Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

三日後…警視庁地下の射撃訓練場で射撃の訓練をする朝比奈の姿があった。
「お前が射撃訓練なんて珍しいな…。昨日のが、理由か?」
隣で射撃訓練をしていた元原が、朝比奈に問う。
「ああっ。」
元原と視線を合わさずに、的を見据えたまま、朝比奈は答えた。
「俺も、強くならなきゃ。…せめて、狙った所に当てられる程度には。」
的の中心に照準を合わせながら、何かに追われているかの様な表情で呟く。

その前の日…つまり、アウター4号を撃破した二日後、未確認生命体処理班に
上から一つの命令が下された。
『アウター4号を撃破した異形の戦士の真意を確認せよ。
 真意の確認が不可能な場合は、捕獲若しくは抹殺せよ。』
高梨は、アウター4号に関する報告書に、アウター4号を撃破した異形の戦士の事を
当然書かなければならなかった。
しかし、それでも異形の戦士の正体が真節であった事実を報告書に記載する事は、躊躇われた。
記載してしまえば、彼―真節 輝次―を未確認生命体関連の事件に再び巻き込んでしまう。
それは明らかだった。
だから、未確認生命体処理班の面々にも、アウター4号を撃破した現場で、真節輝次を
目撃した事は"無かった事"にする様にと内々に指示を出した。
しかし、その報告書を見た上層部が出した指示は、真節輝次の真意の確認又は捕獲か抹殺。
朝会で、その命令が全員に伝えられた瞬間、四課の室内に朝比奈の怒号が響き渡った。
「どういう事ですか、真意を聞く必要があるんですか?
 あの異形の戦士は…アウター4号と戦ってたんですよ。」
感情に任せて叫んだ朝比奈に、高梨は淡々と答えた。
「私達の敵を倒したからと言って、味方だとは限らないわ。
 あの異形の戦士にとって、アウターが敵だったから倒したと言う事実があるだけで
 敵の敵は必ずしも味方とは限らないのよ。
 それに、あの異形の戦士にとって、アウターが敵だったからと仮定したけれど
 私達は、あの異形の戦士がアウター4号を倒した現場に"偶然"居合わせたに過ぎないの。
 あの異形の戦士にとって、アウター4号だけが敵で、実は他のアウターは仲間だったとしたら?
 残酷な話だけど、未確認生命体関連の事例には、仮面ライダー同士が目的の違いから
 戦わざるを得なくなった前例(※2)もあるのよ。」
朝比奈は、言い返せなかった。未確認生命体対策班から引き継いだ資料及び、人類基盤史研究所
から未確認生命体処理班に提供された資料の中には、確かにそういった前例があった。
そして、朝比奈も当然それらの資料には目を通している。
高梨は、朝比奈が納得したものとして言葉を続ける。
「おそらく、上層部の狙いは…味方であれば協力を要請。
 敵であれば、抹殺だと思うけれど………。」
「抹殺なんてさせない…。例え、敵だったとしても。
 敵だったとしても、俺はあいつを止めてみせます。」
そこまで聞くと、朝比奈はそう吐き捨てて四課本部から飛び出した。

そして、それからずっと射撃訓練を続けていた。
ナスティベントを使っている時は、多少狙いが逸れてもダメージを与える事は可能だ。
だが、ストームジェネレーターを通常の銃として使う場合は、素早く正確な狙撃…
つまり、狙った所にピンポイントで当てつつ連射ができるのが理想だ。
時間をかけて照準を定めれば、初撃だけなら狙った所に当てる事はできる。
しかし、ストームジェネレーターは、狙撃用の銃ではなく、連射を前提に開発
されている銃なのだから、二発目三発目と間髪無く狙った所に当てるのは高度な技術が
要求される。
実際、動かない的を相手にしても連射で全てど真ん中に当てる事は朝比奈の銃の腕では
不可能と言わざるを得ない。
「俺は思うんだけどよ…。あの異形の戦士はきっと味方だぜ。
 …だから、無理して強くなる事を考えるよりも、あいつが味方だって信じて
 今、自分にできる事"だけ"をする方が、お前さんには向いてると思うぜ。」
左手をズボンのポケットに入れ、右手に持った銃を連射しながら、元原が呟いた。
元原の撃った弾は、全て的の中心付近に当たっている。
「俺に、できる事?」
朝比奈の銃を撃つ手が止まる。
「お前さんの銃の腕じゃ、限界は知れてる。
 俺みたいな狙撃のプロには決して及ばない。
 それよりは、筋力トレーニングとか…持久力をつけるとか、基礎体力向上のとか
 ライダーシステム装着時の基礎攻撃力を上げる訓練をする方が、お前さんにできる事
 なんじゃないか?」
銃に弾を込めながら、元原は続けた。
「………。」
朝比奈は、元原の言葉を聞くとその場に銃を置き、射撃訓練場を出た。

射撃訓練場の前の廊下を歩いていた館塙は、射撃訓練場から出てきた後ろ姿に声を掛けた。
「おやっ、朝比奈君。射撃訓練でもしていたんですか?」
名前を呼ばれ、ハッとして館塙の方に振り向く朝比奈。腕に、何かの資料の束を抱えた
館塙が、そこに立っていた。
「例の、異形の戦士と高梨課長がどういう関係か…知りたくないんですか?」
「アウターとのファーストコンタクト(初遭遇)の時の…犠牲者の兄………らしいですね。」
アウター4号撃破の後、四課本部に戻った際に、高梨から説明は受けた。
だから、特務武装研究所までわざわざ出向く必要も無い、と考え…特務武装研究所には
行かなかった。
「ええ、しかし…高梨課長が知っていたのはそれだけでした。
 彼が、異形の戦士に"変身"する力を持っている事と、何故"変身"できるかの二点を
 彼女は知らなかったし、知るべきでは無かった。」
意味ありげな言葉を発して、館塙は朝比奈に歩み寄る。
「課長に話したんですか?
 何故、"変身"できるかを。」
「まだです。
 ただ、時が来れば話しますし、貴方は先にそれを知っておくべきだと思います。
 彼もきっと、貴方と同じ"仮面ライダーの資格"を持つ存在だから。」
すれ違いざまに、朝比奈と館塙は、そう言葉を交わしていた。
「仮面ライダーの………資格?」
それが、自分にはあったのだろうか…?
そもそも、何故自分がライダーシステムの適合者だったのだろうか?
ライダーシステムの適合者とは、その資格を持った者の事なのだろうか?
その資格がある人間に、ライダーシステムが使えるとすれば…真節にも
ライダーシステムは使えるのだろうか?
その資格とは、一体何なのだろうか?
頭の中を様々な疑問が行き交う。
朝比奈は、廊下の奥にある特務武装研究所に入っていく館塙の後ろ姿を、そんな疑問を
抱えたまま見つめていた。

       

表紙
Tweet

Neetsha