Neetel Inside 文芸新都
表紙

仮面ライダー閃光<グランス>
第一話「ライダーシステム」

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『―――それは、神の気まぐれか―――
  ―――それとも、人類に与えられた宿命か―――』

近年、この地球には、様々な怪異が人知れず起こっていた。
様々な怪異は何故か、アジアの極東地区に集中的に発生する傾向にあった。
2000年に発生した、未確認生命体(グロンギ)の手で行われた、多数の殺人事件。
2002末~2003年初頭に発生した、鏡の中から出現した未確認生命体による
人類襲撃。
2003年に発生した、2000年に出現したのとは異種の未確認生命体"アンノウン"
による数々の不可能犯罪。
アンノウンの出現と同時期に確認された、ESP(超能力)を持つ人間や、
死亡確認が為された後に蘇生し、異形へと変化する人間
"蘇生隊(オルフェノク)"の出現。
2004年末~2005年初頭に突如出現した未確認生命体が、人間に危害を加える事件。
そして、妖怪を退治する鬼の話…。
それらの怪異は全て、これから起こる怪異を引き起こす為の
引き金だったのかも知れない。

仮面ライダー閃光<グランス>

第一話「ライダーシステム」

「これが、五日前に出現した、6号です。」
何処かの建物の中の、広く…そして暗い会議室にその声が響き渡った。
「三ヶ月で6体か、しかも次第に出現感覚が狭まっている。」
スクリーンに映った怪物の姿に、会議室に居る人々が声を上げる。
「前回の様に"G-6"(※1)による殲滅作戦が展開されましたが…。」
「やはり逃げられた、と。」
「残念ながら。」
スクリーンの前に立った女性は、スクリーンに見入る人々に
深々と頭を下げながら答えた。
「未確認生命体とも、アンノウンとも、蘇生体(※2)とも異種なる、影から
 出現し人を襲う化け物…忌々しいものだ。」
「今まで襲われた被害者にも、共通点は無し…無差別殺人と言う事か。」
「残念ながら、等と他人事の様によくもまあ。」
会議室にざわめきが流れる。
「1号を確認してから三ヶ月、君達は、何をしていたというのだ?」
「今までに撃破できたアウターは一体もいない、ただ犠牲者が増えていくのを
 指をくわえて見ていたとでも答えるのかね?」
向けられた怒号に、内心では苛立ちを覚えながらも、それを表情に出さずに
女性は淡々と言葉を続けた。
「この三ヶ月間に出現した"アウター"(※3)から得られたデータと、
 ライダーシステムの説明を館塙雄志(たちばなひろし)特殊武装研究員から
 お願いします。」
スクリーンに映し出された映像が消え、スクリーンの前に立っていた女性が降壇し、
代わりに館塙と呼ばれた眼鏡の男が、壇の上に上がってくる。
「特殊武装研究員の館塙雄志です。これまでに出現したアウターから
 得られたデータと、対アウター武装として開発したライダーシステムについての
 説明をさせて頂きます。」
館塙が話し始めると、会議室は急に静まりかえった。
スクリーンに、映像が映し出される。
夜の工事現場に出現した異形を、G-6を装着した複数の人々が取り囲み
グレネードランチャーを浴びせている所で、映像は停止された。
「これは、二ヶ月前に出現した2号に対して"GG-02-D"(※4)を使用した際の映像です。
 GG-02の威力は、先年のアンノウン事件の際、アンノウンを撃破した事で実証済みですが。
 それの改良型であるGG-02-Dの集中砲火を受けても、アウターの撃破は不可能でした。
 ………次に、こちらの映像をご覧下さい。」
暫しの沈黙を挟んで、館塙が言葉を続ける。
その言葉に合わせて、スクリーンに別の映像が映し出された。
