Neetel Inside ニートノベル
表紙

ハーデンベルギアの花言葉
◆2話(1-2)

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 周りは相変わらず鳥の鳴き声や木のざわめきで騒がしい。
 まるでこの広場全体で2人をここから追い出そうとしているかのようだ。

 そんな中、先程の噂話を聞いたザザが考えていた。

「なんで山賊がセレダの村に行こうとするんだ?山の中にあるただの小さな村なのに」

「これもウワサなんだが、あの村には宝があるらしいんだ。山賊たちはそれを狙っていたらしい」

「宝……?」

 ザザはますます考え込む。

 宝と言って思い浮かぶものは金銀財宝なのだが……セレダの村の宝?

 何度もこの村を訪れているが全く知らない。
 そして村をよく知る父からもそんな話は聞いたことがなかった。
 むしろ、トラブルの火種になるような財宝などないイメージの村なのに。

「きみたちだって宝を狙って来たんだよね。あいにくだけど村も宝もここにはないよ」

 そして男の子は2人をまっすぐに指して言った。

「早く帰れ、山賊」

「だから山賊じゃねぇって!!」

 カツマは勘違いしている男の子にいい加減ブチギレて続ける。

「俺たちは知り合いに会いに行くだけだっ!ガキの遊び相手しているヒマはねぇんだよ!!」

 その怒鳴り声にも全くひるむ様子がない男の子。
 それどころか今度はカツマを馬鹿にした調子であおる。

「だから、村はないって言ってるよね。これで4度目だよ。何度聞いたら理解できるの?」

 カツマの目の前で指を4本立てて男の子はニヤッと笑う。

     


     

 その様子にカツマの堪忍袋の緒が切れた。

「……このクソガキ」

 彼は素早く剣を抜くと男の子に向かって振り回した。
 鋭い光を放ち鈍い音を立てて男の子に襲い掛かる剣。

「わっ」

 驚きの声とともに男の子は後ずさりをして間一髪、その剣を避けた。
 その距離わずか数センチ。

 それを見たザザが眉間にしわを寄せて声をあげる。

「カツマ!何をするんだ、危ないだろう!」

「うるせぇ!喧嘩を売ってんのはこのガキだ!」

 もちろんカツマも、本気で切りつけようなどとはかけらも思っていない。
 こんな道端で子供相手に時間を過ごしているということが面倒で、しかも生意気なことに自分を馬鹿にしてくる。
 とにかく、一刻も早くこの子供を追い払いたかっただけである。

 しかしカツマの考えは男の子に見透かされていた。

「なんだ脅しだね。僕は脅しじゃないよ。上を見てごらん。きみたちはすでに囲まれている」


「!!!」


 確かにその通りだった。

 2人をぐるりと囲むありとあらゆる木の枝に、数えきれないほどの無数の鳥がとまっている。
 その視線がすべてこちらを向いていて、その光景は何とも言えず異様なものだった。

 カツマはそれを見て鼻で笑う。

「鳥がどうした。襲ってきたら斬るだけだろ。お前もケガをしたくなかったらそこをどけ」

 彼は剣を突き出し男の子をにらみつけている。

 その様子を見た男の子の瞳の奥が鈍く光る。

「空から目を離したら、死んじゃうよ?」



   +++++



 時を同じくして、広場から離れた小道。
 慌てた様子で息を切らせながらどこかへ向かっている人影がある。

 長い金の髪を振り乱し一心不乱に走っているのは、先ほどカツマたちが見た若い女性である。


 聖興軍か山賊かは分かりませんが。
 だけどセレダの村が目当てなのは確かでしょう。

 今はラズさんが足止めをしていますが相手は男性2人組です。
 それも1人は大柄なクマみたいな人。
 きっと、とても危ないに違いありません。

 早く。

 早くあの人に知らせなければ。



   +++++



「!!……まじか」

 男の子の合図で木にとまっていた無数の鳥がいっせいに飛び立った。

 一羽一羽は小さな鳥だろう。
 しかしそのおびただしい数のせいで一瞬のうちに空が曇る。

 予想よりもはるかに多いその数に圧倒されて後ずさりするカツマ。

「なんて数だ……」

 上を向いてあっけにとられていたザザだったが、すぐ男の子に視線を向け感心したように話しかけた。

「これ、みんなきみのペット?すごいな。世話や餌代が大変そうだね」

 自分の状況をイマイチ把握していないのん気な彼の問いかけに、男の子は目をつりあげて怒鳴る。

「ペットじゃないよ。友達だっ!僕は『スキル・鳥』の獲得者なんだよ!」

 その言葉と同時に無数の鳥たちが急降下で2人に襲い掛かってきた。
 それはまるで黒い塊が2人を飲み込むかのようだった。

 ある鳥は体当たりをし、ある鳥はくちばしで突く。
 それ一つ一つはそれほどダメージを受けないが、なにせ数が半端ではない。
 大怪我をするのも時間の問題である。

「友達だって。こんなに多いと心強いよね。あっ、痛てて……」

 ザザは両腕で顔を覆い鳥たちの攻撃に耐えながらそう言う。

「お前はっ。この状況でのん気なこと言ってんじゃねぇよ!」

 カツマはそう突っ込みつつ、どうすればこの鳥の群れから脱出できるか考えていた。

 その一瞬のスキをついて、大きめの鳥が彼の手首をくちばしで挟む。
 驚いた彼は反射的にその鳥を振り払った。
 その瞬間、肉が引きちぎられるような激痛が走る。

「痛ぇっ!!ちくしょう、こうなりゃ……」

 彼は何を思ったのか、ドッと押し寄せてくる鳥の群れに突進した。
 体当たりされながらも構わずに突っ走り、黒い塊を突き抜ける。

 突き抜けた途端、視界がパッと開けた。
 そして目の前に現れたのはあの子供。

 そうだ。なにもこの小鳥の群れと戦う必要がない。
 元凶であるこのガキさえ押さえれば解決する。

「!!!」

 鳥の群れから飛び出すカツマは予想外の出来事だったのだろう。
 一瞬立ちすくむ男の子。
 そのすきに彼の後ろに回り、カツマは首元に素早く剣を突き付けた。

 は、早い!油断した……!

