Neetel Inside 文芸新都
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幻想戦記
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ここはクローレンス王国。
ガリアッツォラの大陸南部に位置する大陸内で最も大きい国。
クローレンス王国は魔術を盛んに取り入れ、魔術師のみで構成されたクローレンス王家直属の近衛兵団である天聖騎士団は、大陸最強の騎士団と謳われていた。
実際、クローレンス王国に戦争を仕掛ける国は無く、事実上クローレンス王家は大陸の支配者となっていた。

所変わってここはガリアッツォラ大陸北部にあるアリーヴェンス領。
アリーヴェンス領内の都市では、機械という未知のエネルギーを動力とする仕掛けを利用して人々は生活している。
領主は大陸一の頭脳を持つとされているリシティア・アリーヴェンス。
アリーヴェンス領内では、リシティアが考案した機械仕掛けによる強化スーツを着込んだ兵士が治安を守っている。
強化スーツを着込んだ兵士は、一人で100の騎兵を相手に出来ると言われているが、定かではない。
領内では密かに他国を侵略するための準備が整いつつある。

ガリアッツォラ大陸東部に位置する深淵の森。
その広大な森は、永きに渡り人の侵略を拒んできた。
長年人の手にかからなかった森は、独自の生態系を生み出すこととなる。
それは森を守るために生み出したのか、それとも他を侵略するために生み出したのか、知る物はいない。

最後に、大陸西部にあるベレーネ国
魔術にも機械にも頼らず己自身を鍛え上げた者ばかりが集まって出来た国。
他を侵略しない代わりに己の侵略を許さない。
年に2回ほど国内で武術大会が行われ、鍛え上げた技を競い合う。
そこから上位7位までの者が、国を治めることになる。
ここ数年は常に同じ者が上位7位までを占めており、その実力は機械兵数機を持ってしても敵わない。
彼らはいつしか、畏怖を込めてこう呼ばれるようになった。
「絶対の7」(Absolulte Sevens)と。

物語はクローレンス王国の端に位置する小さな村から始まる。
争いも少なく、とても暖かい村。
そこで育った一組の兄妹。
妹のかざす手は、どんな病気もたちまち治してしまう、不思議な手だった。
争いごとが起きても、手をかざせば荒んだ心も癒してしまう。
妹は村人から光の神子と呼ばれ、とても慕われていた。
この娘がいれば、いつまでも平和な村であり続けられる。
村人の誰もがそう信じて疑わなかった。
あの日までは・・・。

ここは暗い。
一筋の光すら見ることが叶わない。
ただただ、永遠に広がる闇。
自身の存在さえも見失いかねない完全な闇に、俺は立っていた・・・。

「お兄ちゃん、いい加減起きてよ!!」
頭が割れるかと思えるほどの大声に、一気に夢から引き戻された。
「やっと起きた。もうお昼だよ?」
まだ耳がキンキンしている。
日は真上から差しているが、最近祭りの準備で夜遅かったからまだ眠い。
「もう少しだけ寝かせてくれよ、ニナ。」
「駄目!ご飯が片付かないでしょ?」
どうやらこれ以上寝かせてはくれないらしい。
「分かった、起きるよ・・・。」
早く起きてきてよ、と言い残すとニナは部屋から出て行った。
仕方が無いのでベットから這い出て服を着替え、部屋を出た。
リビングのテーブルには質素ではあるが栄養面のしっかり考えてある料理が並んでいた。
眠気でハッキリしない頭を支えながら椅子に座る。
そのままボーっとしていたらキッチンからニナがやってきた。
「あ、やっと起きてきた。お兄ちゃん、何か忘れていることない?」
忘れていること?
服はきちんと着てるし、特におめでたい日であるわけでもない。
国教のないクローレンス王国では食事の前のお祈りもない。
「ん?何か忘れてたか?」
思い浮かばないので正直に聞いてみた。
するとニナは、
「まったく。起きてきたら家族にまずすることがあるでしょ?」
ふぅ、と溜息混じりに言う。
「あ、そうだった。」
そうだ、親がいなくなって二人で生きていくことを決めた時からの約束事。
いつまでも家族であることを忘れないようにするための心がけ。
俺は一息おいた。
「おはよう、ニナ。」
「おはよう、お兄ちゃん。」
それと軽い口付け。
こうして、二人の笑顔で一日は始まった。