G-6を装着した複数の人々が異形に対してガトリングガンを浴びせている。
「こちらは、一月前に出現した4号に対して、"GX-05-S"(※5)を使用した映像です。
 この際は、4号に対して致命傷を負わせる事に成功しています。
 GX-05の威力は、先年のアンノウン事件の際に数体のアンノウンを
 撃破している事で実証済みですが、それの改良型であるGX-05-Sの威力で、致命傷を
 負わせるまでしかできませんでした。
 結果的に、このアウターは影の中へ消えるという手段で逃亡しています。」
「だが、致命傷は与えられた、という事だな?」
一番前の席に座った、いかにもお偉いさんである様に見える人物が、問いかける。
「ええ、総監殿(※6)致命傷は与えられました…致命傷は与えられましたが。
 逆に言えば、このクラスの武装を複数の人間が一斉に使用するのと同程度の
 威力を一撃単位で与えられる武装でなければ、アウターには歯が立たない
 ということです。」
再び、会議室内がざわめき立つ。
「アンノウンですら撃破できた武装の改良型が、傷を負わせる程度の
 役にしか立たないとは由々しき事態だ。」
「そんな高威力の武装を開発するのにどれだけの年数がかかるんだ…。」
「静粛に、お願いします。」
そのざわめきを遮る様に、館塙の声が大きく響いた。
「その問題を解決する為に、我々特殊武装研究員は民間団体、"人類基盤史研究所"
 通称"ボード"(※7)と共に、研究に研究を重ねてきました。
 その成果が、Gシリーズの究極系とも言うべき、"ライダーシステム"です。」
モニターに、何かの設計図が映し出される。
「G3-X、G4に導入されていた、戦闘指導用AIに改良を加えた物を導入した
 最新式のGシリーズ。
 G3-Xの実践投入の際問題とされていた、強化服の移送と現場での装着時間
 これらの二点を解決する為、 元素固定式形状記憶機構を使用し、ベルトの中に
 元素配置のデータのインプットと、装甲素材元素を 高密度圧縮させた物を
 内蔵させる事で、装着員が必要に応じて装着できるシステム。」
館塙の説明に合わせて、設計図の部分部分が拡大されてスクリーンに映し出される。
「また、ヘルメットには未確認生命体処理班との連絡が取れる様に周波数を
 合わせた無線と、本部及び仮設本部車へ映像がリアルタイムで送られる
 カメラを内蔵。
 これによって、装着員は現場でアウターと交戦しながら、離れた距離にいる
 仮設本部及び本部の人間から判断や指示を仰ぐ事ができます。」
会議室に居る誰もが最新兵器の説明に息を呑む中、館塙は説明を続ける。
「また、これ以上の威力の向上は難しいと言われたGG-02-DやGX-05-Sを上回る威力の
 小型武装を、強化服装着時にオプションとして装備させてあります。」
ライダーシステムのベルトに付けられた銃の部分の設計図が拡大して映し出された。
「このシステムの完成には、どれぐらいの時間を要する?」
館塙に、総監殿と言われた人物が再び問いかける。
「既に、システムと強化服は完成していますが、AIの特性上装着できる人間が
 非常に限定されます。」
スクリーンの映像が切り替わり、三人の人物の写真と、詳細が映し出された。
「警視庁に人多しと言えど…装着できる適合候補者は、この三人しか
 選出できませんでした。」
その三人のデータが、一人ずつ、代わる代わる拡大表示された。
島田光孝、朝比奈光一、木檜浩介
「この中で一番、ライダーシステムの装着者として適任なのは誰かね?」
総監殿と言われた人物からの問いかけに、館塙は、一人の人物のデータを
スクリーンに映しながら答える。
「極秘に適性試験を行った結果では、最も適任なのは―――――――――。」


