Neetel Inside 文芸新都
表紙

邪気眼使い集まれw
ブラックアウト

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 一人、また一人。
 大きな道路から外れた高校までの道すがら。
「はぁ、はぁ」
 俺は息を切らしながら自転車を漕ぎ、行きかう人達を品定めする。
 誰が一番、狙う相手に相応しいだろうか――と。
 そんな時、俺の横を一人のイケメンが颯爽と抜かしていく。

 ……今日の得物はこいつにしよう。
 理由は単純、イケメンというだけで気に入らないからだ。
 獲物が決まったことで、俺は次の行動へと移れる。
 右の肩口――面僧帽筋の辺り――から、ジワジワとイメージをカタチ創り、細長い毒手を生み出す。
 それは重力を無視して浮遊して、手から根元までを蛇のように長く伸ばしている。
 さらには鋭い鍵爪を持ち、闇を塗りつけたような光を通さぬ黒い鉛色をした手。
 俺はこの手を『第三の手』と名づけていた。

(さぁ、食ってこい!)
 そして俺はこの『第三の手』を、イケメンに向けて加速させ――刺し、貫かせる。
 だが俺の毒手はここからがまた、おぞましい。
 『第三の手』は、対象を捕らえると同時にその姿を変える。
 刺さっている状態から新たに数本の触手を出現させ、体内に進入すると、
 そこから相手の養分を吸っていき……吸収したそれらを、俺の体へと流していく。
 奴から一日の活力が萎んでゆき、俺へと送られていく感覚がする。
「ふひひひひw」
 俺はその光景に、自然と笑い声が出た。

「なぁ~に気持ち悪い笑い声を出してるんだ、お前」
 だからか、いつの間にか接近していた奴に聞かれてしまう。
「――ッ!?」
 すぐに声のする方を振り向くと、安心した。

「思い出し笑いか?」
 ニヤニヤと楽しそうな笑い顔で、自転車の俺と並走しながら聞いてくるそいつ、長岡は中学時代からの友人で、随分と気さくな奴だ。
「あーっと、そう。思い出し笑いだよ」
「なんだよその反応、怪しいなぁ。何か隠してるだろ? 分かった、おっぱいのことだな?」
 しかし、時たまこうやって俺をからかってくる奴でもある。

「違うってのw おっぱいのことで思い出し笑いできるのはお前だけだって」
「へー、じゃーなんだよ」
「そ、それは昨日観てたスレを思い出してさ」
 俺が慌てて言い訳をすると、長岡は興味無さ気に「ふぅ~ん」とだけ返してきた。
 興味ないなら聞いてくるなよっと言おうとするも、止める。
 この話は、これで終わりにしておきたかったからだ。
 何せ、本当はイケメンから生気を吸収する空想をしてたんだ~なんて口が裂けても言えない。
 言ったら確実に引かれるだろうってことは、流石の俺でも予想はつくからな。

 そう、さっきやっていたことには実際なんの意味もない。
 むしろ意味があるワケがないのだ、何せ全て俺の単なる妄想だからね。
 だから『第三の手』なんて存在しないし、イケメンから養分なんて吸い取ってない。
 なら、「なんでそんな妄想をしたのか?」と聞かれたならば、「それがカッコイイと思ったからだ」と言う。
 昨日の夜に観たスレの影響でもあるんだがね、うん。
 日ごろからこんな妄想をしていたら、軽くどこかの精神診断を受けさせられても文句は言えないかもしれない。
 そうそう、確か俺のような奴をネット上では『邪気眼使い』と――そう呼ぶらしい。


 学校に到着し、駐輪場に自転車を止めた俺と長岡は下駄箱で靴を履き替え、教室へ。
 そんな一々の動作も、やはり誰かと一緒だと暇しないもんだ。
 ちなみに長岡とはクラスが別なので途中で別れ、俺は自分の教室、二年三組へと入った。

「よぉ内藤、相変わらず汗が凄いな」
 教室に着いて自分の席に鞄を置くと、後ろの席の毒島明男、通称毒男がからかってきた。
「ああ、2リットルは固いぞ。だが仕方ないないだろ」
 確かに今の俺は三十分かけての自転車通学でかなり汗をかいている。
 今の季節が夏で、やたら暑いからこれも仕方ないことだ。
「全く、熱そうじゃないお前が羨ましいよ」
 席に座り、鞄から適当なノートを取り出して団扇代わりしながら言う。

「ま、俺はバス通だからね」
 バス通学をする毒男は平均的なガリヲタ。
 にも関わらず、言う事はしっかり言ってくる恐れ知らずなトコがある。
 本人から言わせれば、腕っ節では勝てないが、口では勝てるから言う……らしい。
 こいつとは高校一年の時にクラスが一緒で、趣味が合ったことから親しくなり、友達になった。
 二年になってもクラスが一緒で、ますます親しくなった奴である。
 今では中学からの友達の長岡よりも親しいかもしれない。

