Neetel Inside 文芸新都
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袋女
二袋目

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その当時好きな子がいたんだ。
小さくて細くてどこかエキゾチックな彼女は僕の好みぴったりで、何かにつけては彼女と話してた。
彼女と初めて話したのは5月の始め。
進路相談室で大学案内を読んでいる時、目の前に座った超好みの女の子が彼女だった。

「なあ、薬学部目指してんの?」
突然話しかけられ驚いたのか、案内をパンと閉じ少しの間の後彼女はこう答えた。
「キリシマ君はどこ受けるつもりなの…?」
「俺は、ここ」
あんまりにも動揺した様子につい笑ってしまいながら、持っていた案内の表紙を見せてやり、質問の答えは、と少し意地悪く聞いてみた。
「ごめんなさい… うん、薬学部目指してるんだ」
そう言いながら閉じられていた案内を僕にすっと差し出した、少し嬉しそうに。
「なあ、イトウは生物得意? 超苦手なんだよ俺。」
別に計算ずくだったわけでもなんでも無いけど、良いチャンスだと思った。
こんな小動物みたいな好みの女の子を逃がす手は無いと。
シンプルに、そう、シンプルに彼女、「郁」と何かを共有しようと。
だから、勉強ができそうな彼女に、答えのわかってる質問をさも疑問だ、という風に問いただしてみたんだ。
そしたら彼女、地球が終わるんじゃないかって勢いで悩みだしてさ。
細い体そのままに、細い声で「んー…」とか言っちゃうわけ。
次の瞬間もう郁の手ぇ引っ張って教室出てたよ。
「どこいくの?!」
「散歩だよ、散歩、楽しいだろ。」
半ば引き摺られる様にして僕の後ろをくっ付いてくる郁が無言でコクっと頷いたのがわかると、
特別教室棟の2階廊下で、僕は手を離し振り返って郁の頭をぽんぽんと撫でてやった。
「今度、生物教えてくれよ、得意だろ」
「うん… ねえ」
その言葉の後になんて綴られるのかも、どんな答えが欲しいかもわかってたけど、まるでライオンになった気でいる気まぐれな僕は最後まで聞かず。
「教室戻ろうぜ、5分前だし」


たぶん凄くハイだったんだと思う。
コンプレックスは強い方だ、特に何かにってわけじゃなく。
だから、超好みのルックスで、気の弱そうで自分だけのものに出来てしまいそうな彼女がたまらなく欲しかった。
なんでいなくなってしまったんだろう?

       

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