Neetel Inside 文芸新都
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電波ポエム集
先年道化

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わたしは囚われてる
ここは劇場
その観客席に囲まれた鳥かごは
まるで古代ローマの剣闘士…
ここは現代のコロッセオのようだ

カーテンコールとともに
歓声が湧き上がりすこしだけ地面を振動させているような気分にさせる

前座の死体をくくりつけたカバ
出番は終わった、
彼のパフォーマンスは失敗に終わったようだ
観客席は冷え切っていた
深夜帯のコンビニの駐車場
車の中で眠る運転手達
そんな冷たさを空気伝いに感じる

わたしたち演者の仕事
それの失敗や成功はとても不確かなものだ
観客が喜べば成功…しかしそれはとても曖昧なもので数字で結果がでるような輪郭の明確さその境界線を持ち合わせてはいなかった

ただ確実にわかる事は間違いなくあのカバは演者として失敗したのだ

わたしたちは劇団に囚われた人形
成功しようが失敗しようが関係はない
成功したところで晩飯に色が足されるわけではないし
失敗したところで罰を受けるわけでもない

ただ逃れらない日常がそこにあった
もう何千年と外の世界をみていない
ただ観客の笑い声だけが外の世界の存在を確認する唯一の術だった

なぜ歓声を求めるのか…
わたしたちにもわかってはいない

最初の頃は猿芝居を演じるのに飽きてしまい
棒立ちで自分の出番が終わるのを待った日が
かつてとおい昔には私にもあった
ただ、そんな日々を続けてると摩耗する
意識が摩耗するのだ
目的や刺激のない日々は人格を殺してしまう
まわりの奴隷演者たちが廃人になっていく様をみてきた
だからわたしは自身を守るために
演技に打ち込むことにしたのだ

観客席からの熱と振動を求め
自身を奮い立たせて日々精進することが
自分の形を保つ唯一の方法だ

劇団の檻の中には鏡がない
観客の瞳に映るときだけが
自身の形を再確認させる

さて私の出番だ
観客席を沸かせるのに最も大切な事はひとつ
大きな声を出すことだ
私は大声で空氣話を語り歌った

観客席は湧き上がり
私の番が終わり幕は閉じた
そしてまた静かになった

静かな夜が

先程失敗したカバが私に話しかけてくる
「なぁ?観客席には本当に観客はいると思ってるのかい?」

自分がしらけた空気をつくり
客席を静寂にしたから
客の存在を感じることができなかったようだ

「たしかに君の出番のときだけ客はいなかったのではないのかね?声一つしなかったもんね…」

わたしはカバを慰めるために
冗談を吐いた

「あれは客なんてものではなく音に反応して笑い声を再生するスピーカさ」

そんなはずはない

馬鹿馬鹿しいと思った
わたしは檻の小窓から差し出される食料を腹に流し込み眠りについた


翌日またカーテンが開いた
ただの一日
わたしは昨晩カバの戯言にすこし思い出した

いつも通り大声で馬鹿げた歌を歌う
観客から数千の笑い声
幕の裏からこちらを覗くカバ
わたしは彼にそれみたことかと勝ち誇った顔をした

そしてわたしはできる限りの大声で
「「あーーーーーーーーーーーーーーー」」
と叫んだ
なるべく客席が困惑するように

観客は湧き上がり劇場は笑い声で包まれた

そんなはずはないのだ





       

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