Neetel Inside 文芸新都
表紙

風が吹たら桶屋がつぶれた
隣のじじい

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いきなり立ち上がったチンピラを前に、
見上げる形になった俺。
ああ、天井にも虫が沸いている…。
うわぁ。いっぱいいるよ。どこから…

「おいっ」
チンピラが視線を自分に向けるように怒鳴り声を上げた。
ああ、こいつケンカなれしてねぇな、やくざのくせにと思ったとたん
胸倉をつかんできた。
そのまま持ち上げられて、立ち膝の格好にさせられた。
まったく必要性を感じない距離まで顔を近づけさせられ、俺にガンとばし、
「ああああ、てめぇ聞いてんの…」

ボカッ。
殴ったのは俺だ。
こんな体制から殴ったところで、たいしたダメージはないのだが、
フイうちにびっくりしたのか、よろめいて、さっきのワンカップを踏んずけた。
俺と同じ状態で身体が斜めに傾いていった。
チンピラは転ぶ瞬間に、俺の服をつかんできた。
へっ!?
全体体重でひっぱられ、ゴミ山に二人で崩れ込んだ。

ゴッ
「びゃ」
チンピラが奇妙な声で鳴いた。
上から被さった俺の頭がチンピラの鼻に当たったらしく、鼻血を出している。
ちょっと涙目だ。あははは。

「うう…」
うめきながら、鼻を押さえてる。
あれ?折れたのか?なんかどんどん腫れてきてるような。
戦意を喪失したらしく。俺が引き上げてやると、黙って立ち上がった。

その辺のフキンを水で濡らして渡してやり、玄関まで連れてった。
「大家の件よろしく頼むな」
俺の返事に鼻を押さえながら、無言でうなづき、帰っていった。
どっと疲れた。

「よくやった」
背後から声が聞こえて、ビビッて振り返った。
じいさんいつの間にいたんだよ…。
まあ、このアパートにはじいさんと俺しか住んでいないんだがな。

じいさんは俺に千円札を握らせた。
「これでフルコースでも食え びゃっびゃっびゃっ」
なにそれ…ジョーク?まあいいや。
「いつも悪いね」
これ以上長くいたら話込まれる。そうそうに部屋に戻った。

くしゃくしゃの千円札を見るとちょっとだけ心が痛んだような気がしたような…こともない。

じいさんは、アパートの立ち退きに抵抗している。。
高齢者は年金もらってようが、なにしてようが、部屋を借りられないらしい。
身内もいないので、ここを追い出されたら死ぬしかないと言っていて、
俺にも立ち退きは拒否するようにしつこく迫ってきた。
俺が金に困ってるのを知っているせいか、子供のこづかいか?と思うようなはした金だが、
ことあるごとに俺に渡してくる。
俺はその裏で、仲介業者と大家からどれだけ金を引き出せるか動いているわけだが…。
ああ、心が痛い…。

部屋に戻ってまずは天井に殺虫剤をかけた。
虫と殺虫剤の液体がぱぁーと12月の粉雪のように俺の顔に降ってきて、
目を押さえてうめいた。
さっきからこんなんばっか。

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