「そんでそのまま…衝動的に家を飛び出したんだ、濡れた頭で」
俺は毛布をかぶりもごもごとしゃべった。
「3、40分くらい近くの公園で頭を冷やしてた。まあ、文字通り頭が冷えちまって鼻水出るわ頭痛はするわで大人しく家に戻った」
…馬鹿だよな、と付け足すと、チャイムが保険室内に響き渡る。ホームルームが始まるのだ。
そういえば、まだ職員会議や職員朝礼が終わっていないのか、保険医もいまだ現れない。
けれどそろそろか。
そう思い、外の気配を窺ってみるがシンとしている。
近くにいる信男も、先ほどから微動だにせず、じっと俺の身の上話に耳を傾けていた。
坊主男が持ち前の目つきの悪い視線で俺を射抜く。
俺は一瞬びびったが、
「ばかだな」
と、ふと奴の口元が若干笑ったのをみて俺は内心ほっとした。
「でも…いい加減俺も、兄貴の横暴さに限界が来たかもな」
家族だとかなんだとか、俺をあの家に連行してきた時自分で言ったくせに、俺が琴美さんを心配すれば、お前は口出しするな、だもんな。
そう思い俺は溜息をつくが、信男は何の反応も示さない。
「ま、正直、琴美さんたちと暮らすのも気疲れするのなんの、所詮他人だし。やっぱ俺…」
「…どうした」
「藤園(とうぞの)受けようかな。寮あるしさ」
「……東高受けるんじゃないのか。金かけたくないって言ってただろう」
信男は無表情のまま受け答える。
いつものことなのに、それがなんだかしゃくにさわって、俺は少し声を荒げた。
「もういいだろ?あんな家借りる金があるなら。関わるなって言ってるし、兄貴にとっても丁度いいだろ?!」
「…ソルト」
「なに!」
「お前、子供みたいだな」
「……!!」
「そんなんだから頼られないんじゃねーの」
そう静かに言う信男の顔は、相も変わらず無表情で。
俺はついに怒髪天をついた。
「言っておくけどな信男!!俺が!!今まであいつの飯も好みに合わせてつくり、あいつのパンツから髭剃りまで買い物に行き、あいつの部屋の掃除までしてやってたんだぞ!!小学生の時から!!!!どっちがこどもだっつーんだよ!!」
「…そういうことじゃない。拗ねるなって言ってる」
「……!」
かっと顔が熱くなるのが分かる。
す、拗ねてる―――?!
「それから。稲生さんにとったら、お前はいつまでも子供なんだろ。あの人ブラコンだし」
「はあああああああああ?!」
目がひん剥いた。
何か思いもよらぬ言葉が聞こえた気がしたんですけど!?
「あの人、お前を溺愛してるだろ?なんであんな早く結婚したのか俺には分からんが…奥さん、漫画家だっていうし、金持ってっからじゃねえのか」
「いやいやいやいや!!!!!!!!おまっ…何色々こえーこといってんだよ!!信男、小学校からの付き合いだからって…そんな風に見えてたのかよ!?」
「ん?ああ…」
「ばああああああっかじゃねええええ…ゲフッ!ごふっ!」
ば~~~~~っか
じゃねぇの!?
/ ミヽ
/ゝ___ ミ
/r-、T ̄T゙==ミ
/iヽ_ノ|()i()iO
`/J」"ニニニニニt-ト、ニ
|/ィ、_____ヾ|l
`レヘ F≡r-tァー |l
V/イ〉 `^ミ二´ ヾニ
| / _ リ)
|<、、_〉 \ ィ|ノ
| 笊yfミミミヾ、 WW§
ヽリr"二二ミヽ、WWW「|
∥V__/ トWWW∪
川 `-ォ-′ィWWWミミシ"
(このAAは不発に終わりました)
俺は信男の衝撃発言にエキサイトしすぎてむせた。もともと喉が弱ってるのもあるだろうが。
それより。
きめーーーーってレベルじゃねえぞ!!!!!!!
あの兄貴が俺を溺愛。
……。
熱のせいで頭がぐらぐらしていたのが、さらにマグニチュード7くらいの頭痛が俺を襲った。
「おめー……。信男よ。冗談も休み休みいえ。ちょっとでも人のこと好んでたらビールを頭からかけて失せろ言うわけねーだろうが」
「あの人はああいう人だろ。お前のこと考えて関わるなって言ったんじゃねえの。…そのあと受験のこと言ってただろ」
「言ってた…けど――あれは話を摩り替える為だろうが」
「ソルト、お前、人のことごちゃごちゃ考えて自分の事できなくなる性質だろうが。受験棒にふったりしたらまずいと、心配してるんだろ、稲生さん」
「……」
俺の脳内のPCのキーボードが勢い良く『ねーーーーよwwwwそれはねーよwww■』と叩いた。
だが信男それをいう気にもなれず。
「稲生さんの言った通りにしておけよ。琴美のことは、稲生さんにまかせておけ」
なんだそれ。
なんか、信男らしくねえ発言だな。
「もういいよ。信男、授業はじまるぜ、帰れよ」
俺はしっくりこなくて、結局むっつり布団にひきこもった。