今日は祭りの前夜祭。
年に一回行われる村全部を巻き込んだ大きな祭り。
村人から、村に多大な貢献をしてくれているニナへの御礼祭。
本祭はニナの希望もあり静かで大人しいが、前夜祭は派手な催し物ばかりである。
露店が村の端から端まで並び、村人のほとんどが外に出て楽しむ。
村の真ん中にある一番大きな広場には篝火が焚かれ、その周りでは村のカップルがダンスを踊っている。
この日のために楽器を練習している連中もいて、村中から音楽が鳴り響いている。
本祭になるとニナは自由な行動が取れなくなるため、前夜祭がニナにとっての本祭みたいな物なのだ。
俺とニナは前から約束していたこともあり、二人で前夜祭を楽しむことにした。
祭りは日が落ちると同時に火が放たれ、それと同時に始まる。
先刻までの夕焼けより赤い火によって村は照らされ、美しい旋律が流れ始める。
ニナは露店全てに顔を出し、村に散らばる音楽家に声をかけて回った。
一通り回り、村のかがり火の熱気を避けるために村はずれの丘に登ったとき、最大のイベントである花火が上がり始めた。
「うわー、タイミングばっちりだったね。」
ニナははしゃいで言った。
今いる丘から村を挟んで丁度反対側には大きな湖があり、そこの中心から花火は上げられている。
隣にニナが腰を下ろした。
「綺麗だね、お兄ちゃん。」
「ああ。」
本当に綺麗だった。
空にも地上にも、闇を照らすための光は十分すぎるほど輝いていた。
村の全てを照らすほどの、強い光が。
「あの光はお前だな、ニナ。」
「え?」
こちらを向いたニナに軽く口付けをした。
「ニナ、今だけは名前を呼んでくれないか?」
何故自分でもこんなことを言っているのか分からなかった。
いつもの挨拶の口付けとは違う。
その違う何かが俺に口走しらせた一言。
ニナは少し考え、そして答えた。
「シェイド・・・。」
そして再び、唇を重ねた。
いつまでも鳴り止まない花火が、まるで二人のための祝砲に聞こえた。

いつの間にか花火の音が聞こえなくなっていた。
それどころか上にも下にも、光が見えなくなっていた。
「もう、お祭り終わっちゃったのかな?」
不思議そうな顔をしてニナは言った。
祭りが終わるにはまだ早いはずだ。
花火が終わった後も夜明けまで皆で騒ぐはずだ。
それなのに、花火の音が聞こえなくなったとほぼ同時にかがり火も消えている。
かがり火だけではなく、村の何処からも光が見えてこない。
まるで自分たちが闇に飲み込まれた錯覚を覚えるほど、辺りは静かで、暗かった。
「様子が変だよ、お兄ちゃん!!」
ただならぬ気配を感じたのか、ニナが叫んだ。
真っ暗になった村を見下ろすと、そこはまるで廃墟のような雰囲気を出していた。
目を凝らしてみると、小さな明かりがチラチラ動いているのが見えた。
「嫌な予感がする。お前はここで待ってろ!!」
俺はニナを丘の上に置いて村の様子を見てくることにした。

嫌な予感程当たるものだ。
生の感じられない無機物と化した村。
人々は肉塊へ、露店は瓦礫へ、旋律は戦慄へ・・・。
そこら中に広がる赤いスープ。
そのスープの中に沈む滑稽な形をした具材。
そしてそれを作り上げたと思われる未熟なコックは、瓦礫の山の上に立っていた。
「ん?まだ生き残りが居たのか。」
暗闇の村の中で、その男だけほのかに輝いていた。
赤い鎧に炎を思わせる装飾を施した剣。
胸に刻まれた紋章が、その男の存在を示していた。
「天聖騎士・・・?」
クローレンス王国に住むもので知らないものは居ない。
その男は確かに、天聖騎士団の騎士だった。
「神子も見つからないし、無駄骨だったかな。」
男は不満そうに呟いた。
「ねぇ、君は”光の神子”って知らないかい?」
男は優雅に笑って聞いてきた。
光の神子?
まさかこいつが探しているのは・・・。
ニナ・・・?

