Neetel Inside 文芸新都
表紙

怠慢な粗粒子
彼方の貴方へ

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 拝啓 一雨ごとに寒さが増し、息も凍ってしまうほどにしばれる季節が近づいてきましたが、貴方様に変わりなくお過ごしのことと存じます。
 私どもも皆、元気で過ごしておりますので、どうかご安心下さいますよう宜しくお願い申し上げます。

 さて、まことに勝手では御座いますが、このような格好の文体は、当方にとっても貴方様にとっても、気苦労の肥しにしかならない気がしてなりません。つきましては、以降、少々文体に乱れが御座いますことを、どうか了承お願い申し上げます。

 こんな形で手紙を書くのは初めてですね。
 そちらでの暮らしはどうですか? ちゃんとご飯は食べていますか? お金に困ってはいませんか? 最近、こちらへ帰って来ないので、とても心配しています。暇を見つけたらでいいので、是非今度こちらへ帰ってきて下さい。

 卓也君もすっかり大きくなって、今では私のことを「おばあちゃん、おばあちゃん」と呼んで慕ってくれています。何だかお前の小さい頃を見ているようで、おかしな気分になります。(ちなみにそれを圭一に言ったら、「俺の小さい頃って言ってくれよ」と怒られてしまいました)

 昨日、ウチで作ったお野菜をそちらへ送りました。この手紙がそちらに届く頃には、もう届いているでしょうか? どちらが早いのかは、私にはわかりません。

 体に気をつけて、無理をしないように頑張って下さい。

                            かしこ


 平成十七年十一月七日
                           奥 恵子

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 浩二へ

 よっ、元気か? お前の最愛の兄の圭一お兄様だぜ。
 いやー、こういう手紙書くの初めてだからさ、よく書き方とかわかんねぇし、普通にしゃべる感じで書いても構わないよな?(笑)

 お前の描いたマンガ、いつも見てるよ。なーんかあれだよな、「小年紙!【『少年誌』の誤植であると思われる】」って感じがするよな(笑)主人公がチョー強くて、でも敵がもっと強くて、んで自分もガンバって強くなんの。あれって編集長とかに言われて描いてんのか?(笑)
 あー……すまん、悪口みたく書いちゃってるな。別にそういうつもりじゃないぞ? 純粋に面白いと思う。俺も卓也も、続きを楽しみにしてるよ。(結局それか!)

 そいやお前のマンガ、今度ゲーム化しただろ? スッゲーよなマジで……会社とかで「アイツ、オレの弟です」って自慢していい?(笑)
 いやでもそんかし、卓也にはそのせいで毎回毎回「ゲーム機買ってー」って言われるんだよ、何とかしてくれー(;-;)

 お前、酒飲めたっけ? 今度帰ってきたら一緒に飲もうぜ。お前がどんだけ酒飲めんのかスゲー興味あるんだよな(笑)

                             圭一

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光二にいちゃんへ【『浩二』の誤植。簡単な漢字を並べた結果、こうなったのだろう】

 こんしゅう号のHEED【『HEAD』の誤植。僕の描いている漫画のタイトル】お面白ろかった【「面白かった」の誤植?】です。これからもがんばってまんがをかいて下さい。
 ゲームきがほしいです。ゲームきを買ったら、光二にいちゃんがかいてるまんがのゲームができるからです。でも、おとうさんはかってくれません。「おかねがないからだめだ!」といいます。「おかねと弟とどっちがだいじなんだ!」といったら、おとうさんはアイスをかってくれました。ぼくは「まるめこまれた」と思いました。【どこでそんな言葉を覚えたんだ……】
 ぼくの小がっこうでも、光二にいちゃんのまんがはお面白ろがっています。【卓也君の小学校でも、僕の漫画が流行っている、ということを言いたいのだと思われる】
 サインをもらってきてほしいといわれたので、こんどサインをおくって下さい。いくらくらいですか?【お金は取ってないよ、卓也君……】

                            1ねん 2くみ おくたくや

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 拝啓

 元気にしているだろうか? 父だ。【簡潔だなー(笑)】

 正直なことを話すと、お前に手紙を書くことは、考えてもなかった。メールと言っただろうか? そういうものがある故に、手紙という文化は古いと考えていたからだ。
 卓也が、学び舎で手紙の書き方を教わったそうだ。
 最初は我が家に手紙を送っていたのだが、ある日突然「お前に送りたい」とせがみ始めた。断る理由も無かったので、こうして筆を取った次第だ。いささか、戸惑ったことを否定するつもりは無い。

 金に困ってることは無いか? 漫画家というものは、売れるまでは極貧の生活を強いられると耳にしたので、心配している。金に困ったら、すぐに言え。金に困った時に親に頼らないのは、親に対する最大の裏切りだと言うことを覚えておいて欲しい。

 今、お前に言うことは、いいか。今だからこそ、言えることだということを覚えておいて欲しい。
 最初にお前を上京させた時、私はお前を「勘当」したつもりで出した。【え、ええーーーーーーー!?】
 成功するはずが、無いと思っていたからだ。【ま、マジですか父上殿……】
 親として、息子に対する最大の冒涜であったことは否定しない。許して欲しいとも思わない。許されるはずが無いからだ。

 ただ、お前の親であることを、誇りに思わせて欲しい。

 満足に飯を食わせてやれたのだろうか。
 満足に物を与えてやれたのだろうか。
 満足に、父としての愛を注いでやれたのだろうか。
 最近、私はそんなことを考える。
 何故なら、平々凡々に育ち、会社でもそれほどの業績を挙げることも無く、漫然と働き続けて、こうして時期に退職を迎えようとしているただの男の教育から、お前のような感性に優れた人間が育つなどとは、どうしても信じられないからだ。
 今でも、父兄参観に顔を出してやれなかったことを悔やんでいる。あの時、お前がどんな気持ちで授業を受けていたのかを考えると、侘びの言葉も無い。
 思えば、父としてお前に注いでやれたことは、微々足るものだったのかもしれない。そういう部分では、お前は母さんに似たのかもしれないな。あれは、そういう部分では優れたものがあると私は考える。
 だからこの場を借りて、お前に父としての言葉を送らせて欲しい。

 人に、金を借りてはならない。
 人を、打ってはならない。
 人を、憎んではならない。

 お前のことだから、既に解っていることだらけだとは思うが、どうしてもそれだけは、私から伝えたかった。
 そして、最後に一つだけ。

 私達の子として生まれて来てくれて、本当に有難う。

 しつこいようだが、金に困ったらすぐに言え。お前に送れるくらいの金はあるつもりだ。(尤も、今は母さんが卓也に注ぎ込んでいるが……私ではなく、母さんがな)
 春になったら、帰ってきなさい。家族一同、待っている。

                             敬具

                           奥 将平

       

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