Neetel Inside 文芸新都
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座敷牢の住人
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ある都会に豪華な屋敷があった。その屋敷は途轍もなく大きい、言わばその都会の目玉、シンボルのような建物だった。和の屋敷はお上品で庶民は入れないようなそんな気がしてならなかった。みんなの共通認識であったかもしれない。
 夜、満月が暗雲に隠れる頃、この屋敷から猫の鳴き声がした。子猫のような可愛いもんじゃない。発情期のメスのような、生命、作って出そうと思う声ではなく、喉の奥から、腹の底から、うわぁあああああと出す、そんな不気味で野生の声だった。なのだから、人々はこの時間帯にあの屋敷の前を通るのがたまらく嫌だった。本当に、わざと長い時間の掛かる道を歩いて行ったのだ。
猫が鳴く。脳裏に響いていった。ガチャガチャと金属音が響くと、さく、さくさくと草を踏む音が微かに響くと、農具を上から落としたような音と共に、男性の断末魔と、猫の鳴き声がけたたましく屋敷を襲った。が、しかしこの屋敷の前を通る人などいない。皆そんなこと知らぬ存ぜぬだろう…

わが屋敷は清廉潔白だ。なのだからその屋敷の裏など覗いちゃいかん。わが屋敷の裏には狭い座敷牢なる物があった。そこにはわがの出来損ないの兄、名もない、「おい」や「お前」とだけの兄がしまい込まれていた。出来損ないの血繋がりなのだから、わがしかこの屋敷や家を継ぐ者はおらんかった。あの血繋がり、もとい兄も養わんといけんのが辛かった。なーなー、にゃーにゃーとしか言えない、血繋がりがのうのうと生きれると思うな。

夜、それは真っ暗だった。座敷牢には、木材で作られており、南京錠でしめている。言わば軟禁状態だ。中には猫など入っておらず、三条井伊松郎の名もなき兄が入っていた。兄は、そこから出たく、南京錠をなめ続けた。長い時間、それが実になると信じて。すると、茶色に酸化した南京錠はボロボロになり、力を入れた嘘のように壊れるものと変わった。
満月が暗雲に隠れる頃、扉を開け、実に三十年ぶりほどに大きく広がる日本に出た。帰国できたのだ。となりの小屋からすっと農具を出し、家に叩き割って入った。久しぶりの弟よ…いつかまた、喋れたら会おう。振り下ろし、暗雲が月を隠した。息交じりの笑いをした。

       

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