如何にして未来を変えるか。
 今から策を労してもしょうがないし、その方法はひたすらシンプルに『僕を不合格にする』ことが、ベストではないにしろベターな選択だと思われた。
 こうすれば少なくとも当面はドラえもんも未来に帰るのを見送るだろう。彼女の未来を変え、直接救うことにはならないが、少なくとも延命にはなる。
 それに、ドラえもんがこのタイミングで未来に帰らないからといってそう大袈裟に未来が変わるとも思えないし、うまくいけば当面はタイムパトロールの目を欺けるかもしれない。そう思った。
 そして、そのために志望校を変えることくらい、僕にとっては瑣末な問題だった。
 今はまだ、今はまだドラえもんが廃棄されてしまうという未来は変えられないけど、いつかかならずそれも変えてみせる。
 タイムマシンで受験前夜の裏山に飛びながら、僕は誓った。
 しかし、
――ビープ、ビープ。
 突然、背後からの警告音。
 赤いランプのついたタイムマシンに乗ったタイムパトロールが、いつのまにか背後の時空間にいた。
「そこのタイムマシン、止まりなさい」
 呼ばれているのは間違いなく、僕だ。止まるか否か、振り返りつつ一瞬で判断し、僕は結局タイムマシンの動力を切った。
 今の段階ではただの時間旅行であって違法でもなんでもないはずだ。
 まぁ、僕みたいな未来人でもない人間がそれを行っているということに少なからず問題はあるだろうが、過去に干渉しなければとりあえず問題はないはずだった。
 すべるように減速して停止すると、なんだかいけすかない顔をしたタイムパトロールが、そのすぐ後ろに止まった。何故だろう。こいつ、見たことある気がする。
「おや、野比さんじゃないですか」
 彼はおおげさに肩をすくめ、僕の名前を言ってのけた。これまでに何度か未来を変えようとして引き起こされた世界の危機を回避してきた経験があるから、その事自体は不思議でも何でもないのだが、こいつの言い方が気に食わない。
 口先ではこちらを尊敬しているような態度を示しておきながら、内心でこちらを見下しているような、そんな印象を受けたのだ。
「こんにちは」
 とはいえ明からさまにトゲがある態度をとるのも何なので、笑顔でこたえておく。
「こんな時間にどこへ? あなたの身体時間はもう夜中でしょう?」
 身体時間というのは元来僕が存在しているべき世界の時間のことである。つまりは最終的に戻るべき時間の目安になる時間なわけだ。僕の場合だと2007年2月8日の日本での夜中にあたるわけだ。そしてこの身体時間、別の世界に行っている間にもなにげにどんどん進んでいく。というのも当然の話で、そうしないと少しずつ実際の時間より身体時間のほうが長くなってしまい、猛スピードで衛星軌道を回り続けた宇宙飛行士とは反対に、少しだけ多く歳を取ってしまうことになるのである。
 とりあえずこのいけすかないタイムパトロールを煙に巻くべく、
「受験前の僕をリラックスさせに」
 と、いざという時のために用意しておいた台詞を吐いておく。
 しかし、
「あぁ、その必要ないよ。君、受かってるから」
 彼はしれっとした顔で言ってのける。
 この瞬間に彼の顔を見たときから感じていた妙な既視感の正体を悟った。こいつ、顔がどうとかじゃなくて雰囲気が出来杉に似ているんだ。おそらく致命的に空気が読めない違いない。
 だからきっとエリートの出世コースからはずされこんな所で検問じみた仕事をさせられているのだ。きっと残業だ。
 ドンマイ、出来杉。
「だから映画に出れないんですよ」
 俯いて呟くと、「え?」っとタイム出来杉が顔を近づけてきた。
 いい加減イライラし始めていた僕は、
「空気嫁っていったんだよ!」
 言いながら素早くポケットからそれを取り出し、一瞬とかからずに照準を合わせ、彼の脳天を、撃った。