異邦人

 エルナン・コルテスは上機嫌であった。馬上の彼の足元には、先ほど下したインディオの小部族の族長がかしずいている。食料も財宝も女も、コルテスが一言命じれば言われるがままに差し出すだろう。この「新大陸」にあって、コルテスたちスペイン人はまさに神のごとき存在であった。原住民、インディオたちは、火器や馬はおろか鉄や車輪すらも持っていないのだ。ほんの500名ほどのコルテスの「探検隊」は、破竹の勢いで侵略を続けていた。コンキスタドール。スペイン語で意味するところ、征服者。それが彼らの名である。ひざまずく族長の苦渋に満ちた顔をみて、コルテスは残忍に笑った。物欲、肉欲、名誉欲、そして支配欲。インディオたちはその全てを満たしてくれた。

「先遣隊が拾ってきたあの女、どうなった」
 コルテスは脇に控えていた部下に尋ねた。上機嫌の理由はもうひとつあった。
「今しがた目をさましたようです。奴隷どもの天幕に寝かしています」
「後で俺の天幕に運んでおけ」
 は、と一礼して去る部下を目で追い、コルテスは満足げにうなずいた。偵察が拾ってきた娘は、まれに見る上物であった。インディオの女には珍しく、白く美しい肌をしていた。西洋の貴婦人のように透き通るような、とはいかないが、少なくとも少々食傷気味だった浅黒い奴隷女たちとは段違いだった。林の中にひとりで倒れていたというが、何か訳ありなのだろうか。
「敬虔なクリスチャンたる俺に、主からの贈り物かな?」
 コルテスはひとりごちた。毎日欠かさずお祈りするクチではないが、軍に小うるさい修道士を同行させて、新大陸でのキリスト教の布教活動に大きく貢献している訳だから、あながち間違いではあるまい。この辺境の楽園にあって、もはやコルテスには手に入らぬ物など何一つないように思われた。
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