり、怖い想いしないですかね?」
「そんな漫画じゃないんだから。安心してよ!マジでちょっと話するだけで、お金貰えるからさ」

本当だろうか?
やや不安は残るが、この男は嘘を付いているようには見えない。
それに、超金欠な現状に対し、良い話ではあるが・・・。

「マジで安心して。怖い想いしたら、警察に通報したって構わないよ」
「は、はぁ・・・。そこまで言うなら」
「OK!交渉成立ね。お兄さん、俺に会えて運が良いよ。すげぇ良い店だからさ」

気付けば空は薄暗くなり、行き交う人々も、徐々に華やかな"夜の住人"が目立ち始める。

「このビルの2Fね」

そう言いながら、男はビルの階段を上り始める。
エントランスには華やかなシャンデリアが飾られ、多数のホストクラブの看板が輝いている。
これまで感じたことの無い雰囲気に生唾を飲み込みながら、男の後を追う。

「着いた、ここだよ」

男は長い廊下の一番奥で立ち止まった。
そこには、見たことの無い重圧感に包まれた鉄の扉があった。
そして、そのドアには"Club NEET"の文字が。

「さぁ、入って!」

男に連れられて、開かれた扉に向かって歩き出す。
7月某日、土曜日の18時30分過ぎ。

この日俺は、ホストクラブという"夜の世界"に、足を踏み入れた。

       

表紙

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Neetsha