その日、俺は急な転属命令を渡された。
神奈川県警の大都市の警察署の捜査一課(殺人捜査)に
配属されてから一年、今までに関与した殺人事件は三件…
配属されて一年で三件と言えば多い方だろう。
今抱えてるのは、四件目の殺人事件の捜査…。
被害者の女性には、子供がいた。
「ねえ、おじちゃん…ママを殺した人、本当に捕まえてくれるの?」
捜査のために被害者宅を訪れた日、被害者のまだ幼い一人娘が
目に涙を溜めながら呟いた言葉に、俺は心臓を締め付けられる様な辛さを感じた。
長いことやっていれば、こういう悲痛な声にも慣れてくるのだろうか…。
時々頭の中でそんな事を考えながら、犯人の情報を得ようと現場を調べたり、
目撃者への聞き込みをする。
そんないつもと変わらない今日だった。
昼下がり、何の情報も得られずとぼとぼと署に戻ってきた俺は、捜査一課の
課長に呼び出された。

「急な話だが、君に出向命令が届いている。
 明日中に荷物をまとめて、明後日から出向先で勤務して欲しい
 というのが先方の申し出でな。」
「で、ですが今俺が担当している事件は、どうするんですか?」
あの子の為にも、絶対に犯人をこの手で捕まえたい、そんな俺の想いを
察してか、課長が答えた。
「本庁の、警視総監直々の出向命令だ…逆らえば、クビにされても文句は言えないぞ。」
警視総監って奴は何の意図があって俺にこんな理不尽な出向命令を出してきたんだ…。
到底納得できる訳がない。
「朝比奈光一刑事、明日付けで、神奈川県警捜査一課から
 警視庁特務四課への転属を命じる。」
課長が、そんな俺の想いを遮るように言い放つ。
「………」
黙って俯いている俺の肩に課長の手が置かれた。
「大丈夫だ、このヤマのホシは俺達が必ず捕まえてやる。
 お前がいなくても、お前の分まで、俺達があの子の想いに応えてみせるさ。」
課長の言葉に、僅かに、本当に僅かにモヤモヤが晴れた気がした。

「お願いします、課長。」

俺は、両手を握りしめながら、体の中の全ての力を出し切るかの様に叫んだ。


「例の適合者、明後日からこちらに配属になる様に手配したそうです。」
警視庁の建物の一室、紅茶の入ったティーカップを、女性が使っている
机の上に置きながら館塙が口を開いた。
「……その適合者君が加わって、キチンとアウターを撃破できればいいんだけどね。」
女性は、机の上に置かれたティーカップを手に取りながら溜め息混じりに答える。
「お偉方は、結果を出さないと納得してくれないし。」
「多分、最初の一体では結果を出せないと…思いますよ。」
館塙は到ってマイペースだ。
「どういう事よ、………館塙君、まさか貴方ライダーシステムに
 私達も知らない内に何か変な武装仕掛けたりしてないでしょうね?」
館塙の意味ありげな言葉に何かを感じて、その女性は少しきつめの口調で問いつめる。
しかし、館塙は全く怖じ気る様子もなく
「いえいえ、変な…ではありませんよ。ただ、今のライダーシステムは本来の性能の
 10%も引き出せない未完成品だって事です。うまくいけば、アウターとの
 初めての戦いで本来の100%の性能を出せる様になる………かも知れませんけどね。」
ティーカップをそっと机の上に置くと、女性は力任せに机を叩いて怒鳴った。
「かも知れないなんて、ふざけないでよ、館塙君…。」
「は、はい……高梨課長。」
少しの間を置いて、小さく呟く様に答えた館塙の表情からは、少し怯えているのが
見て取れた。


その日の晩、俺は署に残り机の整理をしていた。
「本当に、…急な転属命令だな…。」
体の芯から気力が抜けていく様な気がする。
せめて、あの子の為にも犯人を捕まえてから、出向先へ行きたい。
そんな想いがどんどん溢れてきて目から汗が流れてきそうになる。
「くそっ!」
そんな気持ちで片付けをしていても、捗(はかど)るはずがない。
俺の携帯の着信音が鳴ったのは、その時だった。
この着信音は…課長か。
「はい、朝比奈ーーー!」
ふて腐れた声なのが自分でも解ってしまう声で電話を取った俺の耳に
飛び込んで来たのは課長の息切れした声だった。
「えっ、何ですって!例のヤマのホシを見つけた!解りました…
 すぐ行きます。場所は?」

* * * * * *

「元原君………この時の事、覚えてる?」
警視庁がアウターと呼称する異形の一体目…つまり1号と遭遇した時の
事件の資料を机の上に広げながら、高梨はアウター事件の資料と睨めっこ
している元原刑事に声をかけた。
G-6装着員の一人でもある彼は、高梨と目を合わせない様にしながら呟いた。
「覚えて…ますよ。いえ、忘れられません…あの叫びは。」
三ヶ月前、夜の町で突如人の影から出現した異形は、その場に居た一人の
女性を影の中に取り込んだ。
残されたのは、その女性の左腕だけだった。
目撃者からの通報で警察が駆け付けた時には、異形の側に、大怪我をした
男性が一人倒れていた。
警察では歯が立たず、警官も二人犠牲になった。
目撃者の証言に、「化け物」と言う内容があった事、現場の状況から
人間に起こせる事件では無い事から、未確認生命体による事件であると
判断され、直ぐに特務四課の管轄へと回された。
その日の内に、影に飲み込まれた女性の遺留品から女性の身元が判明し、
異形の側で倒れていた男性がその女性の兄であった事も判明した。
高梨には、元原や、他の未確認生命体処理班の人達と事情聴取を兼ねて
見舞いに行った時の男性の表情が今も強く印象に残っている。
「あの化け物は何だったんだ!
 お前達がもっと早く駆け付けていれば、彩菜(さいな)は…。」
憎しみを込めた目で高梨達を睨みながらそう言った男性の事が、高梨には
その場から逃げ出したくなる程辛い物だった。
でも、例えあの時私達がもっと早く駆け付けていたとしても、何ができただろう…。
何も出来なかったかも知れない、今でさえ、アウターを撃退まで追いつめた事は
あっても撃破できた試しは一度も無いのだから。
「真節(まぶし)………輝次(てるつぐ)……か。」
高梨は、影に飲み込まれた女性、アウター事件の最初の被害者…"真節彩菜"…
の兄の名前を呟いた。


小雨が降る中、俺はあの子の母親を殺害したホシの車を追って、覆面パトカーで
港を走っていた。
反対側から課長達の乗ったパトカーが走ってきて、ホシの車を挟み撃ちにする予定だ。
ホシの車の向こう側に、赤いランプを点滅させながら走ってくる三台の車が見えた。
「容疑者に告ぐ、容疑者に告ぐ、今すぐその車を停止しろ。」
課長が拡声器で容疑者に車を停止する様に要求する。
挟み撃ちにされて観念したのだろうか、容疑者の車が止まった。
課長達のパトカーが、容疑者の車の眼前に止まり、俺の覆面パトカーが、容疑者の車の
真後ろに止まった。
課長がパトカーから降りると悠然とした足取りで、容疑者の車に近付き、容疑者に
車から降りる様に促す。
言われるままに車から降りてきた容疑者は、まるで抜け殻の様に脱力していた。
「朝比奈、お前が手錠をかけるんだ。…お前の、ここでの最後の仕事だ。」
課長…すみません、俺、俺…。
俺は課長に言いたい言葉を飲み込んで、容疑者に近付くと手錠をかけた。
「な、なんで…俺なんだ………なんで、俺が、捕まらなきゃならないんだ……
 たった一人………殺っ…た…だけなのに…よお。」
力無くブツブツと呟いている容疑者…その容疑者の呟きが、俺には許せなかった。
俺は、手錠のかかった容疑者の胸ぐらを掴むと叫んだ。
「バカヤローッ、何がたった一人殺しただけ…だ、何がたった一人殺しただけ、だ。
 その人には子供が居たんだぞ、その人の子供が泣きながら、俺達にこう言ったんだぞ!
 『ママを殺した人、本当に捕まえてくれるの?』って泣きながら、俺達に………。
 一人の人間の生命がどれだけ重い物だと思ってるんだ…。
 一人の人間が死ぬって事はな、その人の周りの全ての人に辛い想いをさせちまう事
 なんだぞ。」
ぶん殴ってやりたかった。いや、ぶん殴ろうとしていた。
そんな俺の右拳を、課長の手が抑える。
「よせ、朝比奈………こいつを裁くのは、俺達じゃない………。」


