Neetel Inside 文芸新都
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うはw急に新しい家族が出来たww
【第】うはwまた変な人増えたww【4話】

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【第】うはwまた変な人増えたww【4話】


 かなり面倒な押し問答も終わり、俺は学校帰り学ランのまま買い物に来ていた。スーパー[NEET]。5時~6時のタイムセールを逃してはならない。兄貴に食費の分は貰ったので、冷蔵庫に何もない分思いっきり買ってしまおうか。

「夕飯何にしようか…」
 確か鳴子さんの好物は子供が好きな味覚系で、オムライスだったな。けど琴美さんの好物は辛いもの。
 うーん。琴美さんの為にキムチなんか買っとくといいかもな。
 ん、待てよ?
 ならキムチオムライスが良いかもしれない。
 作った事ねーけど、キムチの入った炒飯に、卵をのせればいいのだ。
 フライパンに油を熱してにんにく、豚肉、キムチを炒めて、ごはんを加え、塩、コショウ、キムチの素で味付けをしていったん取り出す。フライパンに油を熱して卵を焼き、ごはんを包む。
 きっとうまいだろう。もっとも琴美さん特別メニューだけれど。

 そう決めて、材料を集め終わりもう買うものはないか考えていると、文具コーナーに置かれた変わったものが目に入った。

「……」
 うん、これ、いいかもな。
 俺はそれをカートにぶち込み、こういうの、すごく家族っぽいよな…などと思った。



 チャリをふらつかせながら何とか家へ帰り着くと、琴美さんは既に学校から帰っているらしく、朝と同じ場所に学校用の革靴が玄関に置かれていた。K女といえば電車で2駅ほどのところなので、俺より早いか遅いかといえば、微妙な所だ。まあ日によって色々か?部活とかもあるかもだし。
「…やっぱ不思議な気分」
 人の帰りや予定を気にしたり…慣れないな。

 まあそのために今日アレを買ってみたわけだが。

 妙にむずむずしながら、ずしりと重い荷物をぶらさげ廊下を歩く。手がふさがっている為、リビングのドアをアシであけた。
 そこには、琴美さんが相変わらず妙な恰好で、ソファにねっころがっていた。
 顔には漫画雑誌(青年漫画なのかグラビアが表紙)をのせ、だらっと死んだように転がっている。既に部屋着に着替えており――その部屋着というのが夢も希望もなく、ださい色のカラフルなスウェットなのだ。カーディアンを羽織っているのは少し可愛い気もするが、最悪な事にそれらすべてがズボンにINされている。そしてしましま柄の長い靴下のなかにズボンの裾すらもINしている。
 綺麗な顔だというのに、そのセンスのない恰好…。
 好きな子が家でこんなカッコだったら泣くぜ。俺はかなりげっそりさせられた。
 家では…こん…なもん…なのか?全国の女子高生って。
 エロゲにはこんな女の子はいない筈。万一こうだらしない性格の場合にしても、はだけてたり…普通露出が多かったりするもんだろ。そういうイベントが発生するはずだろ。
「あ、冬だからか」
 俺が思わず勝手な妄想事を漏らしていると、琴美さんもさすがに気付き、起きたらしく、彼女の顔に置かれた漫画がばさりと落ちた。そして寝ぼけ眼でゆっくりと起き上がり…。

「……おかえりなさい…」

 相変わらず無表情だけれど、俺にそういってくれた。

 …うわ。
 学校から帰ってきて、玄関を開けて…。
 人がいて、「おかえりなさい」だってさ。
 いってらっしゃい、より何かあんまり慣れなくて。
 しかもそれを言ってくれたのは見慣れない無表情の美少女。
 俺は一瞬うろたえたが、どもりながらも何とか返した。

「――た、ただいま」




 飯が炊けたのを見計らい、俺がのんびり夕飯の用意をしていると、さっきまで漫画を読んでいた琴美さんが寄ってきた。
「もうおなか減りました?」
 訊くと、にこりともせずに頷いた。
「兄貴はまだ遅いだろうし、待たずに夕食にしましょうか。あ、琴美さんは辛いもの好きって言ってましたけど、キムチ好きですか?」
 キムチは癖があるので、嫌いな人もいるだろうと尋ねてみる。すると、物凄く微妙に、なのだが、琴美さんの表情がやわらかくなったような気がした。
「すき…」
 そう小さく言って少し頬を赤くした琴美さんをみて、俺はご飯を炒めながらその三倍顔を赤くした。
 うほっ!!これは…。
 俺が妙な想いにかられ、冷静を装う為眼鏡をあげたりさげたりしてみた。
 そんな事をしていると、ガチャリと玄関のほうで物音がした。

「わー何かいい匂いするよー?」

 そんな事を言いながら、ドカドカと騒々しい音がリビングへ近づいてくる。
 声の主は…中性的だ。鳴子さんではない。かといって兄貴の声では無論ない。
 え?誰だこれ?聞いたことない声だぞ??
 俺が火を止めて台所を出ようとすると、隣の琴美さんがぼそりと言った。

「みどり」

 は?

