Neetel Inside ニートノベル
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ハーデンベルギアの花言葉
◆13話(2-6)

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「理想論で結構。その理想に向かって俺たちは今、動いている。聖興軍が変わった時、和解が得られるスキル獲得者をひとりでも多く集めるために、君たちのような命知らずを説得しているんだ」

 ククルはみんなの顔を代わる代わる見ながら、穏やかにそう言った。

 彼の隣でフージンが口を開く。

「俺にも説得する理由があってね」

 そう言いながら彼はラズに視線を向けて続ける。

「『鳥』スキルのボク。君の種族は本当に稀で、一歩間違えたらスキルが途絶えてしまうことを知ってるかな?」

「それは……うん、まぁ」

「獣を操るスキルは『陸海空』に分かれているけど、俺が会えたのは『空』の君だけだよ。『陸』と『海』はウワサにも聞かない。……考えたくはないけど、途絶えてしまった可能性もあるんだ」

 そしてフージンはみんなを見回して続ける。

「他のみんなも『鳥』スキルほどじゃないけど、種族の規模は小さくなっているよね。だんだんとスキルが途絶えるのって、怖くない?だから俺は君たちを説得してるんだ」

「……その思想はまさか、テラ様の?」

 黙って聞いていたセレナはそうつぶやいた。
 心なしか戸惑っている様子である。

 それを聞いて笑顔になるフージン。

「セレナさんはさすが『水』スキルだね。テラ様との縁が深いんだろうな」

「なぜ『風』スキルのあなたが、テラ様の思想を知っているのでしょうか?」

「俺、テラの修道院で育ったからね。本場でテラ様の教えを受けていたんだよ」

 それを聞いたセレナは、にわかに信じられない面持ちになった。
 彼女の常識ではありえないことだったからだ。

 テラ様と『風』スキルの種族とは深い因縁があり、テラ様の没後、修道院はこの種族を忌み嫌って排除していた。
 噂によると、修道院の敷地に侵入されないよう結界まで施されていたらしい。
 テラの精神を信仰している者であれば、常識なのである。

「『風』スキルの種族はテラの修道院に入れないはずなんですが、どうして……?」

「確かに異例だったな。テラ様が天に召された後にテラの修道院で育った『風』は、俺だけだったらしいからね」

 腕を組んでうなずいていたフージンは、そう答えると急に嬉しそうに笑った。

「それにしても、セレナさんが俺に興味を持ってくれて嬉しいな」

 ただの疑問だったのに何故かポジティブに解釈している彼に、セレナはそれ以上質問するのをやめた。

 それからしばらくの沈黙。
 誰もが口を開かなくなっていた。

 静まり返った彼らを見て、ククルはおもむろに立ち上がり隣の部屋のドアへ向かった。

「時間は十分にある。じっくり考えて今後を決めるといい」

     


     

 ドアを開けながらそう言った彼は、チラリとザザのリュックに目をやる。

「ミカゲとも話をしたい。……夜まで待つか」

 そうつぶやくとククルは隣の部屋へと消えていった。





 ククルがいなくなった部屋。
 あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。

 最初に沈黙を破ったのはザザだった。
 まるで独り言を言ってるかのように、つぶやく。

「しかし、聖興軍にこんな考えを持つ人物がいたとは意外だった。だけど……」


 確かにそんな理想が叶えば嬉しい事だ。
 それは間違いないのだが。

 しばらく待てばいい方向に変わる、などと楽観的な事を言われてみたところで。
 果たして、そんな言葉を信じていいものだろうか?


