「どうした一郎?朝のはしないのか?」
「………別に」
「我慢してるのが伝わってきて気持ち悪い………」
「………」
昨日ティンコが自分を女性と言ってから少し遠慮していたのだが、
強盗犯が追い詰められて観念する様にトイレの蓋を開ける。
何時までも我慢はできないし、そもそも不可能な話だった。
「なあ、あっち向いててくんない?」
「あっちってどっち?」
「あっちって言ったらあっちだよ」
「ああ、扉の方ね」
パンツを降ろし、ティンコをそっと握ると、
付いている目の視線を確認する、扉方向だった。
そのまましばらく静寂の中で待っていると、
我慢していた溜まりが自然に勢い良く出始める。
「あ」
「っ!」
ティンコがいきなり声を出して、飛び散った。
あわてて方向を持ち直す。
「なんだよ急に」
「そういえば昨日の事だけど………」
「え?」
ティンコが突然、昨日の事だと言い出したので、
俺が女性として遠慮している事を言うのだと思った。
「その………真理の事だけど………
からかって………昨日は………悪かったな」
「は?」
しかしその口から出てきたのは意外にも真理さんの名前と謝罪だった。
ティンコは溜まりを出し終えた鈴口の震えも気にせずに話を続ける
「こ、これでも少し反省してる………昨日からお前の様子も………
少しおかしかったし………だから謝らないとって………」
「………フッハッハッハッハッ」
「わ、笑うなバカ」
「フッハッハッハッハッハッハ」
久しぶりに笑い声が出てきた。どっちも杞憂に心配だった。
真面目に謝ったのに笑われたと怒るティンコをパンツに押し込み、
自分の部屋へと笑いながら、晴れ晴れとした気分で帰っていく。
母と妹が怯えた目で草食動物の様にそれを見つめていた。