Neetel Inside 文芸新都
表紙

邪気眼使い集まれw
それにしてもノリノリである

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「で?」
 俺と毒男の前に、キモい男がやってきた。
 ま、その男というのは俺らの友達の長岡なわけだが。
 実はこいつも邪気眼使いだった。
「何そのキモい腕」
 今では主に右腕がキモい男になっている。
 体とは不釣合いに筋肉隆々となり、腕だけが別の生き物みたいだ。
 というか、明らかにバランスが崩れている。

「先に訂正させてもらうと、この腕はキモくない。この筋肉は証だ。おっぱいに捧げる俺の情熱を証明している」
 あの腕はおっぱいおっぱい、と叫びながら腕を上下に動かす奇怪な運動の賜物らしい。
 何にしてもキモい。

「俺はその腕を見て、昔やったリンダキューブアゲインというゲームを思い出してしまったよ」
 本編中、謎の襲撃で父親と母親が殺され、自身も右腕を失ったヒロインが、
死んだ父親の右腕を移植されて体はそのままなのに、右腕だけアンバランスにゴツくなるというシーンがあった。
「……そのゲーム知ってるのお前だけだろ、流石の俺もそれ知らないぞ」
「あれは良いゲームだからやるべき」
「もう俺のことはスルーか? おい、この筋肉についての話は終わりなのか?」
 長岡は不満そうな声でそう言ってきた。
 だが別に、ただ腕がでかい邪気眼使いなら、あとニ話三話でヤムチャのようにリタイヤしそうだからどうでもいい。
 いかにも筋肉キャラってのは実際は強いだろう……が、しかし。
 この手の話だと精神>筋肉だからな。
 まず勝てる見込みなんてねぇよ、長岡。

「さらば長岡、良い噛ませ犬として逝けることを祈る」
「妙な祈りをするなよ」
 意外に、身近なところにも邪気眼使いは居た。
 これが似た者には似た者が集まるということの意味かと、しみじみ思う。

      @           @

「それでは君達に、改めて邪気眼の事について説明しよう」
 先生は数学の時間を潰して、こんな話を始めた。
「だがその前に一つ、先に言っておくと邪気眼なんてものは最初からは存在していない」
 先生からその話が出た瞬間、場が大勢の生徒の声によって騒ぐ。
 邪気眼の説明を始めようと言うのに――まず否定してきたことに動揺した。
「騒がずに、待ってほしい」
 しかし、先生の話はやはりそれだけではなく。
「邪気眼は存在しないが、確かに『在る』」
 ここから始まった。

「少々冗長な話になるが、君たちも考えてみてくれ。
車、飛行機、電球、列車、携帯――これらの文明の利器は等しく、最初から存在していなかったものだ。
人が使い、人が生み出した……私がしたいのは邪気眼もまた、その一部だという話だよ」
 そういう話かと、数人の生徒が黙る。
 俺も例に漏れずこのまどろっこしい話し方に、耳を傾けることにした。
「人間は無いものを生み出す生物にして、想像し創造する唯一の生き物だ。
まず私が言いたいのは人間の創造、延いては想像の偉大さなんだよ」
 そこで教卓から身を乗り出し、話を続ける。
 語調は穏やかにも関わらず、確かな勢いがあった。

「人の英知、その結果に生み出されたのが――『邪気眼』。
魔法に最も近い幻想の力……今からするのは、そのメカニズムの説明だ」
 先生の話に少しの間があく。
 場は静寂が支配し、この間すら必要な余韻にすら感じる。
 そう、まるで『考えさせる時間を与える』ための間のような。
 先生の発した言葉の意味を、噛み締めるさせるように。
 ちなみに俺は、話の半分もよくは分からなかった。
 だが、しかし……なんかスケールのでかい話なんだなっと思わされた。
 周囲を見渡すと、圧倒されている者が少なくとも四~五人。
 前フリだけで、先生の話に酔ってしまった人が居るようだ。
 そういう姿を見ると、自分は絶対にこの話に乗りたくない、という天邪鬼な心が出てしまう。

「人間の思い込みとは怖ろしいものだ」
 そんなことを暢気に考えていると、先生の話は再開される。
「薬物や極度の疑心暗鬼、或いは病によって人は知覚障害を引き起こす。
ありもしない虫を幻視して呻くことや、ありもしない化け物を、音を、声を聞くこともある。
邪気眼とはまさにソレだ! 人間の脳が行う錯覚を、妄想の知覚に割り当てただけなのだ。
さて、皆も経験にあると思う……画面に映った二つの眼球」
 ふと、脳裏に蘇る不気味な眼が思い出される。
「あれにより持たされたのは、自らの眼で見る主観。そして世界の眼から見た外観。
そのどちらでもない二つの間に入り、あたかも二つに干渉しているかのように見せる幻。
主観でも外観でも無い……もう一つの視界。
それこそが『第三の眼』、邪気眼なのだよ諸君!」
 正直さっぱり意味がわからない。
 けれど、教室からは「なるほど」や、「ほぉ」という感心の声が聞こえる。

