Neetel Inside 文芸新都
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糞スレがくれた僕の青春
第一話 糞スレ

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平成15年。

俺は働かず、親に迷惑ばっかりかけているダメ人間。今年でもう26。
髪はボサボサ、服装は年中パジャマ。
暗闇での読書で悪くなった目にかけている眼鏡は薄汚れている。
部屋はなんとも言えない悪臭が漂っていた。
5畳半の部屋。男一人が住むなら充分の広さだった。

本は巻数がバラバラで、空き缶や空きペットボトルは無造作に散らばっている。
本とは言っても、現代のようなキャピキャピした漫画では無く
「六法辞書」「国語辞典」など読みもしない本があった。

こんな時代にもいたのだ。現代の言葉で言う「ニート」が。

自宅は島根にあり、親は共働きで兄弟は弟が一人居る。
父親は某会社の係長。母親は新聞配達。
弟は野球の名門の高校に通っている。

自分も野球をしていた。しかも弟同じ高校だった。
これでも4番打者だった。
親にも先輩にも先生にも、皆に将来を期待されていた。
いまとなっては昔の思い出だ。

ニートといっても、外には出るし、友好関係も少しはある。流行も気にする。
そして、この頃はまっているのは「VIP」だ。

いや、はまっていると言う表現はおかしいだろうか。
正確に言えば「見ている」が適当であろう。

「VIP」とは、巨大掲示板「2ちゃんねる」のカテゴリの一つ
「ニュー速VIP」の事だ。これの事を一般(?)に「VIP」と言う。
「VIP」は雑談系では多分一番流れの速い所である。
そしてここの住人を「VIPPER」と言う。

かく言う俺も「VIPPER」の一人である。
なかなかおもしろい所なので、一度見てみてはいかがであろうか。
それはともかく、今日も暇な時間を潰すため、この「VIP」を見る。


俺はチラッと時計を見る。もう午後3時だった。
今日は5時から用事があるので、すこし慌て気味にパソコンをたちあげた。


     


「ったく、やっぱこのパソ遅いな・・・」

新品にでも変えようか、と言おうと思ったが、独り言ほど寂しい事は無いので
思い留まった。ロード中はニートにとって暇なのだ。
メールの返信内容に悩む事も無いし、本もすべて読んでしまった。

さて・・・・なにをしようか・・・・

絵でも書いておこうか?いいや、俺には絵心など無い。
オナニーでもしとくか?いいや、先ほど済ましといた。
それじゃぁ・・・・・どうしようか・・・・

そんなくだらない事で悩んでいる間、既にロードは終わっていた。
いつもこうだ。つくづく自分はダメ人間、と思ってしまう。

「そういえば」

と今頃思い出す。
今日の用事では、すこしお金を持参してきて欲しいとの要望があった。
その事を思い出し、インターネットに繋げ、そのロード中に部屋を出た。
そして母親に事の説明をした後、「金をくれ」と言い放った。

母親は渋々お金を出し、俺に渡した。
我ながら、何度も何度もしつこいが、ダメ人間だなと思ってしまう。

     

俺は部屋に戻った。
慣れてしまったのか、扉を閉めて鍵をしめる手際は
泥棒やモノマネ芸人にも出来ない程上達した。
さらに漫画や同人誌のような展開で、

「オナニー中に可愛いオニャノコが目の前に現れ、射精してしまう」

などありえない事を想定し、オナニーの際は
いつでもいいように「射精所」を設けてる。
悪臭の根源の7割はこのイカ臭いニオイの所為だろう。
突っ込みどころ満載だが、あえてしないで頂きたい。

席に座った時にはすでにネットに繋がっていた。
早速お気に入りからVIPへ移動した。さすがのポンコツパソコンでも
時間はそれほどかからなかった。
直リンでは無い為、多少時間はかかったが。

「さて・・・何を検索しようか・・・」

毎日この事で悩んでいる。
相当のスレ数があるにしても、おもしろくないスレ「糞スレ」が
あまりにも多すぎる。
その上、更新速度が速いためリアルタイムで
「良スレ」に巡り合うのは至難の技だ。
釣りスレでも建てて、楽しんでみようかと何度か試みてみた事もあるが、
どれも半分のレスも満たさずに過去ログ行きだった。

自分はこんな時にはまず何かで検索をする。
もし、仮に世間で話題になった「A事件」というのがあるとしよう。
その時には「A事件」「A事件の被告人」「被害者」など、
色々な方向で検索してみる。
大抵はこれで何件かはヒットする。
まぁ内容はあまり期待できない上、住人の偏った意見しか見れない。

何分か、検索して探してみたが、良スレは見つからず、
直接VIPに出向いた。

     

直接VIPに行って見たが、どれも単発糞スレでつまらない。
あるとしたらだらだらとパート化した馴れ合いスレしか見に止まらない。
またハルヒか。また腹筋スレか。また松崎しげるか。と落胆しつつある。

だが、どうしようもない糞スレにも、なにか「ときめき」を感じる事もある。

まさに今回がその実例であった。

スレタイ:糞スレ

「なんともありきたり・・・釣られてやるか」

既にパソコンを立ち上げて30分弱を過ぎていた。
そろそろ準備をして待ち合わせ場所に行かなければいけない時間であった。
「このスレ見て終わるか・・」と心の中で呟き、スレを開いた。

予想通り。まさに糞スレであった。
1のコメントは「、」だけであって、まだレスが5個しか付いてなかった。
単発レスどころじゃない。目的も何もあったもんじゃない。
仕方ないので、レスを見てみよう、と思いカーソルを下へ下げた。

かわいそうに・・・2getさえしてくれてない・・・

時間が迫ってるので、ウィンドウを消そうとしたその時、ある異変に気付いた。



「い・・・・1のIDが・・・・無い・・?」

俺は画面の前で驚愕した。
オカルトとか心霊とかまったく信じない俺がたった今恐怖を感じた。
いや、それよりも気付いてない住人に恐怖を抱いているのかも知れない。
自分もVIPPERとして、書き込まざるを得なかった。
恐怖という感覚が、好奇心に変わっていた。
そしてここでもちょっとした奇跡が起きた。

書き込みをした直後、自分と同時刻、同じIDで他の住人が書き込んだ。
なんなんだ今日は。自分が怖くなるほどの幸運だった。
自分はおもしろくておもしろくてその、他の住人にレスをした。

相手からもレスが来る。こっちがそのレスに返答する。
ものすごい勢いで俺とその住人のやりとりが繰り広げられていった。
気付いた頃にはレスは500まで行っていた。
あわててパソコンを閉じ、素早く支度を済ましたときには既に4時10分。

携帯をポケットにしまいこみ、急いで待ち合わせ場所に走っていった。

       

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