Neetel Inside 文芸新都
表紙

時空修正
1-「接近」

見開き   最大化      

1 2107年08月17日 午前7時18分
 小鳥のさえずり一つ聞こえない無機質な白いビルが立ち並ぶ町の隅のマンションの一室。
 静寂の中にベルの音が鳴り響く。
「もう朝か……」
 男、徳山聖治はベッドの上で窮屈そうに伸びをした。今日もまた、いつもと同じ、日常。
 その日常はあまりにも脆いものだというのに、彼はそれに気付かない。
 いや、誰もが気付けないのだ。
 聖治は弱冠22歳にして世界でもトップレベルの科学者だ。
 3年前に時間跳躍の理論を発見してからというもの、その研究に没頭していた。
 本当の所、既にタイムマシンは完成している。
 彼は、それを自分が最初に実験し、成功するまで仕組みを公開するつもりは無かった。
 まあまだ実験段階である以上は、発表しても笑い者だろう。
 彼の朝食は非常に簡素で、100年の時を経ても未だ変わらず存在する食パンにコーヒーである。
 簡素な朝食を取っていると、不意に手元の携帯電話が鳴り出す。
「ん、小川か。もしもし? おはよっす」
 電話の相手は十年来の親友である小川だ。そいつが珍しくも妙に慌てた声で話す。
「お前何能天気な声出してんだ! まさか、テレビ見てないのか? さっさとつけろ!」
「なんだよ。お前が慌てるなんて珍しいな。まあいいか。」
 言われるまま電源を入れる。朝のニュースだろうがやけに切羽詰った感じだ。
「なんだこりゃ?」
 キャスターが小説でしか聞いたことの無いような単語を口にしている。
『現在、地球に直径10キロメートルの隕石が接近しています。』
(……え?)
『このままでは、私たち人類は完全に滅亡します。』
(はい!?)
『唯一の望みだった核ミサイルも、命中し爆発してしまい、可能性はなくなりました。』
 その方法なら聞いたことがある。確か隕石の傍で大きな爆発を起こし、起動を逸らす最も一般的なやり方だ。
「当てちまったのかよ……何つー失態だ」
『もう対処法は残っていません。どうか残された半日余りの時間を、
家族や親類、信頼する友人達と御一緒にお過ごし下さい。この放送は只今をもって終了いたします。』
(冗談だろ?)
 再び受話器を手に取った。
「あー、小川。これは何の冗談だ? 」
「冗談に聞こえるか? どうやら現実だ。窓から飛び降りて試してみるか? 命の保障はできんが。」
「クソッ! こんな、こんなときに来なくても……!!」
 聖治は無意識のうちに電話を壁に投げつけていた。
 電話は、呆気なく切れた。

       

表紙

壌砕 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha