Neetel Inside ニートノベル
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デマゴーグ
f5Bxa2

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Y{すげーAIなんだろ。絶対あの怪文書、何か深い意味あるよな)
須磨{f5Bxa2だったっけ? 解読班まだかー)
のわき{普通に考えてエラーコードとかじゃないか?)
松風{404not foundみたいなヤツ? エラーコードって3文字かせいぜい4文字だろ。僕は何かのパスワードだと思うな)
のわき{パスワードにしては短すぎる)
サワラビ{単なる文字化けじゃないの?)
松風{文字化けかー。繧オ繝シ繝薙せ繧貞茜逕ィ縺ァ縺阪∪縺帙s縲みたいに文字化けでしか見ない文字が含まれてれば確定なんだが)


「このグループチャットも世界システムが管理してるんですよ」
 宍戸がチャット画面を見せながら藤原に説明していると、宮川隊長が会話に割って入ってきた。
「どういうことだ?」
「大学内のローカルネットワークを利用していて、大学外からだと昌大生でもチャットに参加できないんです」
 校舎内にいる学生しかチャットに参加できないが、見るだけなら誰でもできるらしい。藤原は宍戸からチャットの見方を教わった。
「つまり大学に来ないとチャットできないと。それってチャットの意味ないんじゃ?」
「意味ないですよ。このチャット、生徒のためのものじゃないんです。世界システムの学習のために作られたという経緯があるんです」
 宮川隊長の性格なのだろう。取り調べでもするかのように質問攻めする。宍戸はすべての質問に卒なく答えていく。さすがの世界システムオタクである。
 長話に興じる二人をよそに、藤原は軽食のメニューを読み始めた。
「このチャット、世界システムも見てるんだろ」
「はい」
「大丈夫なのか?」
「すみません、用事があるのでこれで失礼します」
 宍戸は自分の分の会計を済ませるとそそくさと出て行った。残された二人も軽い昼食を済ませ警備員控室に戻る。
 宮川隊長は監視モニターの前でにらめっこしているベテラン警備員の杉村栄吉に一声かけた。
「杉村さん、ご苦労様でした。交代の時間です。昼休憩してきてください」
「お疲れ様です」
 杉村の座っていた席に藤原を座らせると、宮川隊長は説明を始めた。
「と、まあ、巡回とモニター監視と休憩を三人でローテーションしていくのがここの仕事の基本だ。監視カメラの映像は世界システムも見ていて、不審人物を発見すると警報で知らせてくれる。それでもあまり機械任せにするなよ。俺たちも監視することでダブルチェックになるからな」
 モニターは三面あり、それぞれ画面を16分割して合計48の監視カメラの映像が映っている。監視カメラは全部で52個あるので、映像は自動的に刻々と入れ替わってすべてのカメラを網羅するようだ。映像はすべてカラーで、どうやって収音してるのか、映っている人の音声まで聞こえる。
「気になる映像があったら、ここをクリックして」
 宮川隊長がモニターに付属しているキーボードとマウスを操作する。中央のモニターが十六分割から一画面に切り替わり、1階セキュリティゲート前のカメラ映像が大写しになった。
 ゲートは駅の自動改札によく似ていて、学生や保護者がIDカードをかざして校舎を出て行く。
 IDカードは3種類あって、黒いカードは1・2階にしか立ち入れず、白いカードは1・2・4・5階までしか入れない。黄色いカードだけが1~5階すべてに立ち入ることができる。白いカードのみ、学生の顔写真と氏名が表記されていて、学生証になっている。白いカードは学生、黒いカードは学生の保護者、黄色いカードは教職員と警備員が所持していた。
 カメラの映像には30代くらいの金髪の白人男が映っている。黄色いカードをかざしているところを見ると教職員だろう。警報音が鳴って、ゲートが閉じられる。白人の教職員は動じる様子もなく、再びカードをかざした。
