Neetel Inside 文芸新都
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第二話「パソコントラブル」

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 マイパソコンが家に届くのは7月22日の午前だと、電気屋のおじさんが言っていた。そう、丁度夏休みが終わる日の午前中である。だから僕は、走って家に帰った。それは他者から見れば滑稽な姿だっただろう。満面の笑みを浮かべながら少年が疾走しているのだから。
「ただいまっ!」
家に着くと、二階にある自分の部屋に一直線で走った。そこには、セッティングされたPCが置いてあった。
「なんだぁ?修治ぃ。帰ったのかぁ?」
「うん!帰った!ありがとうお父さん!」
パソコンの電源ボタンを押して、完全に起動するまでの時間は非常に煩わしかった。
だがウィーンという音や、ファンの回る音に包まれた部屋は、飛行機のコクピットに思えた。
まず最初にインターネットのブラウザを開いた。ついに、僕のやりたかったことができる。
「ホームページ作成」だ。
ずっとそれがやりたくて、本屋でいろいろな本を立ち読みしていたため、知識はそれなりにあった。まずはFFFTPをインストールして……。
その作業は思っていたよりも単調で、簡単なものだった。でも、僕にとってはすべてが新鮮で、面白く思えた。
「たしかHTMLとSTYLE SEATがあって……。まぁいいや。HTMLにしよ。」
「どうすればいいんだ……?とりあえずメモ帳にでもやっておくか。えっと……って書いて……をつけるのか……?」
時間は華厳の滝のように速く、そして美しく流れた。僕のホームページは、簡単なものだが完成した。
トップページがあって、プロフィールのページ、掲示板(これはレンタルした)があるだけだ。恐らくこの掲示板にはこれから何万人の人々が書き込みをするのだろう。そう思うと、今までの苦労など全く気にならなかった。
 しかし、人生というのはそう簡単に進んでいくものではない。しばらく時間が経っても、誰一人として掲示板に書き込みをしなかった。……いや、修治の書いた『みなさんどんどん書き込んで下さいね!』以外は。
「ちくしょう。何でだ……?」
ここで躓いた。他のサイトを転々としてみたが、掲示板にはいくつかの書き込みがある。そして、常連さんのような人も少なからずいるものだ。
「そうだ。清美さんに聞いてみよ。」
僕は長時間座っていたパソコンの前から立ち上がって、近くに転がっていた携帯電話を手に取った。
『清美さん、こんばんは。パソコンのことで聞きたいことがあります。』
メールメール。清美さんとは、近所に住む大学生のお姉さんである。コンピュータが専門のようなので、以前家のパソコンが故障したときにとても頼りになった。その頃から、僕と清美さんはメル友である。まぁ、相手は僕を弟だと思っているようだけれど。
 しばらく時間が過ぎた。メールというのはそもそも即座に返答が来ることを期待してはいけないものである。いつでも見れるのが、メールの利点なのだから。と、少々待ちくたびれた脳で考えていたら、着信音が鳴った。ちなみに着信音は着信音2である。
『やっほー。こんばんは。パソコンのことなら任せてよー。なんだいなんだい?』
『このあいだ自分専用のパソコンを買ってもらって、それで今日届いたんです。で、ホームページを作ってみたんですけど、全く人が来ないんです。』
『うーん、そうだなぁ。ちょっとホームぺージ見に行ってもいい?』
ドキンとした。
『うちにですか……?』
『いやいや、違うよ(笑 ブラウザの上にURLってのがあるでしょ?修治くんのホームページが表示されてるときにそこに書かれてる文字列を、携帯で私に送信してみてくれる?』
顔が熱くなった。なるほど、そういうことか。……よく分からない。
『よくわかりません……』
『そっかー。じゃあ今から修治くん家行って見てあげるよ。今から大丈夫?』
またドキンとした。
『多分大丈夫です。』
『じゃあ行くよ~。』
『ありがとうございます、待ってます。』
一通りメールを終えると、僕は散らかっている部屋を少し片付け始めた。すぐ来てしまうので、無駄な抵抗であったが。

       

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