Neetel Inside ニートノベル
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不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
8・初めてのインタビュー

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さらに次の日の夕方、僕はカミナリマガジン社の前に立っていた。

「気楽なインタビューですのでラフな格好でいらしてください」と澪奈さんからのLINEにはそう書いてあった。

とはいえヨレヨレのいつもの服ではさすがに失礼なので、新しく買ったサッカー生地のシャツにチノパンという格好で来た。

髪はオフ会前に切ったばかりだし、これでいいだろう。

そもそも顔出しはNGの人も多いようだから大丈夫だろう。

カミナリマガジン社の白亜のビルを見上げた。

さすが出版業界最大手だ。

入り口ではスーツ姿の男女が出入りしている。

それを見ただけで僕は萎縮した。

入ってキョロキョロしていると警備員さんが顎で受付を指し示す。

受付で
「あのカミナリマガジン編集部の田所さんを……」と聞く。

クールな感じの受付嬢が何か書き物をしながら
「失礼ですがお名前は?」と抑揚の無い声で言う。

「牧野ヒツジと申しま……」と言いかけた途端に受付嬢は立ち上がり血走った眼で僕を見つめる。

「っ!? 牧野ヒツジ先生ですか!?」

「え? はい」

「昨日、『雲海のフーガ』を拝読して泣けて笑えて感動して……一睡も出来なかったんです!」

カウンターを飛び越して抱きつきそうな勢いだ。

僕は
「あ……ありがとうございます。
あの田所澪奈さんをお願いします」そう言うだけで精一杯だった。

役員用という立派なエレベーターに乗せられて最上階まで案内された。

ポン

ドアが開くと澪奈さんが待っていた。

「先生わざわざご足労願いまして申し訳ありません」

澪奈さんは深々と頭を下げて立派な応接室に迎え入れてくれた。

「いえ、いいんですよ別に。バイトも今は暇ですし」

「先生はこれからは創作に全精力を注いでいただければいいんです。
バイトとか時間の無駄ですから」

「いえ、ポスティングの仕事は結構気に入ってて歩きながらだと色々とアイデアが湧くんですよ」

澪奈さんは僕の言葉を無視して
「では早速で申し訳ないのですが、少しスタイリストに手を入れさせてもらって写真撮影。
それからインタビューという段取にしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、お任せします」

「ではこちらに」と導かれた控え室の鏡の前に座ると、可愛らしい感じのスタイリストさんが髪を整えてくれた。

いつもは近所の理髪店のお爺さんに無造作に髪を切られるのだが、こんなに丁寧に扱われるのは初めてだ。

「いかがでしょうか」とスタイリストさんは僕の顔の横から鏡を覗き込んだ。

鏡の中の僕はいつもより数段よく見えた。

さすがプロだ。

スタイリストさんは
「先生って結構イケメンですよね?
服に合わせてイメージして整えたんですけれども、もう少し髪を切ったらより顔が引き立ちますよ」

顔なんか引き立たせなくていいのだが、せっかくそう言ってくれるのだから
「じゃあ、お願いします」と言うとスタイリストさんは手際よくさらにカットした。

「これが僕?」

鏡の中の自分は いつもと全然違っていた。

スタイリストさんは「これが本来の先生の姿なんですよ」と微笑んだ。

ガチャリ

澪奈さんが入ってきて
「先生もう、そろそろよろしいですか?」と僕に声をかける。

「え、やだ先生カッコいい……」と言い両手で口を塞ぎ、二三歩後ずさった。

一昨日よりもずっと潤んだ瞳で僕を見つめる。

僕は
「え、え?そうですか?」照れて恥ずかしがるだけで精一杯だった。

まぁ、こうやっていい気分にさせてインタビューをしやすくするんだろう。

けど、お世辞と分かっていても何だか嬉しいもんだ。

インタビューは何とかそつなくこなすことができた……つもりだ。

当たり障りの無い受け答えしか出来なくて担当の人には申し訳無いけど。

30分ほどのインタビュー終了後、横に控えていた澪奈さんは立ち上がって
「今日は本当にありがとうございました先生」と 頭を下げた。

「いえ、こちらこそ。質問に答えるのが精一杯で上手く話せたかどうか……すみません」

「とんでもない」

「それと僕の顔が写っている写真は使わないでください」

「いえっ! 使わせて頂きます!」

「な、なんでです?
顔出ししてもお互い利益はありませんから!」と必死で断った。

「確信しました。
先生! 女性読者獲得のためです!」

「お……おかしいですよ!
その理屈」

「これからはラノベも女性に売っていかなければなりません。一般女性層はラノベ市場の最後の未開拓地ですから」

「ぎゃ、逆効果でしょ!」

「作品を売る事については、わたくしはプロです!
大丈夫!お任せ下さい!」

澪奈さんの体育会系の熱気に押されて、それ以上は言い返せなかった。
もうどうにでもなーれだ。

まぁどうせ、こういう写真は小さいのが一枚載るくらいだし。

僕のバイトはポスティングだし別に支障は無いハズだ、たぶん。

「で、先生!もしこのあとよろしければお食事でもご一緒にいかがでしょうか?」

       

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