儀式

 最上階の部屋は、思ったよりたてに長いつくりだった。奥の床は一段高く、その上に台座が置かれている。
「遅かったの、マンコ」上手からクパァ老の声。
「これへ」
 マンコは部屋の中に一歩踏み入れた。瞬間、面食らった。部屋の両端に、二十ほどの戦士がずらりと並んでいる。右手にマンコと同じ格好をしたジャガーの戦士たち。左手に異様に長い羽の冠をつけた鷲の戦士たち。いずれも極限まで息をひそめ、微動だにせず直立している。肌を刺す強烈な重圧に、何度も転びそうになりながらマンコは歩いた。台座の前にたどり着くと同時に、ガクリとひざをつく。
「ようきた」
 冷たい声のクパァ老。それはいつもの好々爺の姿ではなく、威厳に満ちた聖職者としての姿であった。

「一の葦の年、満つるつきの日。テスカトリポカ神への生贄の儀式を始める!」
 クパァ老が高らかに宣言した。突如、石像のようだった戦士たちが棍を打ち鳴らす。生贄? 何を言っている? マンコの心臓が早鐘をうつ。生贄という言葉によみがえる、自らの忌まわしい過去の記憶。今にも叫びださん恐怖と猛烈な吐き気。乾いた棍の音が、マンコの脳を揺らした。何か悪い冗談だろう。助けを求めるようにマンコはクパァ老の顔を見上げた。
「マンコよ」
 なおも冷たいクパァ老の声。左右から一人ずつ戦士が進み出て、マンコをかかえおこす。手に握らされる剣。太い棒に黒曜石の歯を埋め込んだだけの、無骨なアステカの剣。
「おまえがやるのだ。それをもってオセロメー任命の儀を兼ねることとする」
 クパァ老が目の前の台座に掛けられていた布をとる。マンコは、一瞬心臓が止まったような衝撃を受けた。全身の血の気が引くような感覚。台座の上に力なく横たわる青白い肌、それはまぎれもなくマリンチェのものであった。
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