突如、室内に警報が鳴り響く。
「これは…」
高梨が呟いた。
アウター出現警報。
アウターが出現する直前には、必ず出現地点周辺で大きな磁場の歪みが発生する。
その磁場の歪みを、事前に察知する事でアウターの出現を予測し、アウター出現前に
現場に行ける様に、また、アウター出現後でも迅速に現場に行ける様にと特務武装研究所と
人類基盤研究所の共同で開発されたアウターサーチシステムだ。
人類基盤研究所がかつて開発した"アンデッドサーチャー"(※8)の技術を
アウター用にカスタマイズした物でもある。
「特務四課"未確認生物処理班"出動します。」「了解!」
高梨と、部下達の声が室内に響く。
警視庁地下の車庫に格納された特務四課の移動式仮設本部車、通称"ライドベース"(※9)
に乗り込み、ライドベース内備え付けのパソコンに表示されたアウター出現予測地点を
チェックする高梨。
「場所は、神奈川の港の倉庫区画。地図をナビに転送します。」
ナビの指示通りに、ライドベースがサイレンを鳴らしながら走り出した。


それは、突然の事だった。
容疑者の車の影の中から、異形の怪物が出現したのだ。
まるで地面から浮き上がってくるかの様に。
「な、何だ、この化け物は!」
俺達には驚いている間も無かった。
巨大な蝙蝠の様な怪物は、その場に浮遊している。
…怪物の影に容疑者の体が飲み込まれていく。
まるで、底なし沼に沈んでいくかの様に。
「う、…あ…ぁあ!」
容疑者の苦痛の声が聞こえる。俺は、目の前の現実なのかさえ疑わしい光景に、金縛りに
あった様に動け無かった。
「逃げろ、朝比奈!」
突如、課長の声が聞こえ我に返った俺は怪物から逃げる様に走り出す。
怪物の影の上に居たら、あの容疑者の様に、影に飲み込まれてしまう。
蝙蝠の怪物に対して、課長が後ずさりながら拳銃を撃っていた。


夜の道路を、猛スピードで駆け抜けるバイクの姿があった。
バイクの後方からサイレンの音が聞こえ、バイクの持ち主は一旦バイクを
止めるとサイレンの主、ライドベースに道を譲る。
「未確認生命体処理班…か。」
ライドベースがバイクを追い越して行った後、、ライドベースをを追う様に再びバイクを
猛スピードで飛ばし始めた。


「うわあああっ!」
同僚の悲鳴が上がる。
俺は、蝙蝠の怪物の影に飲み込まれていく同僚の手を掴んだ。
「佐藤刑事っ!」
俺の手を振りほどいて佐藤刑事は叫んだ。
「逃げるんだ、朝比奈。」
みるみると影に飲み込まれていく佐藤刑事。

その時だった、警視庁の巨大な特殊車両が現場に駆け付けたのは。

特殊車両から降りてきた人達は、見慣れない金属製の鎧の様な物を身につけている。
それぞれが、巨大な銃火器らしき物を抱えている。
そいつらは、蝙蝠の怪物を包囲すると銃火器を浴びせ始めた。
一体、こいつらは何なんだ…そんな疑問が頭の中を過ぎり、呆然と怪物とそいつらの
戦いを眺めていた俺の後ろから、不意に、声がした。
「警視庁コード、アウター2号。影の中から出現し、自らの影の中に生物を取り込む
 異形の怪物よ。」
「アウター…2号?」
「初めまして、朝比奈刑事…予定より一日と少し、早いけどね。
 あ、貴方の上司はこちらで保護、避難誘導しておいたわ。」
「あ、あんたは?」
「高梨刑事…警視庁特務四課、正式名称"未確認生命体処理班"の課長。」
警視庁特務四課、聞き覚えがある。当然だ、明後日から俺が配属される課の名前だ。
つまり、こういう化け物と戦う課が、俺の転属先だったのだ。

「でも、何故俺なんです?」
素直に疑問を口にした俺に、彼女は顔色一つ変えずにこう答えた。
「いい質問ね。貴方が"適合者"だったから…システムの。」
「適合者、システム…一体何なんですか?」
訳の分からない単語を交えて答える彼女に、怪訝な顔をする俺。
そんな俺の反応を遮り、彼女は手に持った小さな箱の様な物を俺に渡す。
「ベルトよ、それを腰の辺りに近づけてスイッチを押して。」
言われた通りにすると、箱から何かが伸び、俺の腰の周りに巻き付く。
「な、何ですか…これは。」
俺の疑問を聞いているのか、聞いていないのか、彼女は言葉を続けた。
「警視庁が開発した対未確認生命体用特殊強化服、その中でも最新型にして
 最高の技術の結晶……ライダーシステム……。
 それだけに、装着できる適性を持った人が限定されてしまったの。
 その適性を持った人が貴方だった…だから………。」
それで、急に転属命令が出たのか、これの装着適性を持ってる人間が、偶然俺だったから。
「そのベルトを付け終わったら、『変身』って叫んでバックルの右端のスイッチを
 引っ張って。」
言われるままにバックルのスイッチを動かしながら、俺は叫んだ。


『 変 身 』


「Turn up(ターンアップ)」

バックルから機械的な音声が聞こえ、目の前に俺の身体より少し大きなプラズマ状の
四角いフィールドが浮かび上がる。
そのフィールドが、俺の方へとゆっくりと向かってくる。
俺の身体が、プラズマ状のフィールドをくぐり抜けた瞬間――――――
金属製の何かが俺の身体を包み込みんでいった。
「初めまして、朝比奈刑事…私の名前は館塙です。貴方の後ろの特殊車両の中から
 指揮をとらせて頂きます。」
声が聞こえてくる。
「強化服に内蔵された通信機を通して、話しをしています。
 また、その強化服に内蔵されたカメラで、今貴方が見ている物がこちらでも
 確認できる様になっています。」
やらなければいけない事は解っている。そして、きっとその為の力がこの強化服には
あるのだろう。
でなければ、ここで予定より早くこれを俺に渡した意味がない。
「ベルトの右腰に銃がついているのが解りますか?」
館塙と名乗った男の声が強化服の使い方を説明してくれる。
普通の拳銃より少し大きめの銃が、ベルトの右腰についている。
「その銃には、現時点では通常弾しか入っていません。また、現時点では、その強化服は
 本来の力の10%程度の力しか発揮できません。」
…そんな未完成品使わせる気だったのか。でも、四の五の言っていられる状況ではない。
俺は銃を斜め上に構え、上空に浮かぶ蝙蝠の怪物に弾を撃ち込む。
大勢の人間が巨大な銃火器から攻撃を浴びせているのに大して効いている様子の無い
化け物に、少し大きめな拳銃程度の武器の攻撃が加わったところで、何も変わらない。
「こんな武器で…。」
そう言いかけた俺に、通信機を通して館塙の声が聞こえてくる。
「まったく、人の話は最後まで聞いて下さい。今現在、G-6部隊がアウター2号を
 弱らせています。
 その銃のグリップの辺りに、カードが収納されているのが解りますか?」
館塙の説明が続く。言われた様に、銃に13枚のカード一枚一枚を収納するケースが
扇状に付いているのが解る。
俺は、銃を撃つ手を止め、そのケースを開いた。
「その中に、入っているカード。"ジェネレートカード"(※10)と言うカードです。」
「ジェネレートカード………。」
「1から10までの番号の書かれたカードと、J、Q、Kと書かれたカードが
 あるのが解りますか?」
ケースに入ったカードに目をやる。
トランプの様に、2から10までの番号とA、J、Q、Kの書かれたカードがある。
どのカードにも、半分ほどのスペースに四角い枠が描かれているが、枠の中は
どれも紫色の渦が描かれているだけだ。

