Neetel Inside 文芸新都
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エルディニアス戦記
第3章 思惑

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翌朝 王都イステム 王立墓地

まだ辺りは薄暗く白い靄のかかる早朝、ジェイムズは王都のはずれのある場所にいた。朝露に濡れる雑草を掻き分けていくと、多数の石製の十字架が規則正しく並んでいる場所に出た。
ここはウィンドラス王国の王立墓地、王国のために散っていった戦没者達を追悼する施設である。ジェイムズはさらにその列の中をゆっくりと歩いていく、霧で顔に水滴がつき、草花の露が足にまとわりつく。
なんとも冷たくて嫌な感覚である。「死というのはこんな感覚なのだろうか?」ジェイムズの頭の中をそんな不気味な考えがふとよぎる。やがて、ジェイムズは一つの墓の前で足を止めた。
「父上、どうか私と母上をお守りください。」
ジェイムズは墓の前に跪くと、手を合わせて祈りを捧げた。墓には「アルフレッド=イングラム」と刻まれている。
「アルフレッド=イングラム」、今は亡きジェイムズの父親である。アルフレッドもまた立派な騎士であり、王立騎士団の第5師団長として内乱の鎮圧に獅子奮迅の活躍を見せた。
やがて、王国議会議員の一人娘カトリーヌと見合い結婚をして、後にジェイムズが生まれた。当初は貴族の間では政略結婚だなどと揶揄されていたが、両親はとても愛し合っていたことをジェイムズは幼いながら感じていた。
しかし、アルフレッドは三百年戦争の開戦で再び出陣した際に、聖エカテリア修道院の防衛戦において戦死した。享年僅か38歳、ジェイムズが10歳の時であった。
カトリーヌは夫の死を知ってから、しばらくはショックで口も聞けないほどだった。だからこそ、カトリーヌにはアルフレッドの遺した大切な一人息子であるジェイムズを失いたくないという思いが強かった。
しかし、ジェイムズはイングラム家の跡取りとして騎士の修行を積むうちに、やがて父親の仇を討ちたい、なによりもこの国を守りたいという思いが強くなっていった。
こうしてジェイムズは戦いの中に身を置くことを決心したのである。カトリーヌはジェイムズが騎士になることに反対はしなかったが、内心はとても心配であった。
「父上、貴方の無念は晴らします。絶対に王国の領土を取り戻して見せます。その間母上をよろしくお願いいたします。」
ジェイムズは墓前に勝利を誓うと、カトリーヌの好きな向日葵の花を捧げた。そして、無言でその場を去っていった。

ルタリア平原 金獅子騎士団本陣

ルタリア平原は王都の南に広がるなだらかな平原である。一面に生える雑草と所々にある岩石以外は何もなく、視界を隔てるものが無いため見通しが非常にいい。
東側はバスティアンとの国境を隔てる山脈であるが、西側からは海風が崖から吹き上がってくるため、時折強風が吹き荒れる。この強風が唯一の戦いの妨げとなる。
ルタリア平原の北部では金獅子騎士団が着々と戦いの準備を進めていた。ジェイムズは馬に乗りながら、平原の様子を眺めていた。
「予想以上に見通しが良いな、こちらの動きが筒抜けじゃないか。これで奇襲戦法なんてとれるのか?」
ケヴィンがジェイムズの横に並ぶと尋ねた。
「大丈夫、見通しがいいということは、逆に言うと相手の行動も把握しやすいということさ。それに・・・。」
ジェイムズが口を開こうとすると、突然西の方角から突風が吹いた。
「うわっ」
2人はあまりの風に目を開けることもできず、腕で顔を覆ったままただ立ち尽くしていた。
「あ~あ、せっかく立てたテントが・・・。」
「こりゃもっと補強しないとダメだな。」
風がおさまると、物音と同時に団員達の声が聞こえた。
「あれを見てみろ、ケヴィン。」
ジェイムズは南の方を指差した。見ると、平原全体に砂煙が巻き上がっていた。砂煙は厚く、完全に向こう側が見えなくなってしまっている。
「突風が吹くと平原の砂が舞い上がって一時的に砂煙で覆われるらしい、少しは隠れ蓑になりそうだろ?」
「なるほど、こいつは使えるな。地の利はこっちにあるってわけか・・・。」
ケヴィンは不適な笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、この戦い、勝てる。」
ジェイムズは勝利を確信した。根拠は分からないが、何か確かな手ごたえを感じた。

ルタリア平原 サンクワルト常駐軍本拠地

「隊長殿~、大変です。先ほど密偵から連絡が入ったんですけども・・・。」
「何ですか騒々しい、貴重なティータイムを邪魔しないで下さい。」
平原の南にあるキャンプでは、隊長と呼ばれた黒いローブを着た中年の男が、椅子に座って暢気に紅茶をすすっていた。
「それが、ウィンドラスの金獅子騎士団が平原に現われたそうです。」
「なんですと!!」
男は動揺して手を滑らせ、ティーカップを落としてしまった。
「どうしましょう、スコット隊長殿。さすがに金獅子相手では分が悪いですよ。」
兵士はすがるような目で訴えた。
「とにかく、落ち着きなさい。敵の兵力はどのぐらいですか?」
スコットと呼ばれた男は兵士に尋ねた。
「密偵の情報によると、詳しい人数は分かりませんが、5部隊でそれぞれ100人程度らしいです。」
「ならば、相手が少数精鋭部隊といえども、兵力では我々が圧倒的に有利です。とにかく、速やかに迎撃の準備を整えなさい!!」
「了解しました。」
兵士は一目散に去っていった。
「全くどうなってるんですか、話が違いますよ。座って命令してるだけで報酬がもらえるという話だったのに。
カドゥケウス様に騙されましたかね・・・。」
スコットは椅子から立ち上がると、そんなことを呟きながら奥の部屋に消えた。

翌日 金獅子騎士団本陣

その翌日、本陣は朝から慌しかった。団員達は馬や武器の準備をしたり、鎧を着込んだり、戦の準備が着々と進行していた。
「敵はまだ動かないみたいだな。ならば、こちらから姿を見せて陽動する。」
ジェイムズと4部隊長は会議をしていた。
「アンドリュー隊を先頭に、次に私の部隊、殿をアレン隊で出撃する。ケヴィン隊とレベッカ隊は本陣に控えていてくれ。しばらくしたら出撃した3部隊は私の合図で引き下がる、そうしたら奇襲作戦を開始してくれ。」
ジェイムズの話が終ると、部隊長たちは静かに頷いた。皆緊張した面持ちであり、額からは冷や汗が流れている。
「では、アンドリュー隊とアレン隊は出撃するぞ!!」
ジェイムズの合図で、アンドリューとアレンは馬にまたがった。
いよいよ戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

       

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