Neetel Inside 文芸新都
表紙

怠慢な粗粒子
フィムの空

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 この作品は、時雨沢恵一先生著作「キノの旅」の世界をモチーフとしたアンソロジー作品となっております。
 従いまして、「キノの旅」シリーズファンの方々には、不愉快な表現が含まれている可能性があります。
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 白いペンキに、茶色のペンキを垂らし込めばこんな色になるのではないか、というような一面の黄土色だけだった。
 一昔前には、ここには大きな国が鎮座していた。代謝の速度を自由に調節出来る民族が住み繁栄していた国だった筈だ。旅人達の間では『止まった国』と呼称されていた。
 今は、欠片も無い。
 水溜まりも、瓦礫も、パンの欠片も、何一つ存在しない黄土色。
 彼らがどこに行ったのかを知る者は、いない。
 己の生命を儚きものとし、絶えたのか。はたまた無限のものとし、宛の無い大移動を行ったのか。


 そんな、黄土色一色の砂漠から見上げた、これまたその名の通り空色一色の青空。
その青空を、一機のエイル(注:滑空機。車輪が付いているものだけを指す)が横断していた。
 両翼に、荷物が括りつけてある。折りたたんだ小規模のテント。錆び付いたカンテラ。ウサギを開いて干物にしたと思われる乾燥肉(或いは乾燥中の物も含まれる)。くしゃくしゃに丸めたジャケット。etcetc……。
 それでも、飛んでいた。飛行が可能な乗り物は多々あるが、これだけの大荷物を抱えて尚、風力のみで空を滑空する事が出来るエイルは、それなりの希少価値がある物である。
 エイルには、一人の少年が搭乗していた。
 太陽の光を遮るレンズを使用したゴーグルを装着し、服装は至って軽装。上は黄ばみの掛かった不衛生なやや大きめのタンクトップに、袖無しの漆黒の皮製ジャケット。下はパースエイダーの収まったホルダーやら用途不明のシルバーアクセサリーのぶら下がった、これまた漆黒のハーフパンツ。足は烈火色のスニーカーを履いていた。背には、身の丈と比べて尚余りある全長の、血のこびり付いた両刃斧を背負っている。血の持ち主が何の生物なのかは、混ざり過ぎてて判別がつかない。
 エイルは、東へ東へと進んでいる。
「砂漠だなぁ」
「砂漠ね」
 エイルの運転手がぼやくと、エイルが返答するように、これまた同じ事をぼやいた。
「流石の貴方も、砂は食べられないかしら?」
「よせよイカロス。食料ならたんまりあるじゃないか。それに俺は今、水が飲みたい。油の乗った肉なんか、見たくもないよ」
 イカロスと呼ばれたエイルが、両翼を軋ませて笑った。運転手が、腹の底の淀んだ空気を吐き出すように、大きな溜息をつく。
「少しくらい休んだらどうなの、フィム? 三日は飛び続けてるじゃない」
「いや、ここは駄目だ。風が吹いてない。ここで降りると、二度と飛べないかもしれないよ」
 フィムと呼ばれた運転手がそう言って、無遠慮に照り付ける太陽を睨み付けた。
 もう三日間、水を口に含んでいなかった。
 あるには、ある。右翼にぶら下げた水筒には、非常用の水がちゃぷちゃぷと音を立てている。
 ただ、フィムはこれに手をつけることはしなかった。非常用は非常用であり、こうしてイカロスに搭乗して空を滑空する事が出来ている現段階は、非常時ではないのだ。非常時ではないのだから、水筒に手をつける事はしない。乾燥肉にも、同じ事が言えた。
「旅人くらい、通らないものかな」
「強奪するつもり? 私はそんな事許しませんからね」
「そんな物騒な事考えちゃいないよ。少し水を分けてもらおうと思っただけじゃないか」
 尤も、フィムの現在の乾きから察するに、到底「少し」では済みそうもない事は明白なのだが。
『止まった国』の跡地を目の当たりにした時、フィムは大層落胆した。
 おそらく、数日そこら前に崩壊したのではないのだろう。そうであれば、国が国であった残滓の数々が残っているはずなのだ。そこには水があって、無人の朽ち果てた民家があって、使い古しの毛布だって残っていたのかもしれない。
 実の所、フィムはそれを目当てにしていた部分もあった。美味しい食事に暖かい暖炉があればそれに越したことは無いのだが、跡地なら跡地で採取出来るものがある。
 それすらも無いから、落胆したのだ。
「イカロス。あとどれくらい進んだら、次の国がある?」
「少なくとも、あと三日は飛ばないといけないわね。風がもう少し強ければ、もっと早くついたんだけど……あら?」
 不意に、イカロスが言葉を止めた。
「人だわ」
「どこに?」
 フィムが、目を輝かせて黄土色に目を見張る。フィルの目には、黄土色しか映らない。
「人というより、乗り物ね。荷物が沢山積めるのだわ。こっちに向かって走って来てる。そうね……三十分後くらいにすれ違うと思う」
「水だ」
「強奪は駄目よ」
 イカロスが釘を刺し、両翼を風に凪いだ。


