Neetel Inside 文芸新都
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満ちる木になる実
紺野

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 大学を卒業しこの会社に入社して今年で6年目になる。最近定時をすぎても帰れなくなって来た。
早く紺野(こんの)に会いたいが、事務の仕事がなかなか終わらない。というか終われない。
きっと紺野はお腹をすかせて待っているのだろう。7時をすぎた。まだ残っている社員はいるが私には限界だ。
そろそろ帰らせてもらいたい→というか帰ろう→帰らせていただきます。
そう言って私は仕事を一部残して帰路についた。電車を3本乗り継ぎ最寄の駅へ。改札を出て自宅のあるマンションへ直進。
さすがに片道1時間半はきついと思いつつ、我が家へ到着。たったの2DKなのに月8万もする。でも私の給料じゃこれがいっぱいいっぱいなんです。
 さて今日も紺野が迎えてくれるだろう。そういって私は自宅の鍵を回し扉を開いた。

     

「森ちゃんおかえりぃー」
紺野が玄関まで駆け寄って飛びついてきた。いつものことなのだけど時々疲れる。
すでに紺野は食事を済ませてあるようだった。私は軽く笑いかけ紺野の体を下ろし居間へ向かった。
一人暮らしにはつき物だけどやはり食卓には何もない。面倒だが作らないと私はお腹をすかせるだろう。当たり前すぎる事ですよね…
独り言を言いつつ隣の部屋で遊んでいる紺野を見る。紺野の食事は楽だと思う…自動生成されるからだ。
1度食べてみたこともあったけど決して美味しいものではなかった.......と思う。
食事後にお風呂に入りたかったため、湯船に湯を溜めつつ夕飯をどうするか考える。
結果、私は大好きな酢豚を食べたかったが、冷蔵庫には年中豚が無いので有り余った卵で玉子焼きを作ることにした。→我ながら美味しく出来たと思う。きっと三ツ星レストランも適わないと思う。でも三ツ星レストランはダシ巻き卵を作らないとも思う。
 ご馳走様でした。私は簡素に食事を終わらし紺野を誘い湯船に浸かった。

     

紺野との生活は今年で3年目になるが、私は彼女のことをあまり知らない。
初めて出会ったとき、紺野は夜の薄暗い路地でうずくまっていた。しかも裸で…
何故裸で居たのか分からないが、私は慌てて着ていたコートを彼女にかけ自宅へ連れて帰った。
この日も今日のように遅くまで仕事をしており、なかなか帰れなかったことを覚えている。
そのあと今日のように一緒にお風呂に入った。
「森ちゃん何考えてるの?」
1畳もない湯船で遠くを見ていた私をみて紺野は不思議がっていた。
私はなんでもないよという風に首を軽く横に振る。
紺野はその日から我が家に居ついた。私はそれを拒むこと無く受け入れた。
何故私は拒むことなく受け入れたのだろう。私にとって紺野とは心の糧なのかもしれない。
 

       

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