銃火器の集中砲火を浴びていた蝙蝠の異形―――アウター2号が、集中砲火に
耐えられなくなったのか、その場に落下した。
轟音が響き、地面が少し地震の様に揺れる。
地に落ちた蝙蝠に、更に集中砲火を浴びせる、金属製の鎧に身を包んだ人々…。
彼らが、おそらく特務四課の隊員なのだろう。
集中砲火を浴びながら、再び飛び上がろうともがく蝙蝠の異形。

「Aの数字の振られたカードを出して下さい。」
言われるまま、Aの数字の振られたカードをケースから出して、手に取る。
「Aのカードは、異形と封印する事で2から10までのカード及びJ、Q、Kのカードに
 異形の力を付与する、謂わば起動キーの役目を果たすカードです。
 そのカードに、アウター2号を封印して下さい。」
封印と言われても、どうやって封印すれば良いのか解らない。
戸惑っていると、それを察したかの様に館塙が説明を追加した。
「アウター2号に、そのカードを投げつけて下さい。」
特務四課の隊員が、アウター2号に銃火器の集中砲火を浴びせている後方から俺は
銃を2,3発、異形目がけて撃つ。
命中したのか俺の存在に気付いたのか、アウター2号の顔が俺の方を向く。
「今だ!」
左手に持っていた、Aのカードをアウター2号に向けて投げた。
投げたと言うよりは、手から離れたカードが勝手に手裏剣の様に回転しながら
アウター2号目がけて飛んでいった、と言った方が正しい気がする。
Aのカードが、アウター2号の頭に刺さる。
次の瞬間、アウター2号の体が白い光を放ち、その場から消えていく。
光が消えると、アウター2号が居た場所には、カードが一枚浮かんでいるだけだった。
そのカードが、手裏剣の様に回転しながら、俺の手元に戻ってくる。
カードを見ると、さっきまで紫色の渦しか描かれていなかった四角い枠の中に紫色の
渦を背景に、アウター2号の姿が描かれていた。
「封印、完了です。」
館塙に言われて他のカードを見ると、他のカードもそれぞれ四角い枠の中に、紫色の
渦を背景に何かの絵が浮かんでいる。
どうやら、このカードに異形が封印される事で、カードデッキ内の他のカードに
蝙蝠の異形の特性を持つ各種能力が浮かび上がるらしい。
「これから先、アウターが出現したら、ライダーシステムを装着して戦うのが
 貴方の使命よ。」
高梨刑事が、俺を見ながら言った。
俺は、知らなかった、こんな異形の怪物が現れて、人を襲っている事を…。
そして、今は知ってしまった…それと戦うための力に、俺が選ばれた事を。
この力で、一人でも異形の犠牲になる人を減らせるなら………………俺は。


アウター2号が出現した現場から少し離れたビルの屋上から、未確認生命体処理班と
アウター2号の戦いをじっと静観していた男がいた。
ライドベースがサイレンに道を譲ったバイクに乗っていた男だ。
男の腰には、不思議な幾何学模様の装飾の施されたベルトが巻かれていた。
「ヤツでは…なかったか。」
その男は、三ヶ月程前に妹を亡くしていた。
その男は、三ヶ月程前に未確認生命体処理班の人々を憎しみに満ちた目で睨んでいた。
その男の名は…真節 輝次。

第一話「ライダーシステム」END

       

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