「こんにちは」
「よぉ。旅の人かい?」
 斯くして、フィム達と大型四輪車がすれ違う頃、フィムはイカロスを着陸させて、四輪車の運転手の男と挨拶を交わした。運転手は、愛想の良い笑みを浮かべている。
「まぁ、そんなところです。道中で、水が尽きてしまって。申し訳無いのですが、水を分けて頂けませんか?」
 嘘をついた。本当は水を所持しているのだが、あれは『非常用』だ。
「構わないぜ。おぅ、水筒取ってくれや」
 運転手が後部座席にそう言い放つと、後部座席から、水筒を握った腕が伸びてきた。一人で横断しているわけではなさそうだ。
 フィムが水筒を受け取ると、遠慮がち……に見えるように、ガバガバと水を咽喉に当てる。水が咽喉を通って、胃に溜まって、全身に巡り、肉体が生き返る。フィムが想像していた以上に、フィムの体は水が足りていなかったようだった。
「……有難う御座います。助かりました」
「良いって。……あぁ、いや。それのお礼って言ってもあれだけどな」
 運転手が、フロントガラス越しに砂漠を見渡して、溜息をついた。
「ここら辺に、休めそうな国って無いか? ちっと長旅で、俺もコイツらも疲れちまってよ。一人は完全にダウンしちまってるんだ」
 親指で、後部座席を指した。フィムが覗き込む。
 無精髭の男が座っていた。無愛想ではあるが、片手を挙げて挨拶してきたところを見るに、それ程人が悪いわけではなさそうだ。
 無精髭の男とは別にもう一人居たのだが、タオルを頭に乗せて横になっていた。日射病の類かもしれない。或いは四輪車酔いか?
「正直言うと、そろそろ食料も底を尽きそうでよ。色々と補給出来る国なりオアシスなりあると良いと思ってんだが……」
 運転手がそう言って、ふとイカロスに目をやった。
 イカロスの両翼には、乾燥肉がぶら下がっている。
「それなら」
 視線を遮るように、フィムが声を張り上げた。運転手は、少々驚いたようにフィムに目をやる。
「ここをずっと先に行った所に、国があります。そこなら何か補給出来る『かも』しれません」
「お、おぅ。そりゃ良かった。ありがとよ」
「いえいえ。それでは、俺達はこれで」
 フィムがイカロスに騎乗しようとして、四輪車に目をやった。
 四輪車は、巨大だった。後部席から後ろが、丸々積載庫になっているタイプの四輪車だ。
 食料を運んでいる……のではないのだろう。どこの国からここまで来たのかは解らないが、長距離の横断では、食料など腐ってしまう。それに、先ほどの運転手の発言からして、正確にルートを把握しているわけではなさそうだ。
 可変的なルートを選択しなければならない理由がある、という事だろう。
「フィム。あの人達、多分」
「うん、多分そうだ。最後に『ハーケン』を研いだのは何時だったろう?」
「三日前。私に乗る前に研いでたわ」
「なら、大丈夫だ」
 運転手は、首を傾げてこちらを見ている。二人の会話は、運転手には届いていない。
「どうしたんだ?」
「いえ、風を待ってるんです。どうぞお構いなく」
 運転手は、少しばかり怪訝そうな顔をしたが、ほどなくしてまた、人の良い笑顔になって、四輪車を発進させた。去り際、「良い旅を」と言い残して。
 風は、まだ吹かない。
「国があるなんて、嘘言って」
「嘘じゃない、実際にあったんだから。それに、もしかしたら捜せば何かあるかもしれないだろう? 俺達は、捜さなかっただけだ」
「恩を仇で返したの?」
「水なんて、後から沢山手に入る。エイルでの横断じゃ三日掛かったけど、四輪車なら一日もあれば辿り着くさ」
 尤も、そこに食料なんか無いけどね。とフィムが呟いて、指を舐めて空に突き上げた。風が徐々に吹き始めているが、エイルを滑走させて離陸させるには、まだ弱い。
 四輪車がこのまま進めば、生物などほとんど存在しない極寒の雪原に辿り着く事を、フィムは知っていた。


