Neetel Inside 文芸新都
表紙

邪気眼使い集まれw
妄想が今を侵略

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 日は完全に落ちた地元の公園に一人。
 街頭の光が微かに届くそこで俺は『力』を試してみる。

「行けっ!」
 すると指示通り、指した方向に素早く黒い塊が飛んでいく。
 今度ばかりは妄想では無い……本当に手に入れた超能力。
 自分で名づけた力、侵略邪気眼の力だ。
 これがまるでジョジョに出てくるスタンドのように、自分の意思だけでよく動く。
 形を持たない変幻自在な姿は、まさに想像していた通りである。
 腕になれと念じただけで、通学中によく想像する『第三の手』へとすぐに変貌してくれる。
 こうなった時は、自転車で走る人間にも簡単に追いついてしまえる速度を得る。
 試そうと思えば本当に、道行く奴から生命力なんてモノを調達できるかもしれない。
 そう思わせる程リアルな力が、目の前で俺に行使されていた。
 しかし、この力には大きな欠点がある。

「ん?」
 ふと、公園の横を自転車で通過していく子供が居た。
 あの速度なら捕まえることには苦労しないだろうから、もう一度試してみることにする。
(『第三の手』!)
 心の中で強く念じ、黒い塊を毒手へと変化させ、目標へと飛ばす。
 そして――

「捕らえた!」
 掴んだ触覚が、黒い塊から伝わってくるのが分かる。
 その変幻自在な体が体を貫通すると、素早く獲物に撒きついた。
 そして捕食が始まり、五指はそれぞれ分離して通行人を食い始める――のだが効果は無い。
 狙った子供は、何事もなかったかのように公園を通過していく。
 やはり先ほどと全く同じで、意味がなかった。
 これは、妄想でやっていたことと何も変わりはない結果だ。
「やっぱり駄目、か」
 そう、邪気眼の大きな欠点とはソレである。
 邪気眼を持たぬ者には、『わからない』という事だ。
 まぁそうでもなければ先ほどのような子供相手に、こんなことしないんだけど。

 そんなことを考えていると、這い寄ってくる物体が目に入った。
 通行人に干渉できなかった『第三の手』が、元の黒い塊になって俺の元へ戻ってきたのだ。
「よしよし、かわいい子だ」
 近づいてくる気色の悪い怪物を、手であやしながら導く。
 どんなにイビツだろうと、今は俺に特別な力を与えてくれる怪物が、不思議と愛らしい。
「さぁ、もう一度イメージトレーニングを再開しよう!」
 俺はそう言って、倒すべき敵に対しての戦闘訓練よろしく想像力鍛錬を続けた。
 ただ、自分が得られた力を守るために。
 ただ……自分が得た力に酔うために。


      @     時は少し遡り、意識を失った後      @


 気がつくと、俺は何も無かったかのようにパソコンの前に座っていた。
 自室を紅く染める夕日が出ている事から、あれから暫く気を失っていたらしいことが分かる。
 だが実際は、パソコンをやっている内に眠りにつき、妙な夢でも見ていたような気がしてならない。
 が、それらが全てリアルだった事を、パソコンの画面内で開かれたページを見て悟った。

「邪気眼に、ついて……?」
 目の前の画面に書かれていた事、それは現在の状況だったり……まず邪気眼がどういう物なのかと言う話だった。
 今北産業風(今来たから三行で説明してくれ風)に言うと、以下の通りである。

 想像しているモノを知覚できるようになった。
 似たような奴が来て戦わないといけない。
 負けたら邪気眼能力を奪われる。

 どういう原理かは知らないが、さきほど意識を失ったことで、俺は人間の出す念波を送受信できるようになった、とのことだ。
 実際のところは、相手の妄想や自分の妄想を無意識的に映像化してしまうのが主で、人の妄想を幽霊のように見ることができるようになったらしい。
 戦いを続けることで、これがよりリアルに、より鮮明になっていく。
 開かれていたページに書かれた内容は、そんなものだった。
 早い話が、俺は他人や自分の妄想を感じることのできる、一種の知覚障害者になったようだ。
 そしてここではその知覚障害者を、邪気眼使いと――そう呼んでいるらしい。