 すると今度は防火壁が降りてきて、ゲートは完全に閉ざされてしまった。
「さっそくトラブルだ。ちょっと見てくるから、モニター監視頼む」
 宮川隊長はすぐに対応して、警備員控室を飛び出した。
 藤原は操作に慣れようと、あちこちの監視カメラの映像を順に流す。2階の南の休憩所のカメラに女学生が映っていた。
 休憩所といっても、自販機とソファが置いてあるくらいのものだ。南側からは東京タワーが見えるから、それを眺めているのかも知れない。近すぎて、東京タワーの足くらいしか見えないが。
 4階のセキュリティゲート前にひとり、今エレベーターに乗って降りてきているのがふたり。あとはすべて1階のカメラに映っていた。エレベーターを降りて、ふたりは1階のセキュリティゲート前のカメラに映った。白人の教員と面識があるようで、外に出れない事情を聞いている。
 二人もIDカードをかざして試してみたが、ゲートは開かない。
「くそっ! ダメか」
 宮川隊長はあきらめて学長に携帯で連絡した。学内のWi-Fiは正常なようで、携帯は問題なく使うことができた。
 セキュリティゲート前にどんどん人が集まって来る。中には事情を聞いて泣いている者もいるようだ。
「まずいことになった」
 宮川隊長が逃げるように警備員控室に戻ってくるなり言った。
 セキュリティゲートの通過履歴を調べて、校舎内に取り残された人数を数えてみる。なんと12人だ。馬場学長、世界システムの生みの親の上野教授、セキュリティゲート前で立ち往生していたビクター助教授。教員は3人。警備員が3人。上野ゆかり、大島武雄、清原沙奈子、高坂竜次、宍戸圭馬、柳本準一郎。学生は6人。セレモニーはとっくに終わったのに結構学生が残っていた。
 5階の仮眠室はこのくらいの人数を収容するスペースはあるし、校舎1階保管倉庫に保存食は十分ある。短期間ならば問題ない。
 問題は現在の状況が学生にとって相当なストレスになり、状況が長引けば何が起こるか分からないということだ。宮川隊長は顔をちらりと見ると、無茶なことを言った。
「俺たち警備員のほうがAIより優秀だとわからせるチャンスだ。おい、藤原! なんとかして外に出れないか?」
「無理ですよ。世界システムがロックをかけてますから」
「くそっ。いや、待て。窓! 1階に開いている窓があれば」
「施錠されているかもしれません。世界システムが採光や換気も自動化しているから」
「確認するだけしてこい。早く!」
「わかりました」
 藤原は警備員控室を出て、時計回りに窓を調べていった。
 男子トイレに入ると窓は閉まっているいるどころか、蛇腹状の鉄のカーテンに閉ざされている。
 男子トイレから出て途方に暮れていた藤原に、ふたりの学生が話しかけてきた。
「あの、すいません。セキュリティゲートって、いつ通れるようになるんですか」
 特徴的な髪形だったので、セキュリティゲートの通貨履歴を見たときに名前を憶えていた。話しかけてきたのは経済学部の高坂竜次だ。龍の角というよりはサイの角のような突起が両耳の上あたりから出ている。よく見れば、それは後ろに流した長髪を結ったお団子のようなものだった。
 もう一人も同じく経済学部の清原沙奈子。こちらは普通のショートカットだ。
 ふたりともビクター助教授から事情を聞いていたので、藤原は隠さず正直に話すことにした。
「実はゲート復旧の目途はついていないんです。それで今、1階の窓から出られないか確認中でして」
「他人事じゃないですし、俺らも手伝います」
「ありがとうございます」
 ふたりの学生はさっそく調べ始める。女子トイレを清原が調べてくれたので、とても助かった。
 1階の窓をすべて確認したが、閉め切られていて開かない。あきらめ切れず、2階の窓も確認することにした。2階ぐらいなら飛び降りて脱出できるかもしれない。
 淡い期待もむなしく、開いている窓を見つけたのは5階だった。

       

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Neetsha