Neetel Inside ニートノベル
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ハーデンベルギアの花言葉
◆12話(2-5)

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 カツマはまだ諦めていない様子だった。
 どうにかしてこの調子のいい男を倒し、この場から解放されたいと思っていたのだ。

 なにかいい方法はないものだろうか。
 いろんな考えを巡らせている。

「おいラズ。周辺にいる鳥たちを使って、あいつを倒せよ」

「えー、やだ」

「は!?お前、この状況が分かってんのかっ!?」

「分かっているからイヤなんだよ。こうやってみんなを運んで空を飛べるのは『風』スキルのレベルが高い証拠なんだ。僕のスキルじゃ無理。分かっててケンカを売ってみんな(鳥たち)をケガさせたくないもん」

 そう言うとラズはプイっとそっぽを向いた。


 スキルレベルが高いって……このヘラヘラ笑っている奴が?
 信じらんねー。


 驚きと呆れが混ざった何とも言えない表情で、カツマはフージンを見た。
 何を思っているのか知る由もないフージンは、相変わらずにこやかな表情で彼らに話しかける。

「『鳥』のボク、物知りだね。人間、あきらめが肝心って言うよ?別に取って食おうって言ってるんじゃないんだ。おとなしくしててくれよ」

 カツマの様子を見かねたザザも彼に話しかけた。

「俺達にはどうすることも出来ないよ。静かにしていよう」

「……そうだ、ミカゲがいるじゃん。あいつなら、この男を倒せるかも!」

 ザザが背負っているリュックを見て、カツマはそうひらめいた。
 彼のひらめきに、眉間にしわを寄せてさとすザザ。

「特に危険な状態じゃないだろう?命を狙われているわけではない。安易にミカゲさんを起こすことを考えてはいけないよ」

「聖興軍の言うことなんか信用できるか!このまま変な場所に連れて行って、俺たちを倒すのが目的なのかも知れないんだぜ?のん気にしている場合かよ!」

 どうにも納得がいかないカツマは声を荒げた。

「倒すのが目的なら、俺たちはすでに倒されてるよ。こんなにあっさりつむじ風に乗せられているからね。攻撃しようと思ったら、この時出来てたはずだし」

 ザザの説明にカツマは思った。


 確かにそうかもしれない。
 レベルが高いというのなら攻撃も強力なものなのだろう。
 いまだ思い通りにスキルを使いこなせない、カツマくらいの連中を倒すことくらい朝飯前なはず。


 そしてザザは腕を組み、考え深げに続ける。

「俺は話し合ってみたいと思ってるよ。話し合いにこだわっているのは、それで俺たちの考えを変える自信があるってことだからね。何を言い出すか興味があるな」

「単に脅かしたりするだけじゃね?聖興軍だし」

 カツマとザザがそんな会話をしているなか、フージンはセレナをじっと見ていた。
 彼を避けている様子のセレナはしばらく気付かないふりをしていたが、たまらず声をかける。

「あの……、なにか?」

 声をかけられたフージンは、とても嬉しそうに笑った。

「ククルが言ってた『水』スキルの獲得者ってきみの事だよね。名前は?」

「……セレナ、ですが」

「セレナさんかぁ。名前まで可愛いな。めっちゃタイプなんだけど」

「はっ!?」

 予想もつかなかったフージンの言葉に、目を丸くして驚くセレナ。
 彼女はフージンの視線から逃れようとザザの陰に隠れた。

「なんで隠れるのかな?……でも、そんなとこも可愛いなぁ」

 完全にセレナの事が気に入った様子のフージン。
 誕生日、血液型、趣味、その他もろもろ。
 少しでも彼女の気を引こうと、いろんなことを話しかけていた。

 間に挟まれているザザは困った顔をしている。
 下手に動いたら彼女が困るだろう。
 そう思いながら2人を見比べ、どうすることも出来ずにただ立っているしかなかった。

     


     

