Neetel Inside ベータマガジン
表紙

私は妙な映画を観た!!
妙な映画館

見開き   最大化      

 映画館でしか得られない映画体験がある。
 今は亡き吉祥寺バウスシアターで爆音映画祭というイベントをやっていた。往年の名作を音楽ライブ用の音響で、観ようという映画イベントだ。吉祥寺バウスシアターは無くなってしまったが、今は日本各地でやっているらしい。
 その爆音上映の裏で、キャパ50くらいの小さな部屋で「グラインドハウス」特集上映がされていた年があった。当然、私は爆音で上映される『ディアハンター(※1)』や『千年女優(※2)』を横目に「グラインドハウス」特集上映へ足を運んだ。
 「グラインドハウス」とは何かというと、いわゆるB級映画と呼ばれる類の映画を上映していたアメリカの映画館のことである。
 爆音で上映されている映画の音が漏れてくる中、小さな部屋で観るB級映画は至高だった。当時のメモによると上映ラインナップは『食人族(※3)』に始まり、『情無用のジャンゴ(※4)』『デモンズ(※5)』『死霊のしたたり(※6)』『マカブル 永遠の血族(※7)』と続き『サスペリア2(※8)』でフィニッシュだ。私はメシも食わずにこの6本を鑑賞した。
 スクリーンは小さく、隣のシアターからの音漏れもして環境としては劣悪と言ってもいいが、それがB級映画の鑑賞にはいい空気感を出してくれる。

 劣悪な環境の映画館と言えば、新橋文化劇場を思い出す。ここも既に閉館してしまった名画座である。新橋駅の高架下にあり、電車が通るたびにガタガタと揺れが起こり、小さなスクリーンの両脇には便所があり、上映中に誰かが用を足そうものなら、便所から漏れ出た光が差し込む奇妙な映画館だ。横の劇場ではピンク映画を上映していることもあり、何とも猥雑でインチキな雰囲気が堪らなかった。
 この劇場で観る『ゾンビ(※9)』『プラン9 フロム・アウター・スペース(※10)』の二本立て上映は最高だった。特に『プラン9』は妙な映画の代表格のような映画である(史上最低の映画とも呼ばれている)。
 監督は、クソ映画を作ることでおなじみエド・ウッド。ティム・バートによる伝記映画まで作られるほどのクソ映画監督のレジェンドだ。
 とにかく低予算で作られたこの映画は、どう見ても灰皿を逆さにしただけの宇宙船や、他の映画で使用予定だったシーンを拝借してきて使用していたり…などツッコミどころの枚挙に暇がない。
 グラインドハウスで観る映画というのは、こういう感覚だったのだろうかと思いを馳せながら観る『プラン9』は以前に家で観た時よりも非常に面白く感じた。余談だが、その後、『プラン9』の総天然色版が製作され、その上映会も観にいった。人生で何度もこんな映画を観るとは、なんという時間の浪費であろうか……。

 グラインドハウス的な映画体験と言えば、もう一つある。これまた既に閉館してしまったシアターN渋谷である。この劇場もスクリーンは小さめで、座席の傾斜が緩やかで、前の座席に人が座ると頭が非常に邪魔だった。
 そういう環境で観る、HGルイスの特集上映は最高だった。『ゴアゴアガールズ(※11)』なんかでは劇場が笑いに包まれていた。殺人鬼が、被害者女性のおっぱいの片乳首を切り落とし、左のおっぱいからは母乳が、右のおっぱいからは血が吹き出て、それをワイングラスで受け取り、一人で乾杯するシーンだ。雑に殺人鬼が車に轢かれて死ぬシーンも楽しかった(思い返せば『メイクアップ 狂気の3P(※12)』という映画のラストもこんなんだったな)。

 サブスク全盛の時代だが、妙な映画こそ映画館で観たいものだ……。とはいえ、シネコンばかりが生き残り、単館系や名画座が無くなっている現状は何とも寂しい。

     

※1 ディアハンター
 マイケル・チミノ監督
 ベトナム戦争に徴兵された若者たちを描く映画。敵に捕まりロシアンルーレットを強要されるシーンは『ミート・ザ・フィーブルス 怒りのヒポポタマス』でもパロディされていた。

※2 千年女優
 今敏監督
 伝説の女優、藤原千代子のドキュメンタリー制作の中で語られる、好きな男を追いかける話。虚実綯い交ぜになっていく物語がユニークに語られる。

※3 食人族
 ルッジェロ・デオダード監督
 ドキュメンタリー撮影のため、南米アマゾン奥地の秘境を探索していた4人のアメリカ人が撮影したドキュメンタリー映画が流出した、というテイで上映されたモキュメンタリー映画。

※4 情無用のジャンゴ
 ジュリオ・クエスティ監督
 マカロニウエスタンのシュールレアリズムと評された作品。
 『続・荒野の用心棒(原題:DJANGO)』とは関連がない。ちなみに言うと『続・荒野の用心棒』も『荒野の用心棒』とは関連がない。

※5 デモンズ
 ランベルト・バーヴァ監督
 映画館を舞台にしたゾンビ映画。監督のランベルト・バーヴァはマカロニホラーの雄、マリオ・バーヴァの息子。

※6 死霊のしたたり
 スチュアート・ゴードン監督
 HGラヴクラフトの『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』を原作とした実写映画。
 主人公のハーバートが、死体を蘇生させる血清の発明に成功させるも、蘇生させたゾンビが暴れ出す……というコメディホラー。

※7 マカブル 永遠の血族
 キモ・スタンボエル、ティモ・ジャヤント監督
 インドネシア版『悪魔のいけにえ』と評されるスプラッターホラー。

※8 サスペリア2
 ダリオ・アルジェント監督
 同監督の『サスペリア』とは関連がない。というか『サスペリア』より前に作られた映画である。

※9 ゾンビ
 ジョージ・A・ロメロ監督
 ゾンビが蔓延する世界でショッピングモールに籠城するホラー映画。
 ゾンビ映画の祖である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編で、現在ゾンビ映画が広く作られるきっかけとなった作品。

※10 プラン9 フロム・アウター・スペース
 エド・ウッド監督
 地球を侵略しようとする宇宙人と人類の攻防を描いた映画。
 全体的に緩慢な空気感で、低予算感も溢れている。

※11 ゴアゴアガールズ
 ハーシェル・ゴードン・ルイス監督
 ストリッパーを狙った連続殺人を私立探偵と女性記者が捜査する映画。
 ゴア描写が多彩で観客を飽きさせないHGルイス監督の作品でも屈指の出来である。

※12 メイクアップ 狂気の3P
 ピーター・S・トレイナー監督
 行きずりの女2人と3Pをした主人公が、軟禁され家を好き放題に荒らされる映画。
 何をまかり間違ったか、キアヌ・リーブスを主演にし『ノック・ノック』というタイトルでリメイクもされている。

       

表紙

向井 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha