「せせらぎとしての暁月見」
いい加減な青の空は私の胸を突くものでした。まだのぼりたての満月はいまだにかすみがかっており、眼球を潤わすものであった。縁側にポツンと座る私は、目の前にある情景しか頭に入らず、高性能な人間でなかった。今頃、人は何をしてるんだろう。ウゥン不思議ではないが、少しばかし考える。漆の塗られた素朴な縁側の割れ目を触ると、昔のことを思い出す。もう会えない彼のことを。
それは私が十五の時である。この時は、勉強がそこそこできるもんで、お気楽に本気を出さずしても、生活が出来てしまった。なんだか複雑になる数学の式は、私たちや彼女らの心情の複雑さをも表すようであった。この頃は受験が重なり、教室では一つの失言が命取りであった。少しでも「お前の点数、俺の十分の一にも満たぬようだな」なんて言ってしまったら、体が十分の一の小ささになってしまう。探り探りの会話が全体の基本であった。だがそれは努力を怠った、または行きたい学校へレベルが達してない人の話。私のように一歩一歩と安定し成長した人らは、推薦も視野に入れるほどの余裕があり、お気楽で足が浮いていた。難しい問題も粘らず解けるもの。運動という特技を生かし、優勝を続けスポーツ推薦ですぐ行けるもの。
私はその一人で、勉強もそこそこ出来る方であった。なので友達はたくさんいるが、受験期ということもあり、中々遊べずにいた。彼はそんな暇を持て余す私の前に突然やってきたのである。それも、隣に。あの時のことは鮮明に覚えている。彼がやってきた日は曇りで、その日から晴天はしばらく来なくなった。彼は同い年。彼と出会ったのは図書室でのこと。私は彼のクラスメイトとも仲良くなるくらい彼と会話をしていたが、なかなかのアプローチをしなかった。私は友達が多くあったので、自然に仲良くなれば良いと思っていた。彼も同じような思考なのか、私は彼と友達になった。しかし彼は私と遊ぶときがあったが、よく遊ぶ友達とは言えなかった。私は受験期ということもあり忙しかったし、彼もまた友達がいなかったから、遊ぶことさえ珍しかった。だがそんな彼とはある時からよく遊ぶようになる。ある時とは私の合格が決まった日である。そう、推薦が決定した日だ。彼は受験というプレッシャーから開放された私の心を癒した。その日も鮮明に覚えている。それは曇りの日で、その日から天気は回復の兆しが現れた。彼と私は手を繋いでいない。なぜだかわからないが、自然と手が絡み合ったのだ。ただただ一緒に歩いて帰っただけ。そしていつもの分かれ道で彼は、「ばいばい」と言って去っていった。彼との帰り道は短いが、記憶に残る長い時間であっただろう。
冬。粉雪が降りかかる日。皆は受験当日であったが、私はもう推薦で高校に行けるのでお気楽であった。
「すこし散歩でもいこう。」チェック柄のマフラーを付け、家の周辺を歩いていた。すると、彼に出会った。
「何しているの?」とぼけた優しい顔で彼は訪ねてきた。私にはその笑顔が眩しかった。私たちはよく遊ぶ友達以上の関係になっていた。私は彼の手を繋ぎながら歩いている。
「お気楽だなぁ」と彼は笑う。「ええ。だってもう受験終わったもの」「お前は合格したんだな。良かったな」彼は笑顔を崩さず続ける。「君もすぐ合格するよ。だから安心して」私は言った。彼は受験する高校が決まっていないのだ。
「じゃあまた今度な」彼は言う。「うん。ばいばい」私は手を離す。
彼は家とは反対方向に歩き出した。私は彼を見送る。
しばらくして振り返り、帰路につく。今日はなんだか疲れた。
春。