 そのまま日暮れまで待ったものの、遂に離陸に必要な分の風が吹く事は無かった。フィムが肩で溜息をつき、イカロスから小型のテントを下ろして、組み立て始める。
「あら?」
 イカロスが、妙な声を上げた。
「何?」
「モトラドだわ。沢山の荷物を積んでる。旅の人ね」
 珍しい事だった。『一日の間に出会った人数をカウントする』作業において、小指が使用されるのは何時振りだろうか?
「どれくらいで接触する?」
「……二十分くらい、かな。パースエイダーを持ってる。二丁ね、珍しいわ。しかも片方はリボルバーみたい」
「リボルバーだって? そりゃまた……」
 よほどの間抜けか見せかけ者でもない限りは、リボルバーなんて使い勝手の悪いパースエイダーなんか使わない。それでも使用するという事は、雷管或いは弾丸そのものに細工を加える事が出来るほどパースエイダーの取り扱い技術に優れているか、或いは火薬の良し悪しを見分けられるくらいの知識を所有しているか。
 ──段持ち、か。
「喧嘩しちゃ駄目よ。旅人同士、仲良くしなくちゃ」
「冗談言うなよ。段持ちに喧嘩吹っかけて、勝てるわけが無い」
 フィムとて、パースエイダーは所持している。ただ、こちらはもっぱら狩猟に使用している物であって、とても銃撃戦で持ち寄る事が出来るような優れものなわけではない。
 そんな時の為に、『ハーケン』があるのだ。尤も、段持ちが相手では懐に入るスキすら作らせてもらえないのだろうが。
「また喧嘩の事考えてる。今度また喧嘩したら、もう乗せてあげないんだから」
「向こうの出方次第、かな。せいぜい、イカロスがはぐれエイルにならない事を祈ってるよ」
 もう! と声を上げて、イカロスが両翼をわななかせた。