「そして、何故その英知を我々が備えたかと言うならば!
それは発掘された預言書『邪界文書』に基づいてカノッサ機関が作り、君らに散布したからだ!」
 先生の発した単語の一つ一つに、周囲のざわめきが共鳴する。
 『カノッサ機関』。
 聞き覚えがある、否――正確には見覚えがある。
 そう、俺にメールを寄越してきた奴の名前だ。
 それが今回の、騒動の黒幕?
 こういうのって結構ひっぱるのが常道だってのに、暴露早くない?
 現実というのは、こういう肩透かしがあるものなのかな。
 これから発生する様々な期待の一つを傷つけられ、少し残念な気分になる。
 だが、他の生徒は『邪界文書』と言う言葉に反応し、大いに盛り上がっていた。
「そんな、『奴ら』が本当に実在していたとは」
 なんて事や。
「在り得ない、あれ……『邪界文書』は確かに世界から抹消されたはずじゃ!」
 という歓喜にも似た絶望の声が聞こえた。

「邪界文書によって作れらたなら、納得がいく! つまりこの力は本物なんだ!」
 誰かが叫んだ。
「いや」
 けれどここで、先生の声が遮る。
 叫んだ一人が訝しげに見ると、先生は視線に向けて静かに言った。
「君達の邪気眼はあくまでも『模造品』なのだ」
「も、模造品!?」
 するとここばかりは、俺を含めてこの教室の全員の声が揃った。
「この力が、完璧じゃないっていうのか?」
「なるほど俺の力はまだ封印されていたから、この街はまだ崩壊していなかったんだな」
「全く冷や冷やしたぜ、俺の力が覚醒していたら今ごろこの学校は消滅していたな」
「いや、俺の邪気眼が覚醒してなかったのが一番幸せだったな……なにせ、日本がなくなってたんだからな」
「俺が覚醒していたら、この世界がどうなっていたか……!」
「ヨグ=ソトースの門も開かれない訳はそういう事だな」
「そんな装備で大丈夫か? イーノック」
「そうだね、プロテインだね」
「俺はがんものある生活を選ぶぜ」
 しかしその次の言葉は、各々違うものであった。
 というか後半普通に言ってる事関係ないだれ。
 俺にはやることがあるんだ・・・。

「皆、静かに聞いてくれ……これは大事なことなんだ」
 先生が声を荒げることなくそう言うと、その場はすぐに静る。
 完全にこの場のイニシアチブを握っていることを、暗に語っているようだった。
「いいか?」
 余計なお喋りをするヤツが一人もいないことを確認すると満足そうな顔して。
「カノッサ機関が仕組んだ今回の騒動の目的は……『奇跡』だ」
 奇跡、泣いて飛びつくようなそんな単語がでても誰も喋るモノはいない。
 何故なら、話はまだ全部終わっていないからだ。
 場に居合わせる者は皆、続く言葉を大人しく待っていた。
 先生は期待に応えるように、一拍の間をあけて改めて口を開く。

「奇跡とは、大勢の人々が祈り続けることで起こる偶然だ。
不可能を可能に、非常識を常識へと叩き落とす。
奇跡とは、人が成しえる事の出来ない魔法だ。
人一人の力で実現させるなど不可能で、多くの人間の手によって初めて姿を現す不可思議だ。
奇跡とは、人の願いだ……!」
 大仰に手を広げながら言うその光景は、さながら神の教えを説くモノのような神聖さをもっていた。

「しかし!」
 一瞬、先生は教卓を叩いてその注目を確固にすると。
「この世の奇跡の実現には多くの『絶望』が必要でもある!
逸脱した『魔法』を生み出すには、それだけの『現実』を突破しなければならない。
『現実』という壁は分厚く、そう易々と壊れる代物では無い!
壁の厚さは、奇跡など易々と我々の手に落ちないことを証明している」
 熱を上げた先生の演説は、最高潮に達しようとしていた。
「故に、『奇跡』は神格を進め、その恩恵は万物を可能とせしめるのだ。
易々と手に入るものでなく、掴むこともできぬ代物だからこそ、大きな価値を持っている。
だが諸君らにその『現実』を突破するための、武器がある!」
 熱は感染し、聞いている生徒連中に伝染する。
「それが……そう、君達の手にある能力『邪気眼』なのだ!
君たちが願望の力を衝突させ、強くしていくことが果てには奇跡に届くのだ!
奇跡は触れられないし見えないからこそ制御できないし、掴むこともできないが、違う。
邪気眼はそれを見て、あまつさえ制御すら可能にできるのだ!
そう、そうだ。そうなのだ! 君達には、ソレができるのだよ!」
 だから、生徒達は沸きあがった。
 自分達がどれだけ崇高な力を持っているか自覚させられて、沸いた。

「けれどもカノッサ機関は、それを知らない君達を利用しようとしているのだ。
この戦いで最終的に現れる『奇跡を実現させる力』を、横取りしようとしているのが――カノッサなのだよ!」
ΩΩ Ω<「「「なっなんだってー」」」
 妙な三人組が、絶妙なタイミングで驚いた。
「……君達はそれを許せるか?」
 ここで先生は急に声音を落として聞いてくる、が。
「否、絶対に否!」
「許さんぞカノッサ機関!」
「マジそれはありえねぇっすよw」
「あるあr……ねーよwwwwwwwww」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「腹を切って死ぬべきである!」
「酸だあああああああああああああああ」
「ああああああああああああああああああああああああああ」
 暴徒のように跳ね上がった歓声に支配された教室では、むしろ逆にそれがよかった。
 何故なら、音声の凹凸がそのギャップからさらなる高揚を生むからである!

「よろしい諸君!」
 そこで先生も負けじと声を張り上げ、叫ぶ。
「ならば反逆だ! カノッサ機関が横取りしようと言うならば返り討ちにしてしまえ!
今この場を持って宣言しよう、ここに反カノッサ組織……『OST』を建設する!
さぁ諸君、侵攻と攻撃の準備をしようじゃないか!?」

       

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