「お~っす、遊びに来たぞー」
「お、今日も来たか」
 丁度そこへ鞄を置いた長岡が、俺達の輪の中に入ってきた。
「お前、まだ向こうのクラスで友達できねぇのか?」
「うっせ、向こうにはお前らのようにおっぱいについて語るにはまだまだな奴が多すぎるんだよ」
 そう言って毒男の机を椅子代わりに、長岡が定位置についた。
「おいおい、女子もいるのによく臆面もなくそんな話ができるな」
 と、俺。
「女子のこいつに対する印象なんてもともと悪いんだから、今更気にしてもいないんだろーよ」
 と、毒男。
「っは、当たり前だね。ただおっぱいを見てるだけで嫌な顔をする奴らに、どんに嫌われようと、俺は平気さ」
 と、長岡。
 だいたい何時もこんな感じの遣り取りから、一日が始まる。
 しかし今日は、一人足りなかった。

「で、長岡。荒巻はどうしたんだ?」
「ん?」
 何時も特に喋る事も無く、ただそこに居るだけの荒巻が、今日は居なかった。
 ちなみに俺と長岡と毒男と荒巻は、一年の時に同じクラスで仲良くなったグループだ。
「なんか知らないが、居なかった」
 いままで記憶している所、欠席なんて一度も無かった奴が今日はいない。
「メールは?」
 何か連絡がきてないかと確認するも、着てないと返される。
 荒巻はいつも黙って俺たちについてきて、なんとなく一緒にいる変な奴だが、いないといないで寂しい。
「荒巻、どうしたんだろうな」
 夏風邪でも引いて休んだのか、なんて考えていると。
「今日は、何時もと違うんだな」
 毒男がなんとなく言ったその台詞が、妙に俺の頭から離れなかった。


件名:『邪気眼使い集まれwww』

 俺がパソコンに届いたそのメールに気付いたのは、この日の夕方の事になる。
 学校から帰ってからすぐにパソコンの電源をつけて、MSNにログインするとメールが一件届いていた。

『 あなたの邪気眼を教えてください。
  そうすれば、あなたも参加者になれます。 』

 たった二行の短い文章で、『カノッサ機関』という知らない宛先から送られてきた奇妙な内容のメールだ。
 さらに奇妙なのは、相手のメールアドレスが単なる数字の羅列になっているところだった。
 返信すればいいような雰囲気だが、本当に返信してメールが届くのか?――なんて思う。
 なんとも怪しい。
 何から何まで怪しすぎる。
 どうにも、性質の悪い悪戯の類である可能性が高い。

「だがそれが良い!」
 しかし、これに何か不思議な匂いを感じた俺は、行動せずにはいられなかった。
 何より『邪気眼』を教えてくださいというフレーズに痺れた。
 そのため、俺はこの悪戯に嬉々として返信を始める。

「邪気眼の名前、か」
 だが、ここでまず悩む。
 まず始めに浮かんだのは『吸収邪気眼』という名前。
 しかしどうもパっとしない、なんというか物足りなさがあった。
 FFなんかでもドレインというのは今一こう、パっとしない。
 もっと、なんか強そうで毒々しい感じの格好良いものはないかと、俺は頭を捻った。
 吸収じゃなくて、もっとその行為について視点を変えて観てみれば――侵略?
「侵略……これだ!」
 やっと浮かんだ名前は、自分の妄想を表す最良の名前に思えた。
「侵略、邪気眼」
 口に出してみると語呂が良い気がする。
 そうして俺は良い名前が思いついたという興奮を胸に、本文には<俺の邪気眼の名前は侵略邪気眼>と書いて返信ボタンをクリックした。


 すると一転して、画面中央に妙なURLが出現する。
「?」
 後半部分が文字化けしていて、何処に繋がっているかも分からない。
 送られてきたメールアドレスといい、このURLといい。
 全く奇妙な、不思議な、不自然な雰囲気が続く。
 戻るを押しても反応せず、右上の×を押しても一切に反応がない。
 フリーズした訳ではないのは、マウスのカーソルが正常に動く事から分かった。

「このリンク先に行けってか?」
 そのため、今の俺にできる選択は一つ。
 中央に表示されたURLをクリックする事だけのように思えた。
 普通ならこういう場合、おびえ、どうなっているんだと取り乱すだろう。
「なんだよこれ――」
 でも俺は、この現象を……この謎のURLだけが出現した現状を!
 心の底から、とても面白いことが起こってると、そう感じていた。

 カチッ。
 迷い無くその指がゆっくりとURLにカーソルを合わせてクリックする。
 と、画面は一瞬パッと電源が落ちたように暗転し、
 突然クルクルと回転する二つの球状のモノが画面に映りこんできた。
「な、何が起こってるんだ?」
 先ほどまでの興奮は何処へやら、理解できない映像に不安が過ぎる。
 やがて球状のモノは次第に速度を落としていき、回っているモノが何であるかがはっきりと見えてきた。

     


     

「……え?」
 回っていたモノ。
 それは、人間のモトと思われる眼球だった。
 画面に表示されたモノは、二個の眼球。
「うわ、あああ!」
 あまりのことに声を上げて驚きいた俺と、回転していた眼球との目が合った、刹那。
 驚く暇も、恐れる暇も、理解する暇なども無く。
 頭の中で何かが割れるような音が聞こえたかと思うと、意識はテレビの電源が切れたように――ブラックアウトした。

       

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