 珍しい事に、イカロスが目算を外して、モトラドに跨った旅人とフィムが鉢合わせたのは二十五分後だった。
「こんばんは。ようこそ砂の世界へ」
 フィムが皮肉めいた挨拶をすると、旅人は、やはり愛想の良い微笑みで会釈を返す。
「そんな砂の世界で、キャンプを? 冥土の沙汰じゃないなぁ」
「正気の沙汰、のこと?」
「そうそれ」
 喋るタイプのモトラドだった。頓知な事を言って、運転手である旅人に修正を受けている。
「風が無いと、コイツが飛べなくて。あ、俺はフィム。このエイルはイカロスって言います」
「こんばんは、よろしくね」
 フィム達が簡潔な自己紹介をすると、旅人が会釈し、自分の名とモトラドの名を名乗った。モトラドが「どうもねー」と気の抜ける挨拶をして来る。
 敵意は、無いようだ。尤も、敵意があった場合、今頃フィムはサソリの餌にでもなっていたのだろう。旅人が腰にぶら下げているパースエイダーの錆が、どれだけ使い込まれているものなのかを如実に表している。持ち主の腕前もまた然り、だ。
「風力だけで、飛ぶんですか? この積載量で?」
「飛ぶわよー。私、力持ちなの」
 旅人は、大層驚いていた。モトラドが「ぼくも随分背負わされてるんだけど」と独白したが、そもそも大型のモトラドは、その為のものである。特に自慢出来る事ではない。
「国を探しています。食料と、水と、あと……」
「フカフカのベッド」
「……が、あれば尚良いのですが、心当たりはありませんか? ボクらは西から来ました」
 フィムが、旅人の目を見た。旅人は、真っ直ぐにフィムの目を見ていた。
「俺達は東から来たけど、この先に国は無いですね。国どころか、このまま真っ直ぐ進めば、鼻水も凍るんじゃないかって雪原に出る」
 それに、とフィムがひと段落置いて、
「つい数時間前に、人売りが通っていった。腕に覚えが無い限り、ルートの変更をオススメしますよ」
 旅人が、フィムの背に負われている『ハーケン』に目をやった。フィムもまた、旅人の全体像を無遠慮に眺め回した。
 一言で言えば、華奢である。仮に隣のモトラドが横転した場合、如何にして体制を整えなおすのかが、想像に難しい。背も低い。ついでに言えば、それほど年齢を重ねているわけでもなさそうだ。自分と同い年か、それ以下か。
 捕獲の事情でも、売買の事情でも、人売りが好みそうな人材である。
「どうする? 進路を変えようか?」
 モトラドが、旅人にそう問い掛けた。
「いや、このまま進む」
「だろうねぇ」
「どういう事?」
 イカロスが、モトラドに問う。自分以外の人語を理解する乗り物に出会って、少々興奮している様子にも見える。
「前回もね、そんな風に進路変更を勧められたんだ。君達みたいにね」
「それで?」
「今の、この現状。斯くして太陽と七回オハヨウする間、暖かいベッドとも熱いシャワーともご無沙汰なのでした。チャンチャン」
 成る程。夜闇に紛れて見えなかったのだが、よく見れば旅人の顔面は、少々黒ずんで扱けて見えた。
「ボクは、自分を信じる事を覚えた。きっとここで進路を変えれば、また延々とお尻を痛める旅になる。……と、思う」
「自分を信じる事と、他人を信じない事は違うと思うよ、ぼくは」
「決めた。このまま進む」
「……ハイハイ」
 旅人がモトラドに跨ると、その飄々とした口調には似つかわしくない、重く大きなエンジン音をモトラドが立てた。
「……お気をつけて。良い旅を」
「えっ?」
 フィムが旅人にそう言うと、イカロスが大層驚いたような声を上げた。
「フィムさんも。良い旅を」
 旅人がヘルメットを被り、ゴーグルを装着する。エンジンの振動で、横に取り付けたランプがカチャカチャと音を立てていた。
 モトラドが、走り去る。