 そんな様子を見かねたカツマとラズがセレナのガードを始めた。

「こんな所でナンパすんなよ、風野郎」

「そうだよ。そんなにグイグイいったらセレナさんは迷惑でしょ」

 ラズのこの言葉を聞いたカツマは、素早く彼の方を向いて声を荒げる。

「お前が言うな。女とみればフラフラついて行くお前だって似たようなもんだろ!」

「なに言ってんの。いくら自分がお姉さんたちに声をかけられないからって、嫉妬はみっともないよ」

「……んだと!?」

 セレナをガードしていたつもりが、何故かまたケンカが始まった。

「こんな所でケンカはやめろって」

 空高く浮いているこの状況でのケンカである。
 危険を感じたザザが大慌てで中に入り、両手いっぱい広げて2人を引き離す。

 そんな様子を面白そうに見ていたフージンは、セレナに話しかける。

「そうだよ。仲間同士でケンカはいけないな。ね、セレナさん」

 他人事のようにしているフージンに、カツマはたまらず彼を指しながらツッコんだ。

「そもそもの原因は、お前だろ!!」





 滞空時間はそれほどでもなかっただろう。
 しかし、ずいぶん遠くまで運ばれてしまったようだ。

 彼らは小さな村の外れにあるコテージに到着した。
 樹木に囲まれて隠れたように建つそのコテージは、どこか異様な空気をかもし出している。

「さ、入ってくれ。ククルが待ってるよ」

 そう言うとフージンはコテージのドアを開けた。

 中を覗くと部屋は薄暗く、何か仕掛けがあるとしても不思議ではない感じである。
 みんなは足を踏み入れるのをためらっている様子。

 フージンはそんな彼らをまったく気にしていない。

「セレナさん、どうぞ」

 彼はそう言って、やんわりと中に入るのを勧めた。
 みんなは顔を見合わせ意を決し、コテージのドアをくぐった。

 中に入ると部屋には大きめの丸いテーブルがあり椅子が7つ用意されている。
 フージンに促されみんなが椅子に座った瞬間、薄暗かった部屋にポッと明かりが灯った。
 明かりのおかげでやっと部屋全体が見渡せる。

 ぐるりと辺りを見回したカツマは何かを発見した。

「部屋の隅に、誰かいるぞ」

 薄暗かった時は気が付かなかったが、確かに部屋の隅に女性が座っている。
 カツマと目が合ったその女性は軽く頭を下げた。

「俺たちの仲間だよ。サラサさんって言うんだ」

 フージンはカツマに向かって彼女を紹介する。

「よろしく……、お願いします……」

 耳を澄ませてやっと聞こえるくらいの細い声でそう言うと、サラサはもう一度頭を下げた。
 彼女を見たラズは不思議そうに首をかしげる。

「あのお姉さんに白い霧みたいなものがかかっているように見えるんだけど?」

「彼女も獲得者なんだ。……あの霧の正体は聞かないほうがいいよ。夜、眠れなくなるかもね」

 意味ありげにそう言うと、フージンは悪戯な笑みを浮かべた。

     


     

 その時、カチャッとドアを開ける音が聞こえた。
 奥の部屋から出てきたのは先程の黒髪の青年、ククルである。

 高めの身長ではあるが、やはりザザのように2mを超えている感じではない。
 この容姿が本物ならラズが推理した『大地』スキル獲得者ではないだろう。

「無事に連れて来れたようだな、フージン」

 そう言うとククルは空いている席に座った。
 そして早速、話し始める。

「先ほども言ったように俺たちは、軍と契約していないスキル獲得者を領地に入れないのが仕事だ。関所の門番みたいなものだな。仕事の内容はもちろん軍の活動の邪魔になるスキル獲得者を入れないためでもあるんだが、もう一つ理由があるんだ」

「もう一つの、理由……」

 話に興味があるザザはオウム返しにそうつぶやいた。
 それを見たククルはうなずいて続ける。

「俺たちは君たちみたいな、軍と契約をしていない獲得者との共存や協力を考えているんだ。聖興軍の中では少数派だから軍の内側はもちろん、外側の協力者も少しでも増やしたいと思っている。……だから、領地に入っても結局倒されることを知ってて、君たちを領地に入れることが出来ないんだ」

「は?結局倒されるってどういうことだよ?」

 なんだか馬鹿にされている気がしたカツマがククルにかみつく。
 そんな彼とは対照に、冷静な態度のククル。

「たとえ俺たちを倒して領地内に入ったとしても、君たちの目当ては敵討ちなんだろう?だったら、到底勝ち目はないからな」

「そんなの、やってみなけりゃ分からねぇだろ!!」

 カツマはテーブルをたたいて立ち上がった。
 相当頭に血が上っているらしい。
 その様子に隣にいたザザがなだめて彼を座らせた。

 腕を組んで様子をうかがっていたフージンが口を開く。

「やってみなくても手に取るように分かるよ。聖興軍の総大将、聖帝っていうのが半端なく強いんだ」

「強いって……スキル獲得者、なのか?」

 ザザは驚きの表情でフージンに聞いた。

「そうなんだ。しかも複数のスキルを持っているらしいからね。いくら君たちが束になってかかっても無理なんだよ」

 聖興軍はもともと、スキル獲得者で構成されていた国王軍と戦っていたはずだ。
 それなのに今や軍のトップがスキル獲得者になっているというのか。

「その人物がどういうスキルでどうやって聖帝になったのかは、俺たちは知らない。信じる信じないは君たちの勝手だが、まぎれもない事実だと言っておくよ」

 フージンの言葉に、ラズは疑問を持つ。

「そんなに謎だらけの軍のトップのことを、よく信じているよね。もしかしたらただのウワサで、実際にはスキル獲得者じゃないかもしれないって思わないの?」

 それを聞いてフージンはうなずく。

「確かにね。でもボク、軍の領地全体に結界が張っていることは知ってるかな?これのおかげで空からも海からも侵入できないから、関所が唯一の出入り口になっているんだけど」

「うん、僕、鳥に乗って試したことがあるから知ってるよ」

「その結界を張っているのが、聖帝なんだよ」

 みんなはそれを聞いて驚きを隠せなかった。


 巨大な島全体に結界が張れるくらい、強力なレベルなのか。
 しかも複数のスキルを持つらしい。
 それが事実だとすれば確かに、戦いを挑んでも勝てる見込みがなさそうだ。


 黙り込んでしまったみんなを見ながら、ククルがまた話し出した。

「とにかく、そんな人物が今の聖興軍を動かしてるんだ」

 そう言うと、彼はザザのリュックに目をやる。

「君たちはミカゲがいるから何とかなると思っているんだろうが、そんなに甘くはないってことだ。考え直した方がいい」

「……」

 みんなは言葉が出なかった。


 ミカゲを頼りにして旅をしていくつもりはない。
 しかしアニタの件でもあったように結局、危なくなれば必ず彼女を頼ってしまうのは事実なのだ。
 その彼女でさえも通用しない相手となると、ククルの言う通り自ら倒されに行くようなものである。


 ククルは続ける。

「それに、しばらくすれば君たちにとって聖興軍はいい方向に変わるだろう。今はまだ領地に入るべき時ではないんだよ」

「いい方向に変わる、か。もちろん、そうなってくれるとありがたいんだけど……」

 ザザが疑いの目でククルを見る。
 ことも無さげにさらりと言うが、そうなるには並大抵の事ではないだろう。
 旅を諦めさせるためのウソのように聞こえる。

「いずれ俺たちの考えが多数派になる。『国王軍の残党』との意識が強い者とも和解や協力が得られたら、いい世界になるからな」

 少しの沈黙。
 みんなはそれぞれにククルの言葉を受け止め、考えていた。

「あの……、でも、それはあなたの理想論にすぎませんか?そんなにうまくいくとは思えないのですが」

 沈黙をかき消したのはセレナだった。
 彼女はうつむき、口元に手を当ててそう言う。


 ククルの意見は、長年の聖興軍の体制とはまるで正反対のものだ。
 いずれ多数派になると言っているが、口で言うほど容易なものではないはず。

 それに『国王軍の残党』と思っている者が簡単に耳を傾け、和解や協力をするとは思えない。
 実際、今ここで話を聞いているみんなは彼の言葉をあまり信じてないのだ。
 少なからず、なにか裏があると疑っている。

 カツマにいたっては聞く耳どころか、話し合いにすら応じてない様子。
 先程からそっぽを向いてあくびをしている。


 セレナの言葉にザザも口を開いた。

「確かに君の言う通りになればいいけど、必ず実現できるとは言い切れないだろう?セレナさんの言う通り、それはただの理想論だと思う」

       

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