Neetel Inside ニートノベル
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ハーデンベルギアの花言葉
◆3話(1-3)

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 ミカゲとラズが剣の鑑定で盛り上がっているなか、カツマは2人をにらみつけながらザザに問いかけた。

「……あいつ、あの場所から動いたか?」

「いや、ずっと見てたけど一歩も動いてないよ。一瞬であの子と剣があの人の手元に移動したみたいだけど……」

 ザザの言葉に反射的に彼の視線がザザに向けられる。

「一瞬でって。どんだけ素早いヤツなんだ!?」

「うーん……素早いって言うより瞬間移動っぽかった気がするけど……」

 そう言うとザザは腕を組んで考え込んでしまった。
 目の当たりにした光景を思い浮かべて自分なりに答えを導き出したいようだ。
 しかし、いくら考えても答えは見つかりそうにない。

 カツマは再びミカゲをにらみつけた。

「あのガキは『スキル・鳥』の獲得者だし。あいつもなにかスキルを持ってるのかもな……」

 と、そこまで言った彼はハッと気付きミカゲに向かって大声を上げた。

「……てかおい、コラァ!!俺の剣を返せっ!!」

 その怒鳴り声が聞こえていないのか、それとも無視を決め込んでいるのか2人の会話は途切れない。
 ミカゲは剣を振り回しながら得意げに語る。

「そうだな……売れば300万ってとこか。作られて200年以上は経っているな。それにこの飾りは大したもんだ」

「へぇ~そんなにすごいんだ。よく見せてよ」

 ラズはその値段に感心して、まじまじと剣を鑑賞した。

「お前ら!!人様の剣を勝手に鑑定してんじゃねぇ!!」

 所有者を無視して鑑定をし続ける2人の様子に、たまらず突っ込むカツマ。
 ようやくミカゲとラズは顔をあげ彼を見た。

「で、あの山賊どうしようか?ミカゲさん」

「ああ、そうだったな。剣に夢中で忘れてた」

 頭を搔きながら面倒そうにそう言うミカゲ。

「だから山賊じゃねぇって!!」

 カツマがそう言った瞬間。

 少し離れた距離にいたミカゲの体が、一瞬のうちに彼の目の前に現れた。
 と同時に剣をぴたりと首筋に付けられ全く身動きが出来なくなってしまったのである。

 カツマはその素早さに目を見開き、驚きの表情で固まった。


 まただ。こいつ、一瞬で移動しやがった!!


 今度は油断していなかったので自分でも確認できた。
 ミカゲが動くそぶりもなく、いきなり目の前に現れるさまを目の当たりにしたのだ。

「カツマっ!」

 ザザもその一瞬の出来事に驚き、真っ青になってそう叫んだ。

 さっきまでラズと談笑していた雰囲気を一変しているミカゲ。
 カツマを上目遣いににらみつける。

「お前、剣士か。この剣をどこで手に入れた?」

「これは……、オヤジの形見だ」

「オヤジ?」

 カツマの答えに少し驚き、ミカゲはまじまじと彼を見た。
 そして遠い記憶の片隅にある人物と、目の前のこの男を見比べて大体の察しがついた。

 形見……そういうことか。

 ミカゲはフッと笑う。

「……ふーん。ま、お前がそう言うなら、そういうことにしてやるよ。なんとなく似てるしな」

「?……似てる?」

 カツマは眉間にしわを寄せて聞き返した。
 しかしミカゲはその疑問に答えず、彼の首筋に剣を当てたまま今度はザザに向かって口を開く。

「おい。そこの図体のデケェお前!」

「はっ!?俺っ!?」

 いきなり自分に話しかけられ不意打ちを食らったのか、あせってうろたえるザザ。
 ミカゲは構わずに続ける。

「お前はなんだ?チカラ自慢か?」

 その質問に、ザザは両手を前に突き出し首を横に激しく振った。

「おっ……俺は医者だっ」

「あ?医者?……職業なんて聞いてねぇよ」

 ザザの回答に納得出来ず、ミカゲは真っ直ぐに彼を見て語気を荒げた。


 しめた!!


 興味がザザに向いたのを見計らって、カツマはミカゲの隙を突いた。

 いきなりしゃがみ込み、不意を突かれて驚くミカゲの手をはたき、手から離れた剣を見事キャッチした。
 そうして強引に剣を奪い返したのである。

 カツマが剣を取り戻した瞬間、ミカゲの表情が一変した。
 眉間にしわを寄せて明らかに憤りを感じている様子だ。

「やっと戻ったぜ。俺の剣」

 剣をしっかりと握り、安心した表情でカツマは言った。

 その刹那



「痛っ!!!」



 いきなりカツマの脇腹に激痛が走った。
 見ると、取り戻したはずの剣が脇腹に刺さっている。

     


     

 その剣を操っているのは、もちろんミカゲ。
 またしても一瞬でカツマから剣を奪ったのである。

「お前うぜぇな。引っ込んでろ」

 顎を上げてカツマを見下しながらそうつぶやくと、ミカゲは勢いよく剣を抜いた。
 その瞬間、傷口から大量の血が噴き出す。

「うわあああっっ!!!」

 その激痛に叫び声を上げながら、血が噴き出る脇腹を押さえてひざをつくカツマ。

「なめんな。一瞬で殺せんだよ、お前らみたいなザコはな」

 その場にしゃがみこんだカツマを見下ろしながら、ミカゲはそう吐き捨てた。

「ううっ……」

「大丈夫かっ!?カツマ!!」

 大量の血を滴らせながら激痛に顔をゆがめ、うめき声をあげている。
 そんなカツマを見てザザは真っ青になって駆け寄った。

 と、その時。

 ザザは首筋にゾクッとするほどの冷たいものを感じた。

「……えっ?」

 目を見開いた驚きの表情で恐る恐る肩に目をやるザザ。
 彼の視界には血の匂いがするカツマの剣があった。

 気付けば彼のそばに立っていたミカゲがいない。
 ザザは後ろに回り込まれて首筋に剣を突き付けられているのだった。

「おい巨体。まだ質問に答えてないだろ。お前は、何が出来る?」

「おっ……俺は!たっ、ただの医者だ……!」

 ガタガタと恐怖におびえ声を震わせながらザザはそう答えた。

 どいつもこいつも面倒くせぇ。
 ミカゲはそう思い、委縮してやや小さく見える後ろ姿をにらみつける。

「なぜ隠す?正直に言わないと殺すぞ」

「本当だっ!!!俺は人の怪我を治すことしか出来ない!!!」

 なにか勘違いをしているミカゲに理不尽さと恐怖を感じつつ、ザザはありったけの声を振り絞ってそう答えた。

「ザザが言ってることは本当だ……!こいつは何の武術もスキルも持っていない、ただの医者だ!」

 彼の危機を感じたカツマは、息を切らせ怪我の痛みに耐えながらそう訴えた。

 それを聞いたミカゲの表情が心なしか柔らかくなる。
 気を抜いて警戒を解いたようだ。

「……あっそ。この巨体は見せかけか。驚かすなよ」

 そしてニヤリと笑って続ける。

「だが、ただの医者がセレダの村に何の用だ?」

 と、そこまで言ったミカゲだったが、剣を突き付けられガタガタと怯えているザザに気が付いた。
 スッと首筋から剣をはずして言った。

「ま、いいや。とりあえず連れの怪我の治療やれよ」

「え……?」

 驚いて振り向くザザの目に映ったのは、親指を立てカツマを指すミカゲの姿だった。





「へー、そうやって治療すんのか。お前、見かけによらず手先が器用だな」

 ザザの怪我の手当てを興味深げに一部始終見ていたミカゲが感心したように言った。
 しかし、少々納得いかない様子で首を傾けながら続ける。

「でも、接着剤でくっつけたほうが早く治らないか?」

「治りません」

 ミカゲのあり得ない無謀な提案に、ザザは眉間にしわを寄せてキッパリと否定した。
 その傍らで治療を終え包帯でぐるぐるに巻かれたカツマが、悔しそうに口を開く。

「お前ら賞金稼ぎだったら早くそう言えよ。目当ては賞金首の山賊だろ。なんで俺がこんな目に遭うんだ」

 それを聞いてやれやれと言いたげに肩をすくめるラズ。

「ミカゲさんを攻撃しといて何言ってんの?自業自得。命があっただけでもラッキーなんだよ」

「んだと!?勘違いして攻撃を仕掛けたのはそっちだろ。だまれクソガキ!」

 カツマはラズを指し、にらみつけてそう怒鳴った。
 ラズはひるまずに声を荒げて反撃する。

「ガキガキってうるさいな!僕は子供じゃない。子供が子供呼ばわりするな!」

「……は?」

 そういや、さっきも似たようなことを言ってたな。
 ラズの言葉にカツマは怪訝な面持ちで首をかしげた。

 その様子が面白いのか、くくっと笑うミカゲ。

「ラズはこう見えて、成人してるからな。28だっけ?」

 な?と確認を取るようにラズを見ると、彼は腕組みをして得意げに大きくうなずいた。

「はぁ!?28歳っ!?」

 信じられない事実にカツマとザザは驚き、2人同時にラズを見る。

「俺と同い年って事になるんだけど……。何かの間違いじゃないのか?」

 ザザはラズを頭からつま先までまじまじと見つめて、信じられないそぶりを見せた。
 カツマは腹を抱えて笑いだす。

「なんだお前、成長してねぇの?見えねー!バカみてー!」

 怪我をした脇腹をかばいながらも涙を流して爆笑するカツマ。
 そしてそんな彼を静かな怒りと共にしばらく見ているラズ。

 しかし、なかなかカツマの笑いは止まりそうにない。
 しばらくして何を思ったのかラズはカツマを指してミカゲに聞いた。

「……あいつ、突いていい?」

「おう。悔いのないよう思いっ切りやれ!」

 面白がっているミカゲは止めもせず、うなずきながらラズをけしかけた。

 その瞬間、小鳥の集団がカツマを襲う。
 もちろんカツマが一番弱っている脇腹を狙った攻撃である。

「わああぁぁぁ!!!」

 怪我をして動く気力がないカツマには、無数の鳥たちの急所を狙った攻撃はひとたまりもない。
 小鳥の集団の中から響く彼の悲鳴が、見事に山にこだまする。

 それを見たザザが真っ青な顔で叫んだ。

「ああっ!せっかく縫合した傷口が開いてしまう。やめてくれー!」

       

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