「おっと、失礼。質問の前に名乗るのが筋だったね。」
男はマントを翻し、軽く会釈をした。
「私の名はラズラエル・フォーテンハウト。天聖騎士団の騎士で、段位は”3”です。」
段位とは、天聖騎士団における格付けだ。
数字が小さいほど上位の格付けとなる。
「段位が3だと?そんな偉い騎士様がこんな田舎村に何の用だよ!!」
強がらないと腰が抜けてしまうほどに目の前の男に威圧されている。
段位が”5”以上の騎士は殆どの人が見たことが無い。
そのうちでも上位の”3”が今目の前にいる。
「ふぅ、名乗られたら名乗り返すのが常識じゃないのかな!!」
突然いきり立ったラズラエルは目を見開いた。
すると不思議なことに俺の周囲の空間が燃え始めたのだ。
慌てて後ろに飛びのくと、それまで俺のいた場所は炎に包まれていた。
「上手くかわしたものだね。それに免じてもう一度チャンスをあげよう。君の名前は?」
「・・・、シェイド・グランシス。」
大人しく名前を言うしか無かった。
再び文句を言おうものなら、間違いなく消し炭にされていただろう。
ラズラエルは満足したようで、笑顔で俺を見つめてきた。
「自己紹介ありがとう。ところでもう一度聞くけど、君は”光の神子”と呼ばれる少女を知らないか?」
「そんな奴知らないよ。」
汗が吹き出てきた。
ラズラエルに見られているだけで周囲の空気が熱を持っている。
少しでも返答を間違えればすぐさま襲ってくる炎。
何とかして逃げる方法を考えなくては。
そのためには、知らない振りをして時間を稼ぐのが得策だと考えた。
しかし、そんな考えはすぐに打ち破られる。
「本当に知らないのかい?」
どうやら騎士と言うのは一枚上手のようだ。
「”光の神子”と呼ばれ、奇跡を起こす少女のことを。」
村全てを焼き尽くした男とは思えないほど清らかな騎士道精神。
「名前を聞けば思い出してくれるかな?」
それらは全て、俺を嵌めるための演技。
「確かその少女の名前は・・・。」
確実に少女を手に入れるための案内役にするため。
「ルニーナ・グランシス。」
男は満面の笑みを浮かべていた。

「ふざけるな!!」
気づいたら俺はラズラエルに飛び掛っていた。
全て知っていて、それでいて無関係の村人を皆殺しにした。
それでも涼しい顔をして人を騙せるこの男が、たまらなく許せなかった。
「仕方が無い。殺しはしないから安心してくれ。」
ラズラエルは美しい装飾のされた剣を抜き、構えた。
その構えはあまりにも美しく、ラズラエルが相当の使い手であることを納得するには十分なものだった。
それでも構わずラズラエルに組み付こうとしたが、無駄だった。
一瞬のうちにラズラエルは俺の右目を潰し、四肢に火を放った。
四肢を焼かれ身動きが取れなくなった俺の傍に寄ってきて、ラズラエルは言った。
「さて、こんなことをしている暇は無いのでね。そろそろ神子の所に連れて行って貰いたいのだが。」
それまでの口調とは似ても似つかぬ、他者を圧倒する声だった。
ラズラエルは剣で残った左目を突こうとする。
すると突然、闇を切り裂く大きな声が響いた。
「止めて!!それ以上お兄ちゃんを傷つけないで!!」
ニナだった。
「ニナ、丘の上で待っていろって・・・。」
そこまで口にしたところ、腹部に激痛が走った。
ラズラエルが剣で刺したようだ。
「君が神子か。」
ラズラエルはニナを睨み付ける。
「そうよ。今すぐお兄ちゃんを放して。関係ない人を巻き込まないで!!」
決して臆することなく自分に食って掛かる少女に、ラズラエルは思わず笑ってしまった。
「いいでしょう。ですが私の目的は貴女を王都まで連れて帰ること。それが叶わぬ限り、願いを受け入れるつもりはありません。」
静かな、それでいて圧倒的に相手を恐怖させる声。
聞いている俺は全身が恐怖で竦んだ。
それでもニナは怯まなかった。
「分かったわ。だから話してあげて。」
今にも泣きそうな、消え入りそうな声だった。
ラズラエルも頃合と見たのか、
「分かりました。それでは約束通り開放してあげましょう。」
しかし、その後俺は腹部に剣を刺されたまま持ち上げられ、湖に投げ込まれた。
「お兄ちゃん!!」
最後に聞こえたのはニナが俺を呼ぶ叫び声。
そして、鈍器で殴ったような鈍く重い音だった・・・。

       

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Neetsha