 肩を掴まれ身動きが出来なくなった男の子は、目を見開き驚きの表情でそう思った。

「こらクソガキ。イタズラにしては度が過ぎるだろ」

 カツマはそう言うと、ぐるりと周りを見回して声を張り上げた。

「コラァ鳥ども、攻撃をやめろ!!」

 その途端、鳥たちの攻撃がぴたりとやんだ。
 ザザを囲んでいた黒い塊は上空へ移動し空の高いところではじけた。
 そのまま、まるで雲の子を散らしたように散り散りになり、それぞれが近くの木の枝にとまったのである。

 しかし攻撃がやんだとはいえ鳥たちの敵意丸出しな態度は変わらない。
 耳を覆いたくなるような騒がしさで、今度は2人に大ブーイングの嵐だ。

「ギャーギャーと、うるせぇ……」

 恨めしそうに見上げるカツマ。
 その傍らで鳥たちに攻撃され顔や腕に無数のかすり傷を負ったザザが、ため息交じりに言った。

「鳥たちが怒っているじゃないか、その子を離してやれよ。子供と小鳥相手に剣を振り回して、いったい何してるんだ」

「お前、絶対自分の立場を理解してねぇだろ!倒す力があるかは別として、このガキは俺たちを襲ったんだぜ?」

 どこまでのん気なんだコイツ……。
 カツマは心底呆れていた。

 この2人の会話を聞きながら、男の子は体の自由がきかない中ふくれっ面になった。

「子供子供って言うな。僕は子供じゃない!」

 その予想もつかない言葉に目を丸くするカツマとザザ。

「なに言ってんだ?どっからどう見てもガキだろ」

「10歳くらいかな?まぁ、早く大人になりたいっていうのは分かるけど……」

 2人は顔を見合わせて苦笑した。

 その時。


「うるせぇぇぇぇ―――――!!!!!」


 彼らの背後から鳥たちのブーイングを上回る怒鳴り声が聞こえた。

 何事かと驚いて振り返った2人の目に映ったのは、黒の髪に青い瞳の人物。
 顔をしかめて気だるそうに頭をかきながら、ゆっくりと彼らに近づいてくる。

     


     

「寝起きにお前らの鳴き声はキツイ。ギャーギャー騒ぐなよ……」

 明らかに不機嫌な表情と態度。
 お昼もまわったこの時間だが、どうやら今まで寝ていたらしい。

「あっ、ミカゲさん」

 その人物をひと目見るなりパッと明るい表情になる男の子。
 ミカゲと言われた人物は横目でチラリと男の子を見た。

「ああ、ラズ」

 どうやら知り合いのようだ。
 2人の様子にザザはホッとした表情でミカゲに話しかけた。

「きみはこの子の知り合い?丁度良かった。セレダの村に行こうとしたら、この子が邪魔をして困っていたんだ」

「……」

 ザザの話を聞いているのかいないのか、ミカゲはあたりを見回している。
 なにか様子をうかがっている雰囲気。

「悪戯にもほどがあるから、きみからも注意してくれないかな?」

 ザザの言葉には全く答えず、ある程度の状況を把握したらしいミカゲは口を開いた。

「聞いてた通り2人だな。山賊にしてはショボくね?」

 その言葉にカツマとザザは嫌な予感がした。
 助け舟と思っていたこの人物も、2人に対して何か誤解をしているようだ。

 ミカゲは腕を組み、男の子……ラズを見てニヤリと笑った。

「オモシロそうなことやってんな、ラズ。楽しいか?」

 その問いにラズは、申し訳なさそうな情けない顔をした。

「ごめんねミカゲさん。たった2人だったから僕でも追い返せるって思ったんだ。でもコイツめちゃめちゃ素早くて……」

「ああ、分かった分かった」

 みなまで言うな。
 そう言いたげにラズの言葉を途中で遮り、ミカゲは両手の手のひらを前に出してうなずいた。
 そして、カツマとザザの顔を代わる代わる見ながら言う。

「よぉ、お前ら。ラズの遊び相手、ご苦労さん」

 ミカゲのその様子にカツマはいら立ちちを隠せなかった。

「ちくしょうっ。コイツもこのガキの仲間か!?」

「ま、とりあえず、ラズは返してもらうからな」

 ミカゲのこの言葉の瞬間。


「!!!」


 カツマは一瞬何が起こったのか分からなかった。

 確かにさっきまで左手にラズ、右手に自分の剣をしっかりと握っていたはず。
 その両方がまるで煙のようにかき消されたのだ。

「はぁ!?」

 彼は何もなくなった両手の手のひらを見ながら目を見開いて立ち尽くした。

「ふーん、いい剣だな……」

 遠くから聞こえるミカゲの声に、カツマは驚きの表情のまま顔をあげた。
 見るとミカゲの側にはさっきまで肩をしっかりと掴んでいたはずのラズが立っている。
 そしてその右手に握られているのは自分が大事にしている剣。

 ラズはミカゲの言葉に興味を持ったのか剣を覗き込み目を輝かせていた。

「いい剣って、お宝なの?」

「まぁな。売ればイイ値がつく」

       

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