「やっほーー!今日も仕事しにきたよーー!」

 バンと勢い良くドアを開け現れたのは、ジーンズにセーターというシンプルな恰好の似合う、スレンダーな……。


 ――男だった。…多分。

     


「あるぇ~?なんだキミは?鳴子がめずらしく飯つくってんのかと思ったけど」

 細い首を傾げながら、男は俺に近づいてくる。
 なんだろうこの人は?
 鳴子さんの名前を知っているということは、不法侵入者って訳ではないらしい。
 琴美さんも知ってるようだったし。なんと言っていたか。
 確か――‘みどり’。

「俺は…あー、塩川稲生の実弟です」
「えー!?嘘ーー!稲生の弟!」
「嘘じゃないですよ…」
「はーまあ目は…猫目なのは少し似てるかもしれないけど。イケメンには程遠いな」
「……」
 はあまあ、そりゃあそうですけどね。
 兄貴や―ましてやあんたと比べりゃどうせ俺は地味でめがねで平面顔ですよ。
 彼は男のわりに、小柄で華奢でスレンダー、色素の薄い髪(ちなみに頭も薄い)という風貌だが、顔は整っており、ジャリーズなどのアイドルのような顔をしていた。
 ですがそう初対面で何でも言うとかね、駄目だと思うよ、うん。節度と言うものが…。
「あー…ところで貴方はどちら様で?」

「俺?俺は鳴子のアシスタントだよ」
 自分の白い頬を手で何気なくいじりながら、にこと彼は笑った。



 彼は、江戸美登利(えどみどり)と名乗った。鳴子さんの漫画のアシスタントらしい。
「そうそう、今日も仕事しに来たんだよ」
「はあ」
「あんま上手くないけど、いつもはご飯、店屋物か俺が作ってんるで、夕飯時前に来てみたらキミが作ってるじゃん?しかし美味いなー」
「ほんとおいしいわ!玉子がふわっと焼きあがってて…何でこんなにおいしく出来るのかしら」
「…どうも」
 鳴子さん、琴美さん、俺――加えて妙なアシスタントのミドリさんというメンツで、食卓を囲んでいた。
 好みに合わせて作ったオムライスは好評のようだった。鳴子さんもミドリさんもにこやかに食している。
 しかし…この美少女だけは本当に―――

「あー琴美さん、もう少しゆっくり食べたら良いんじゃないかな」
 言いたくはなかったが、言わずにはいられなかった。
 なんていうのかな、その…行儀が壊滅的に悪い。
 犬食いに近い形でスプーンであちらこちらをかっ込むので、俺の美しい形のオムライスは跡形もなくなっていた。
「琴美は何度言っても直んないのよ。でもこれだけ食べるの早いって事はよっぽど美味しいって感じてのことじゃないかしら?」
 鳴子さんが困った子ねえと困ってなどいないようにそういった。
「そ…そうなんですか…?あ、どうですか。辛くないですか?」
 俺がとりあえず料理の具合が聞くと、琴美さんが皿から顔をあげた。

「おいしい。おかわり」

「……」

 兄貴の分の卵はなくなった。




「あー、何だこれ?」
 食べ終わってうろついていたミドリさんが、がさがさと音を立てつつ言う。
 わざわざ目に付かない所に置いたのに、目ざとく見つけたらしかった。
 いうかいわないか一瞬迷ったが、素直に答える。
「…ホワイトボード、だけど」
「見りゃ分かる。何に使うって言うことさ。さっき買ったん?」
 どうするかな、言いにくいが…。いつ言おうと思っていたし、いいか。
「まあまあ、何かしら?」
 鳴子さんもこちらに寄ってきた。
「…一日のスケジュールを書いてもらおうと思って。兄貴も鳴子さんも忙しいでしょうから…」
 毎日の予定を毎回聞くのも憚られ、時間が合わなくて聞くタイミングを逃すこともあるだろう。
 なんせ、琴美さんは。…しゃべってくれるかどうかも謎だ。
「ああ、まあ!いいわねえ。そうしましょうか」
 鳴子さんは手のひらをあわせて嬉しそうだ。
 その横で関係のない男が既にマジックを用意し、キュポンと蓋をとり腕まくりしていた。
「んじゃあ俺、書いちゃおう」
「何で貴方が…」
「俺も殆どここの家族だよ。俺はお前より古株だぜ、けち臭いこと言うなよ。」
「…言ってないですけど言っても書くでしょうね…」
「私は修羅場期とかも書いておこうかしら」
 わいのわいのと早速二人は書き出し始めた。

 琴美さんだけはこちらに興味も示さずまだ黙々と食していた。茶菓子を。
「……」
 琴美さんにほんとは書いてもらいたいんだが…。
 それはないようだった。

 ホワイトボードはすでに二人によってごちゃごちゃと書かれ、それはリビングのソファー横の棚の上に置かれた。

 何だかなー。
 自分がやった事だが、やっぱ変だな。
 違和感…不思議な気分だ。

 けれどやはり、その違和感、悪い気はしないのだった。

       

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