「どういう風の吹き回し?」
 カンテラに石油を注ぐフィムに、イカロスがそう聞いてきたのは、モトラドが走り去って十分に時間が経った後だった。
「何が?」
「お気をつけて。良い旅を」
 その事が、何かおかしいのだろうか? フィムは首を傾げる。
「『お気をつけて』だなんて、フィムらしくもない」
「別にいいじゃないか。俺だって、そこまで徹底して他人に無関心ってわけじゃないよ」
「……女の子だからって、鼻の下伸ばしたのね。とっても破廉恥、とっても」
 イカロスが、ハンドルを左右に振った。人間で言う、首を振る動作に該当する。
「どこに、女の子がいたのさ?」
「あの子以外の誰がいるの?」
 五秒ばかり、フィムの時が止まった。
「……マジで?」
「マジよ」
 フィムが、頭を抱えた。女の子に言って失礼な事を言わなかっただろうかと、先ほどの会話を反芻しているようだ。
「だって、旅人で段持ちで……そりゃ、妙に子供みたいな顔してたけど……」
「『今は女が強い時代なのよ』って、前に留まった国の人が言ってたわね」
「クソ、もう名前が思い出せない。もっとしっかり聞いとけば良かった」
 イカロスが、両翼をわななかせた。


 カンテラの石油が尽きる頃、夜が明けた。もぞもぞと、テントの中からフィムが体を出して、早々にテントを畳みイカロスの右翼に括りつける。
「出発?」
「うん、今は良い風が吹いてる。テントに風がぶつかる音で目が覚めるくらいだ」
 フィムが、イカロスのにくくりつけてあるチェーンを車輪に巻いて、イカロスに飛び乗った。
「空の精さん。今日も、お手柔らかにお願いします」
 ゴーグルを、目に当てた。今の挨拶は、以前タイフーンに巻き込まれてほうほうの体になって以来、欠かさず行っている儀礼のようなものだ。
 フィムが、チェーンを勢い良く引っ張った。チェーンが車輪を高速で回転させ、イカロスが前進を始める。ギシギシと両翼が軋み、ぶら下がったカンテラが頼りない音を立てた。
 ドゴン! と、イカロスの甲板を思い切り踏みつけた。踏みつけた衝撃で、イカロスの腹部に設置されているバネが作動し、地面を思い切り叩く。
 イカロスが、砂の尻尾を散らせて舞い上がった。そのまま左右にぐらつき、フィムが手元のハンドルを上下左右に捻ったり折ったりして、上手く水平の状態を保つ。幾度と無く行った、もはや手馴れた動作だ。口笛を吹きながらだって出来る。
 イカロスが、風に乗った。吹き付ける風を、翼の角度を調節して上昇気流に変換し、高く、どこまでも高く舞い上がる。
「ありゃ」
 フィムが、腕につけたコンパスを覗き込んで、素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたの?」
「方角を間違えた。今、北に向かって飛んでる」
「……ちょっと、まさかこの風って」
「うん、おかしいとは思ってたんだ。こんな砂漠で、冷気を帯びた風が吹くなんて。きっとこれは『キタカゼ』だ」
『キタカゼ』とは、南から北へ向かって、真っ直ぐに吹き進む風の事だ。南の最も寒い場所で生まれた風が、北の最も暑い場所まで、真っ直ぐ真っ直ぐ吹き抜ける。
「でもきっと、これも風の精さんのお達しなのかもしれない。この風に乗って行きなさいって言ってるんだ、きっと。だから、このまま進もう」
「……フィムって、どこかを目指して旅をしてるんじゃないの?」
 呆れたようにイカロスが呟き、フィムが首を斜めに傾けた。
「俺は、旅をしてるわけじゃないよ?」
 ハンドルから手を離して、どっかりと甲板に腰を下ろした。どうやら本格的に『キタカゼ』に乗ってしまったようだ。操縦を放棄したところを見るに、本気で北の果てまで行くつもりらしい。
「俺はただ、地面を踏みしめるのは最低限に留めたいだけさ。だから、空を飛ぶ。空を飛んでたら、何時の間にかこんな風になったってだけの話」
「何で、地面を踏みしめるのは最低限に留めたいの?」
 フィムが、遂に完全に操縦権を放棄して、甲板に寝転がった。太陽がフィムの四肢や胴を焦がし、タンクトップが湿り気を帯びる。

 フィムを乗せたイカロスは、『キタカゼ』に乗って、どこまでも飛び続ける。

       

表紙

六月十七日 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha