Neetel Inside 文芸新都
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女神像公園
少女

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夜の公園。
曇ってて、何だか汚い空。月なんて光すら見れない。
俺はいつものように公園のベンチに座り、行き交う人々の観察をする。
人前で堂々と下入れキスをするカップル。おめでたいもんだ。どうぞお幸せに、一生そこでイチャイチャしてればいい。
そんなカップルにイラだったのか、怒声を上げる通りすがりの酔っ払い親父。
うるせぇと男に怒鳴り返され、しぶしぶその場を立ち去る親父。酔っ払いっていうのはこの世でもっとも頭の悪い生き物だ。
哀れすぎる親父に泣けた。




そんないつもの風景。しかしいつもと違う、面白いものが一つだけあった。
となりのベンチで制服姿の女の子がうずくまっている。
長い髪の毛が特徴的な、肩幅の狭い綺麗な感じの女子生徒。
どっかの頭のいい新学校とかが着てそうなブレザー姿。俺らの高校の制服とは大違い。
なんだかすごいゲロ臭い。何となくだけど、吐いてるって分かる。こいつも酔っ払いだろうか?
今時、中高生だって酒を飲む時代だが、わざわざ警官の多い時間帯に制服で酒を飲む頭の悪い奴はいない。
いたとしたら救いようのないアホ。
こいつがアホなのか、またはヤバイ状態なのか。
ウーウーうなっている。10秒置きに尋常じゃないほどの痙攣を起こす。
夜の公園で、目の前で異常な状態の人間を見て、放ってはおけない。
「あー、大丈夫ですか?」
声をかけてみたが返事はない。
返事が出来ないほどヤバイのか、気付いてないのかどっちか。
周りには半透明な粘液たっぷり、相当ダイナミックに嘔吐したんだろう。
「あのー!大丈夫ですか!」
「あ、はい・・・」
やっと返事が返ってきた。なんか死にかけたセミみたい。
見てみると驚くほど綺麗な顔。ガキっぽい顔がまたいい感じ、テレビで見る女子高生アイドルの顔をちょっと細くした感じ。
ゲロ臭くなければ最高だったのに。
顔色はよくない。青白いく、視点が定まらない。いかにも元気がありませんって感じ。
「救急車とか呼ぶ?」
「いや、大丈夫です。少し気分がわるくなっただけで・・・。」
どう見たって大丈夫そうには見えない。一昔話題になったチワワのクゥーちゃんをさらに病気にさせたみたいだ。
「ちょっと待ってて、水持ってくる」
よく死んだバアちゃんがいってた。具合が悪そうな人にはとりあえず水を飲ませればいいって。
まぁその当時もうバアちゃんはすでにボケてたからどうかとは思うが。
すぐに近くの自動販売機にペットボトルの水を買ってきた。さすがに公園のカルキ臭い水を病人に飲ませるのもアレだから。
わざわざ自分の金で買ってやった水を少女に渡した。
少女はペットボトルの蓋を開けると、水を飲み始めた。
みるみるうちに減っていく水。豪快なイッキ飲み。
お見事、大学生もビックリの飲みッぷり。とても病人とは思えない。
大きくタメ息を吐いた後に少女は言った。
「すみません。もう大丈夫です。」
少女は頭をかかえながら立ち上がった。
お礼でも言われるのかとおもったら、そのまま何処かにフラフラと歩いて行ってしまった。
あっけない。「ありがとうございました。よければ連絡先を教えていただけませんか?」くらいの展開はあっても良かったのに。
人にいい事をすれば、必ず自分にもいい事がおこる。どっかの誰かが言ってたな。
嘘つき。



次の日、俺の起床時間は12時だった。
明らかに学校は大幅な遅刻。
サボってしまおうかと思ったら、母親がどうしても行けとうるさい。
しかたなく、学校に行くが、もちろん遅刻。
クラスの笑いもの。そりゃ当然、俺が着いた時間はもう最後の授業の時間帯だったから。
笑い声は、汚い教室を抜けて、となりのクラスまで聞こえただろう。
恥ずかしいったらありゃしない。
後ろの席のマサキが馬鹿だ馬鹿だってわざと耳元で言ってくる。
否定は出来ない。俺は馬鹿で、しかもアホ。
先生は今更何しに来たんだと呆れた顔で言う。それは俺も思ったこと。
何しに来たんだろうな、俺。

下校時間になると、ほとんどの生徒は予備校に行くのがあたり前。
帰りに公園に行くのなんて俺くらい。今日はタバコも音楽プレイヤーも持っていないけど、特に家でやる事もないから。
俺はいつもどうり、女神像公園に向かった。




面白いのはここから。
公園の女神像の横のベンチに1人の女が座ってるのを発見。
あの品のいいブレザーに、小さめの体、綺麗な髪。
昨日の少女だ。
今日はゆるやかな表情をして、ずっと本を読んでいる。
難しそうな本。表紙を見ただけで頭が痛くなってくるような本。
平和そう。昨日とは大違い。
相手は俺に気付いてない。
無視して通り過ぎようとしたら、向こうから声をかけてきた。
「あ、昨日はどうも。」
俺の顔を覚えててくれてたみたい。
犬でも見つけたような目で俺を見る。手に持ってる難しそうな本は閉じない。
やっぱり人助けっていうのはしておくものだ。
「ああ、体調はよくなった?」
「ええ、おかげさまで。」
ありきたりな言葉で会話。むこうは笑いながら言った。
軽い会釈。バカうるさい女の高い声とは違い。大人しい感じで小さいく、透き通った声。
お嫁さんにしたい女優№1みたいな顔をしてこっちを見てる。上品な笑顔。
本当の笑いなのか、その場の空気のための愛想笑いなのか判断できない。
「どうしたんですか?こんな所で」
それはこっちのセリフ。
「いや、学校の帰り道によくここで時間とか潰してるから。」
適当な事を言った。まぁ嘘ではない。
「私は最近ここらへんに引っ越してきたんですけど、この公園は日当たりもいいし、暇つぶしによく来るようになったんです。」
笑える。俺以外にもここの公園の良さの分かる変わり者がいた。
彼女も俺と同じ稀少種。
「俺もこの公園は気に入ってるよ。」
「あ~、そうなんですか。あの女の人の像とかもいいですよね。なんかかわいくて」
女神の像を指差してそういった。
何処が?と言いたかった。全くそこに関して共感が出来ない。
俺には鳩のウンコ塗れで、酸化が進んで汚らしい石像の何処がかわいいのか理解できない。
人それぞれ着眼点っていうのは違うみたいだ。

軽く自己紹介をされた。
名前はユウカ。谷口優香。ここらの有名私立高校の一年生らしい。

俺たちはよくわかんないけど仲良くなった。
谷口優香はよくこの公園に来る。といっても三日に一度くらいだけど。
俺は毎日来てる。
会うたびに、たわいもない話とかをした。
俺に声をかけてくれるって事は、俺の事は別に嫌いじゃないみたいだ。
向こうも話相手が欲しかったみたい。
何だか期待できる。
アドレスとかも交換した。一度もメールしてないけど。



いつも会うと下らない雑談をするようになった。話し易いコ。
よく学校の同級生にその場を見られ、彼女か?と冷やかされる。
空気の読めないアホは、その場で声をかけてくる。
「アキラ君の家って何やってるの?」
「交差点の向こうの商店街で母ちゃんと雑貨屋やってる。」
「母ちゃんと?」
「親父がいないから。」
「あ、そうなんだゴメン。」
申し訳なさそうに優香が言った。
そこ事に触れられても俺は痛くも痒くもない。
親父がいないって言っても、正直、どうこう思ったことはないし、親父の事なんて考えた事は一度もない。
よくテレビでやってるような「顔の知らないお父さんに逢いたい。」とか言う企画。アレは俺には理解できない。
血が繋がっていようと、顔が知らなければ赤の他人。何故わざわざ涙を流して会う必要があるのか、いつも不思議に思っていた。
「実は私もお父さんがいないんだ。」
急にブルーな顔つきになる優香。
こっちには俺と違って色々と事情がありそうだ。
いきなりそんな顔して、そんな話をされても俺は乗れない。
同士を見つけて嬉しいのか。残念、俺は父親の事なんてどうでもいいんだ。
ユウカは自分の事をあんま喋ってない。
近所に引っ越してきたと言っても、具体的に何処なのかわからない。
家族構成も分からない。知ってるのは父親がいないという事だけ。
まぁそういう人間はよくいるもんだ。

ユウカのいる時間はだいたい午後4時から6時くらい。
6時になるとバイトがあると言っていなくなる。
俺といる時間がカブっている。と言っても、俺のいる時間が長すぎるだけかも。
俺もバイトをすべきか考えた。働く気力があまりない。
ホント、俺って駄目。
俺はニート予備軍。

ユウカと会うたびに、俺の暇な時間は減った。
こっから恋が始まれば面白いのに・・・。
人生はそんな甘くない。

そんな簡単に俺に彼女が出来るなら、他の奴は億万長者のハリウッド女優と結婚できる。
俺の友達のプレイボーイのマサキは、どっかの星の皇女様と婚約できる。


       

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