「でも、本当に妄想が視えるのか?」
 想像した事が本当になるんだったら、見せてもらいたいもんだ。
 いや、それは自分で試せばいいんだよな。
「……うん、試してみるか」
 そう思うと、何故か俄然とやる気がでてきた俺は、その場を立ち上がると構える。
 本当に想像した妄想が見えるってんなら、できるはずなのだ。
 これを試さない手はない。
「か~め~は~め~」
 誰しもが必ずやりそうな必殺技を、動作を再現しながらやってみる。
「波ァー!」
 言うなり、勢いよく両手を前に突き出してみると――それは起こった。
 手から何かが飛び出し、そのまま真正面の壁にぶつかったのだ!

「……なんか、出た」
 だが歓喜の声は出なかった。
 なぜならぶつかった拍子に、べちゃっという効果音が聞こえたことから、何かが潰れたことが想像できたためだ。
 なにが出たんだ。
 とてつもなく、嫌な予感がした。

 何時の間にか日は沈み、部屋の中にも目立った闇が住みつき始めていた。
 そのため、音の先にある壁に何があたったのか、暗くて確認できない。
 電気をつければ、一瞬で壁にぶつかったものが何であるか分かるが、電気のスイッチに伸ばされた手は……躊躇いで止まる。
 だってべちゃって、なんか凄いグロテスクな光景が展開されていることを約束してる音だよ?
 それを好き好んで見ようとか、なんかオカシイだろ……常識的に考えて。
 しかし、ちょっと見てみたい好奇心もあるから辛い。
 それにいずれ電気はつけなければならないから、これも一時の迷いなのだ。
 そう思うと、ため息を一つした後に、決心を決めた。
「ええい、ままよ!」
 よく小説なんかで使われる、どう使ったらいいか分からない台詞を吐きながら電気をつけた。

     


     

 するとソコには、黒い液状の物体が壁にへばりついてた。
「うぁっ!?」
 一瞬、そのおぞましさに後ずさりをしてしまう。
 すると俺の声に反応したように、黒い液状の物体に動きがあった。
「~~っ!!」
 この光景を前に、声にならない悲鳴を上げながら、腰を抜かす。
 そんな俺に、黒い液状の物体は何かの形に変わり……こちらに擦り寄ってくる。
 あまりにも現実離れした光景に、軽く意識が飛びそうになったが――
「……あ、れ?」
 しかしそれは、見間違うはずも無い。
 今日の俺が妄想で呼び出していた『第三の手』、そのモノだった。
 それが奇妙にも蠢き、ビクビクと痙攣しながらもこちらにゆっくり近づいてくる。
 それはB級ホラー顔負けの怖さがあったが、今の俺には違って見えた。

「うおおおおおおおおお!」
 口から、恐怖では無い歓喜の悲鳴が出る。
 目の前には確かに、脳内フィルターを飛び出した妄想では無い異物が蠢いている。
 本来なら吐き気を催すような奇形な汚物に視えるソレも、今はとても愛らしく見えた。
「凄い、凄いぞ!」
 こんな凄い事に、喜ばない方が嘘だ。
 蠢いて賢明にこちらに近づいてくる怪物を拾いあげると、確かに感触がある。
 粘りッ気があり、触り心地は最悪であるが……想像した通りだ!
「妄想じゃない」
 俺の生み出した侵略邪気眼が確かに姿形を持って現れた。
 みっともない事だが、新品のおもちゃを買って貰った子供のように喜んでいる自分がいる。
 だが、仕方の無い事だ。

 この現実は最早、俺の知っている現実ではないのだから。
 そう、今日この日。
 妄想が現実を侵略した。

       

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