Neetel Inside 文芸新都
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 できるだけ静かに扉を閉めると、俺は薄汚れた便器の上に腰掛けた。
ホッとするのもつかの間、袋がカサカサと音を出すので一瞬ビクっとする。
購買で買ったパンとジュースを入れた袋だった。どこまで臆病なんだろうか俺は………。
誰も居ないのを聞き耳を立てて確認した後、静かに袋からパンとジュースを取り出した。
カサカサと妙に響くその音を、遠くから聞こえてくる残骸の様な音と比べると、
このトイレがこの学校の中でとても遠い場所にある、そんな感じに思えた。
学校の中にあるのに遠いというのは可笑しい話だけど。

「おーい………一郎………ズボンを………」

いきなりのくぐもった声にまたビクッとして、慌てる様にズボンとパンツを脱ぐ。
プハッと息を吹き返した様に俺のティンコが顔を出したが、相変わらず皮は剥けていない。

「ここはトイレ?」
「そうだよ」

ティンコは周囲を見渡して、すかさず場所を言い当てる。
目と口があるので、見たり味わったりはできそうだったが、
鼻は無いから臭いは解らないよな、などとくだらなく思う。

「ならなんで食事をこんな所で?」
「………」

ティンコが皮の捩れを無視してコチラに目線を向ける。
捩れたピンク色の皮が少し黒ずんで、少し痛いのが鬱陶しかった。
それに大きなお世話だとも思ったが、無視できる相手でもない。
無視して大声でも出されたらたまったもんじゃない。
仕方が無く返答していく事にする。

「別にかまわないだろ」
「食事するには不衛生じゃない?」
「こっちの方が楽なんだよ」
「なんで?」

ティンコはどうしても俺からトイレでわざわざ食事する理由を聞きたいらしい。
俺は観念して大きくため息すると、渋々、だが簡単に答えを言った。

「………誰も居ないし」

ポロポロとこぼれる様に話した。こういった話は嫌いだった。もちろん、
言って恥ずかしいとか、みじめな気分になるとか、そういう気持ちが無い訳じゃない。
ただ、クラスで浮いてる奴がトイレで飯を食う、なんてのは最近じゃあ良くある話で、
そんな事をわざわざ他人に話して、俺の事をどうこう言われるつもりは全く無かった。
それにこういった話をすると、大抵は引かれてしまったりして、
その後の場の空気が寒々としたものになるのが俺は嫌だった。
だが、ティンコが少し考える様な仕草で曲がって、
そして思い切った様に一気に言い放った。

「なら今日からは私と一緒だ」
「………」

思いかけず、ティンコは恥ずかしいセリフをクネクネと曲がりながら言って見せた。
どこの青春ドラマだよ………と閉口していると、ティンコはもう一言付け加える。

「こっちの方が楽だろう」
「………知らね」

ピシッとデコピンしてやると、ティンコが痛いと言った。
俺も痛かった。だが嫌な気分では無かった。
悪い気はしない、そりゃ悪い気はしないけど。
だけどそのセリフは恥ずかしすぎるだろう、ティンコ。
小恥ずかしすぎて、あまり会話も無いまま、俺は昼食を終えた。

       

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