「言っとくけどよぉ、お前色々間違ってるからな? そこから俺は文句っつーか苦言を垂れてぇ」
最後で終わって、享年十七歳で死んだはずの私は、今、どうしてか無事な姿で生きている。
……は、ん?
どゆこと? 死んだ、よね。確実に……。
でも、生きて、る?
何で?
いやいやいや、そもそも事故に遭ったのは間違いない。
仮に命がなんとか繋がってたとしても、全くの無傷なのはおかしいでしょ。痛いところもかゆいところもないって……。なんなの?
私が今居るのは、どうしてか国内シェアナンバーワンの有名ハンバーガーチェーンの店舗だった。
見たことのない構造の建物だから来たことがある場所じゃない。でも、内装からそれが分かる。っていうか、普通にレジカウンターとかあるし、Mの文字が至る所に目に付くし。
じゃなくても、目の前でくっちゃくっちゃ何かを食ってる誰かさんがいて、ソイツが食ってるのどう見てもビッグなMだしさ。
改めて周囲を見回して、やっぱり確信する。ここは間違いなくM的なハンバーガーチェーン店だ。やっぱり、どこの店舗は知らないけど。
私はその店の中の席に座っている。四人がけテーブルで、店舗の都合上か、それでも机は狭く感じる。まぁ、食べるメニューがハンバーガーだから、広い机が必要ないだけの合理的な理由なのかもしれない。
……いや、そんなことはどうでもいい。
そんな事を考えてる場合じゃない。何が店舗の都合で合理的、だ。馬鹿じゃないのか私。
そんな私に、目の前でビッグなMを頬張る誰かさんが言った。
「あのなぁ、“プライムタイム”って別に最高な時間、みたいな意味はねぇからな? 元は、っつーか、意味的にはテレビ用語で……。いや、だりぃな……。まぁゴールデン帯、みたいな意味だよ。そう思えば大差ねぇ」
プライムタイムをわざわざ説明しようとしたわりには、非常に雑に言葉をまとめた目の前の誰かさん。
そちらを意識的に見て、初めてその誰かさんの顔を私は知った。
今、テレビで活躍してる有名男性俳優だ。一言で言えば若いイケメンである。今も相応に清潔感のある服装をしている。
えっと、で名前は……なんだっけ?
私は正直、この人の顔、好みじゃないから名前も知らない、ということに本人目の前にして改めて意識した。失礼極まりないけど、知らないものは知らない。知ったことじゃない。
いや、じゃなくて。それも違うでしょうが。
どうして、死んだはずの私はぴんぴんで、その誰かも知らん有名男性俳優と、Mなバーガーショップで会食してるんだ。考えるならそこでしょうが、自分。
いやいや……?
あれ? なんで本当にこんなことに? 意味が分からん……。
私が静かに混乱していると、その有名男性俳優さんは訝しげに眉を寄せた。
「あん? つぅかリアクション薄くねぇ? コイツ有名なんだろうが。もっと黄色い声を轟かせろや。こっちのサービスに対して失礼じゃね?」
訝しんだ誰かさんは、顔同様に渋い声でそんなことを言っている。
いや、そんなことを言われても。
いやいや、え? 何を言っているのこの人……。怖い。
本当に分からない。色々が不明すぎる。本当に混乱してきた。
目の前の誰かさんは不審そうに首を傾げ、机の上に置いているトレーから、ポテトを数本つまみ、もしゃもしゃ食べた。
……食べた、じゃないわ。説明してください。
「あん? 説明? だりぃな……」
ふと、その誰かは口に出してない私の思考に返事をした。え、何? エスパーなの? 怖い。
ますます混乱する私に、その誰かは舌打ちをして、ボリボリと頭を掻いた。
若いけど醤油顔のその誰かさんは、これからまだバーガーを食べるというのに頭を掻いて気にならないんだろうか衛生的に。と、どうでもいいことが私としては気になる。いや、本当どうでもいいけど。
どうでもいい事を考える私に対し、男性は、自らを指差してこう言った。
「俺、神よ神。いわゆるゴット。最高神っつーか唯一神? ま、そういうパねぇヤツなわけ。シクヨロ~つって」
超軽い口調でその誰かは言い、私は反射的に携帯電話を取り出そうとした。
この人は不味い。いろいろ不味くて可哀想な人だ。今すぐサイレンの着いた車両を呼ばないといけないことを私は悟る。
あれ、でも、こういう場合、プッシュする数字は、一とゼロを組み合わせるべきか、それとも一と九を組み合わせた番号が必要なのか? いや、まずは私の身の安全が必須だ。公的捜査機関を招集しよう。
私がポケットに手を入れようとしたとき、その誰かさんは肩をすくめた。
「まま、落ち着けよ、下等なる人間よ。わい……じゃない、我? 我の言葉……託宣? えっとあれだ。あのいい感じの崇高っぽい言葉……、天上のお告げ? あ? これ自分で言って良いのか? 告げてるって言うか、俺が直で言ってるわけだし。お告げも託宣も微妙に意味ちがくねぇか?」
は?
「ま、偉大なる神からの、つまり俺からのお言葉をまずは黙って賜んなさいよっと。神たる俺は仰ってるわけ。分かるな? 愚民」
あぁ、いよいよだめだこの人。
もう一秒たりとも付き合っていられない。そう思って、私は手を伸ばしスカートのポケットを探ろうした。
でも、出来なかった。
出来るわけがない。
今の私にはスカートがない。では裸なのか、乙女の一大事なのか、というとそれでもない。
腕がない。服を着るどころか着るべき身体がない。下手をすると頭も顔もない。
身体が、どこにも無い。
本当に何も無いのだ。なにも無いというのが今の私の状態だった。
「魂っての? そういうのだけを今は抜き取ってんの。だから意識はある。世界を視覚的に捉え、聴覚的に知り、嗅覚を持ってして認識する。今のお前に出来るのはそれだけ。ガタガタ説明するのだりぃしめんどいからな……。そういう有無を言わせない状況を作れば、否応にも理解するしかねぇだろ、なぁ――」
「瀬名美言。享年十七歳ちゃん?」