するとソコには、黒い液状の物体が壁にへばりついてた。
「うぁっ!?」
一瞬、そのおぞましさに後ずさりをしてしまう。
すると俺の声に反応したように、黒い液状の物体に動きがあった。
「~~っ!!」
この光景を前に、声にならない悲鳴を上げながら、腰を抜かす。
そんな俺に、黒い液状の物体は何かの形に変わり……こちらに擦り寄ってくる。
あまりにも現実離れした光景に、軽く意識が飛びそうになったが――
「……あ、れ?」
しかしそれは、見間違うはずも無い。
今日の俺が妄想で呼び出していた『第三の手』、そのモノだった。
それが奇妙にも蠢き、ビクビクと痙攣しながらもこちらにゆっくり近づいてくる。
それはB級ホラー顔負けの怖さがあったが、今の俺には違って見えた。
「うおおおおおおおおお!」
口から、恐怖では無い歓喜の悲鳴が出る。
目の前には確かに、脳内フィルターを飛び出した妄想では無い異物が蠢いている。
本来なら吐き気を催すような奇形な汚物に視えるソレも、今はとても愛らしく見えた。
「凄い、凄いぞ!」
こんな凄い事に、喜ばない方が嘘だ。
蠢いて賢明にこちらに近づいてくる怪物を拾いあげると、確かに感触がある。
粘りッ気があり、触り心地は最悪であるが……想像した通りだ!
「妄想じゃない」
俺の生み出した侵略邪気眼が確かに姿形を持って現れた。
みっともない事だが、新品のおもちゃを買って貰った子供のように喜んでいる自分がいる。
だが、仕方の無い事だ。
この現実は最早、俺の知っている現実ではないのだから。
そう、今日この日。
妄想が現実を侵略した。