ヤンデレ

「おつりは55円になります」
 コンビニ店員の女性が俺の右手を両手で包み込んで渡してくれた。
「あの・・・・・・そのぉ・・・・・・よかったら、メルアドを教えてくれませんか?」
 彼女は顔を赤らめながらうつむいている。俺の顔を直接見ることができないらしく、俺の手の方ばっかり見ている。
 彼女のいない俺にとっては天に昇るような気持ちだ。喜んで彼女にアドレスを教えてやった。

 また、別な日。
 違うコンビニの店員の女性が俺の右手を両手で包み込んで渡してくれたとき。
「渡さない・・・・・・」
 俺がメルアドを教えた女性が両手に包丁を持って現れたのだ。俺はあまりの恐怖から、この地獄から抜け出した。コンビニをでたあとすぐ、女性の悲鳴が聞こえた。今まで聞いたことのない悲鳴だった。
 
 俺は走った。俺の後ろを振り返ると、コンビニの店員の女性はいないようだった。安心した。
「あの・・・・・・ハンカチ落としましたよ・・・・・・」
 娘を連れた女性だった。俺は右手でハンカチを受け取ろうとした刹那―――
「渡さない・・・・・・」
 また、あの女だ。
 女は銀色に光る刃物を持って、迫ってきた。俺は全力で逃げた。また、女性の悲鳴が聞こえた。その悲鳴が聞こえると同時に、小さい女の子の悲鳴も聞こえた。

 俺は走った。俺の後ろを振り返ると、コンビニの店員の女性はいないようだった。安心した。
「クゥーン・・・・・・」
 犬が寂しそうに鳴いている。捨て犬だろうか。俺はミルクも何も持ってない。しかし、あまりにもこの捨て犬がかわいそうだったので、この犬をなでてやった。その瞬間―――
「渡さない・・・・・・」
 また、あの女だ。
 主婦ご用達の刀に反射した光が俺の目をにらみつける。俺は女の死んだ魚のような目におびえて、この場から逃走した。犬の悲鳴が聞こえる。

 俺は走った。俺の後ろを振り返ると、コンビニの店員の女性はいないようだった。安心した。
「あ! おにいちゃん!」
 俺の妹だ。おにいちゃんっ娘の小学生の妹は俺を抱きしめてくる。俺は恥ずかしいからやめろと、右手で妹を追い払おうすると―――
「渡さない・・・・・・」
 俺は覚悟を決めた。
「頼む! 妹だけは殺さないでくれ! おまえと付き合ってやるから! な? な?」
「渡さない・・・・・・」
 例の女は表情を一切変えてくれない。出刃包丁がやたらと眩しく光る。
「け・・・・・・結婚してもいいから! な? だから、妹だけは! 妹だけは!」
「あなたの右手は渡さない・・・・・・」