オセロメー


「やったぞマリンチェ、やった!」
 息を切らして部屋に入るなり、マンコはマリンチェに抱きついた。
「ど、どうしたのマンコ?」
 突然太い腕にからまれて、どぎまぎするマリンチェ。
「っ――ごめん!」
 マンコはわれに返って顔を赤らめた。
「でも、君に一番に知ってほしくて」
「何? 何があったの?」
「選ばれたんだ、僕。オセロメーに!」
 オセロメー。ジャガーの扮装をした精鋭の軍団。鷲の扮装をするクゥアクゥアウーティンと並ぶ、最高位の戦士の称号。マンコは十八になったばかり、しかも流れ者である。まさに異例の大抜擢であった。
「マリンチェ?」
 少女の目から大粒の涙が流れていた。
「おめでとう・・・・・・おめでとう・・・・・・」
 絞り出すような声。
「明日、神殿で任命の儀式をするんだ。君にも見ていてほしい」
マンコは、泣きじゃくる少女の華奢な体を優しく、しっかりと抱きしめた。

 夜。虫とフクロウの軒声がやけに響く、蒸し暑い夜。いや、自らの興奮がそう感じさせているだけなのか。マンコは眠れぬ夜をすごしていた。最年少のオセロメー。羨望と畏敬の的。身寄りの無い自分が。――死すべき運命にあった自分が。全てが嬉しく、誇らしかった。自分という存在が認められたことが。この国で、自分が必要とされていることが。マンコは今、自分が生きていること、その意味をしっかりとかみしめていた。

 カタン、と小さな音がして、寝室の扉があいた。
「おきてる? マンコ」
「マリンチェ?」
 マンコは体を起こして声の主に向き直った。息を呑んだ。暗がりの中に、マリンチェのなめらかな肢体がうかんでいた。一糸もまとわぬ姿。後宮の女官の誰よりも白く柔らかいマリンチェの肌は、青い月明かりに照らされて病的な美しさをみせていた。
「マンコ、あなたが好き」
 それ以上の言葉は交わさなかった。
sage