Neetel Inside ニートノベル
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――ポン。
 間抜けな音を立てて指先にはめた鋼鉄の筒から圧縮された空気が吐き出される。
 それはまっすぐに飛んで、タイムパトロールの眉間に命中すると、その衝撃ですぐさま膨張し、彼を、巨人にでも殴られたかのような勢いで後方にのけぞらせた。
 ドラえもんのポケットからくすねてきた空気ピストルだ。
 殺傷能力はないが当てれば吹き飛ばすくらいはできる。そして、正確に当てさえすれば衝撃で脳を揺らし、脳振倒を起こさせることだってできる。
 大きくのけぞったタイムパトロールは一瞬だけ停止したあと、そのままタイムマシンの上に仰向けに倒れこんだ。
 僕は彼の意識を確認することもせず、すぐさま自分のタイムマシンを再起動する。
 僕の未来まで確認した上で僕を捕まえようとこいつが送り込まれてきたということは、僕の計画があちらにバレているということだ。
 急がなければ。
時計のビジョンがうかぶ時空間の暗闇が切れて、紅い光が広がった。

 ***

 夕方の森はどこまでも静謐に広がっていた。
 燃えるように紅い空を背景に、葉の落ちた黒々とした木々がうっそうと生い茂っている。枯れた木々の隙間から紅い光が差し込んで、地面にまだらな模様を作っていた。
 地面に下り立った僕は寒さに軽く背を丸める。そういえば受験の前日は夜中から雪になったんだっけ。
 そんなことを考えた瞬間、
――パシュ。
 響く発砲音。そしてすぐさま背後の木の幹が砕けた。
「へ?」
 砕けた木の高さから考えて相手は頭を狙ってきたらしい。
 たまたま背を丸めなければやられていた。
「クソッ」
 悪態をつきながら僕は駆け出す。
 タイムパトロールに呼び止められた時点で覚悟はしていたが待ち伏せされたいたようだ。足を止めることなく走りながらチラリと背後を振り返るが撃って来た相手の姿は見えない。
――バシュ、パシュ。
 しかしそれは相手も同じようで、続いて次々に銃弾が吐き出されるがそれも命中はしない。
 僕は少しでも視認率、命中率を下げようと、木のすぐそばを縫うようにして走りながら、思考する。
 石ころ帽子を被った僕をあそこまで正確に狙ってきたということはあちらも同じような道具を使っているのだろう。石ころ帽子を被ったもの同士が互いの姿を見れるのは実証済みだ。
 そして、音から察するに相手は一人ではない。周囲の木に音が反射してどこから撃ってきているのかは大まかにしかわからなかったが、少なくともこの地区に6人はいる。圧倒的に振りで危険な状況だった。
 とはいえ相手の得物は音と威力から察するにサイレンサーをつけた拳銃だ。拳銃は遠距離でも有効だと考える人は多いが、実際のところ離れれば離れるほど、障害物が多ければ多いほど、その命中率は下がるわけで、その上獲物が逃げているのだから当てるのはそう簡単ではない。僕でも当てられるかわからないようなこんな環境では、“まぐれ”でも当たりはしないだろう。
――バシュ、パシュ、パシュパシュ。
 周囲で木々が砕ける音を聞きながら、僕は道なき道を走って、灯りがともり始めた街の方を目指した。

       

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