 みんながまだ疑っている様子に気付いたフージン。

「ククルは裏でこの理想に向かって動いているんだ。聖興軍の多数派の奴らが、ククルの周りを嗅ぎまわっているらしいからね。あいつなりの根拠があるんだよ」

 そう言って彼はニッコリと笑った。
 そんな様子にカツマは怪訝な表情で彼をじろじろ見ながら言う。

「てか、お前ら、ホントに聖興軍か?別の意味で胡散臭ぇな」

「なにが胡散臭いのか分からないけど正真正銘、聖興軍だよ。ま、俺とククルは下っ端だけどさ」

 テーブルに肘を付いて顎を乗せているフージンの顔が笑っている。

「少数派の中心人物はミヅキという軍幹部の女性でね。ククルは後ろで、そのミヅキ様のサポートをしているんだよ」

 フージンの言葉になにか引っかかるものを感じたザザ。
 腕を組んで首をかしげながら言った。

「ミヅキ?……どこかで聞いたような」

「えっ、ミヅキ様を知ってるの?彼女もスキル獲得者なんだよ。『時間』だから君たちの仲間と一緒だね」

 フージンはそう言うとミカゲが寝ているザザのリュックを指した。

「『スキル・時間』!?……ということは、ツキナリ様の娘のミヅキ様なのか!?良かった……、ご健在だったのか」

 ザザは驚き、そして同時にホッとした表情になる。
 それを聞いたラズは首をかしげた。

「ツキナリ様というと、国王の側近だった人だね。国王軍の中心で戦っていた人でしょ?なんでその人の娘が聖興軍の幹部になっているの?」

「そうだね、疑問はあるけど……でもククルが言ったことは、嘘でも夢の話でもないのかもしれない」

 本気で聖興軍を変えるつもりかもしれない。
 ザザは少しの希望を持ち始めていた。

「聖興軍を変えるというより、軍を内側から壊すって感じだね。でもそんなに上手くいくと思う?あいつらもバカじゃないよ」

 ザザ同様、ミヅキとククルが何をやろうとしているのか想像がついたラズ。
 しかし彼は否定的に話を続ける。

「敵だった国王軍の中心人物のひとりだったんだよ?そんな人の娘を幹部にしている聖興軍っていうのが怖いね。いろいろ暗躍しているのを逆手に取られて、利用されなければいいんだけど」

「確かにな……」

 ザザはラズの言葉に、また考え込んでしまった。

「へー、ミヅキ様のお父様って、そんなにすごい方だったのか」

 2人の会話を聞いていたフージンは、目を丸くして驚いている。
 そんな彼を見て呆れているカツマ。

「お前、仲間のこと全然知らねーんだな」

「そう言われると辛いんだけどさ、そこまでお互いに情報共有はしてないんだ。ミヅキ様たちと俺とでは目的が違うからね」

 困った顔をして頭をかきながらフージンは続ける。

「ミヅキ様たちは少数派を多数派にしてスキル獲得者から協力を得たい。そして俺はテラ様の教えを守りたい。君たちのような獲得者と戦いたくないのは同じだから、一時的にチームを組んでいるだけなんだよ。……でも、ミヅキ様たちは多数派の連中に目を付けられているらしいから正直、心配はしているんだけどな」

 そこまで言って彼はため息をついた。

「彼らは彼らで一心不乱に理想を追いかけているんだ。横でいろいろ詮索されるのもうっとうしいだろ?」





 それからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
 ククルもフージンも居なくなった部屋にテーブルを囲んで座っているみんなの姿があった。

 気が付けば外は夕暮れ時、窓の外では赤く染まった空が見える。
 ザザのリュックで寝ている人物も、そろそろ起きる時刻となった。

 カツマとラズは旅を続けたい様子。
 一方、ザザとセレナはククルたちの説得で少々迷いが出てきている様子だ。

「口では何とでもいえるさ。そんなウソに騙されるか」

 もともと話し合いを拒否していたカツマは、ククルたちの説得を嘘だと決めつけている。

「嘘はさすがに言い過ぎだと思うけど、聖興軍との和解が出来るなんて夢の話だよ。実現は難しいな」

 ククルの言葉に疑問を持つラズは、納得のいかない面持ちでそう言った。

「そうだけど、ミヅキ様が動いているらしいからね。……もしかしたらツキナリ様もご健在なのかもしれない」

 国王軍の中心人物の娘が生きていた。
 それを聞いてザザはククルたちの説得に、なかば心を動かされている様子である。
 いろんな期待が湧きあがってくる。

 ザザの言葉をうなずきながら聞いていたセレナは、ふと、ザザのリュックに視線を向けた。

「ミカゲさんは、この話を聞いたらどう思うのでしょう?」

「そうだね、ミカゲさんの意見も聞きたいな」

 ザザもセレナと同様、リュックを見ながらそう言った。

 と、その時、リュックがごそごそと動いた。
 ミカゲが起き上がって動いている様子。
 それを見たザザは、あわててリュックを開けた。

「ミカゲさん、おはよう」

「……のどが渇いた。水くれ」

 リュックから寝ぼけ眼のミカゲがひょっこりと顔を出す。

「水ですね、どうぞ」

 セレナは持っていた水筒を彼女に差し出した。
 ミカゲは二ッと笑ってそれを受け取り、美味しそうに飲んでいる。

 その横で頬杖をついて見ていたカツマが、彼女に向かって口を開いた。

「なぁ、ミカゲ。お前はどう思うんだ?」

「あ?何の話だ?……てか、ここどこだよ?」

 ミカゲにとってはいきなりで意味不明なカツマの質問。
 しかも森の中を歩いているとばかり思っていた彼女は、見慣れない部屋に気付いて少し驚いているようだ。

「だめだよカツマ。ミカゲさんには順を追って説明しないと……」

 そう言って今までの事をいちから説明するザザ。

「ふーん……」

 彼の話を聞きながら部屋を見回したミカゲは、部屋の隅で座っている女性に気付いた。
 白いもやがかかっているその女性は、ミカゲと目が合うと軽くお辞儀をした。
 ひと目でスキル獲得者だと分かる、不思議な雰囲気がする女性である。


 あれは……、あのスキルは……。


 と、そこまで思ったミカゲだったが、説明途中のザザのある言葉に瞬時に反応した。
 彼女は驚きの表情でザザに聞く。

「ミヅキが生きていたのか!?」

「そうらしいよ。聖興軍の幹部になっているらしい」

 ザザの言葉に、ミカゲは何を思ったのか自分の荷物を漁った。
 取り出したのは古びた小型ゲーム機。
 彼女が幼いころに友達から預かった、手のひらサイズのゲーム機である。


 それは遠い昔にした約束だった。
 ゲームの謎を解いてくれと、このゲーム機の持ち主に頼まれていたのである。
 謎はとっくの昔に解けているのだが、頼まれた日から一度も会えずじまいになっている、あいつ。

 もしかしたら国王軍と聖興軍の戦争で、命を落としたのかもしれない。
 しかし、もしそうなら必ずセレダの村に情報が届いたはずなのだ。
 ミカゲが会いたいのは国王軍の中でも、かなり重要な立場の人物だったからだ。


 取り出したゲーム機を見ながら、ミカゲはつぶやく。

「……ミヅキならアイツの居場所を知っているかもな」

     


     

「アイツ?」

「ああ、アイツ。天新(てんしん)」

 ミカゲがサラッと言った名前に、4人は飛び上がって驚いた。



「「「「 て、天新様————っっ!!?? 」」」」



 その異様な4人の驚きっぷりに呆然とするミカゲ。

「なんだ?なに驚いてんだ、お前ら」

「天新って、あの天新様か!?国王陛下の息子の、王子、天新様!!」

 カツマは驚き、慌てふためいている。

「ああ、天新は確かに国王の息子だが。お前らどうした、落ち着け」

 みんなのその慌てっぷりをミカゲは理解できずに少々ひいている様子。
 カツマの興奮は収まるどころかヒートアップしている。

「おい、ミカゲ。居場所ってなんだ?お前、天新様を探しているのか!?」

「まあな。ちょっと野暮用」

「王子様に対して野暮用はねーだろ。……で?天新様は生きてるのか?」

「知らね。でも、死んだって聞かないしな」

 国王や軍の中心人物はみな討たれたと聞いていたが、王子についてはいっさい情報が入ってこなかった。
 だれもが気にして心配していたことだ。

 ミカゲから王子の名前が出て4人がいっせいに驚き、興味を持つのも当然の話。

「ご無事ならいいんだけど……。戦争の混乱で居場所どころか、ご無事かさえも全く分からないからね」

 そう言うとザザは大きくため息をついた。


「あの……。天新様、ですか……?」

 不意に部屋の隅から声がした。
 床に座ったまま微動だにしないサラサが突然、口を開いたのである。

 先程から存在は気付いていて、それとなく気にはなっていた人物だ。
 しかし攻撃してくる気配が無かったので、放っていた女性。

 ミカゲはセレナに向かって聞いた。

「誰だ、あれ」

「サラサさんとおっしゃる方です。ククルさんたちの仲間だそうですよ」

       

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