「二人ともすぐに来るって」
受話器を置きながら、こちらに向き直り、静ちゃんは肩をすくめてみせた。
電話の途中で「あのこと、おばさまに話すわよ」とか、「『パーマだけはかからない』でしたっけ? いい替え歌よね、あれ。けっこうコメントのびてたわよねぇ」とか聞こえた気がしたけど、気にしないでおく。気にしたらきっと負けだ。
そんなことを考えていると、唐突に
「モロゾフの白いチーズケーキ」
彼女がつぶやいた。何のことかわからず彼女の顔を凝視すると、
「お礼よ。今回のことはそれで手を打ってあげるわ」
笑ってみせた。
「それで静ちゃんの手を借りれるんだったら安いものだよ」
「不合格祝いにちょうどいいわね」
「へ?」
「私は別にどこにいても勉強できるもの。一人で彼の相手をするなんて考えられないわ」
「静ちゃん……」
「謝りたいなら言葉じゃなくてお菓子かドラちゃんでよろしく」
「えっ!?」
「冗談よ」
彼女は、つまらなそうに息を吐いた。
どうリアクションすればいいかわからず困っていると、
「あ、そうだ」
思い出したように言って近付いてくる静ちゃん。
「コレ、返しておくわ」
差し出された手にはタケコプターが乗っていた。
「あ、ありがとう」
「ま、使わない方が良いけどね、たぶん」
受け取ろうと手を伸ばしたところでニヤリと笑われる。
「なんで?」
「なんだかブンブン鳴っててうるさかったからスイッチを切ったんだけどね。コレ、スイッチ入れても震えるだけで回らないのよ」
「そんな――」
「うん。おかしいわよね。おかしいけど、少し話を整理すれば想像できなくもない。
この時代でタケコプターを使えるのはドラちゃんの関係者の私達だけ。つまりは彼等にとっての邪魔者だけ。
だから予め、タケコプターを使った人の脳波を乱すような電波をこの地域にばらまいておけば、私たちの足を封じられる」
スラスラと淀みなく仮説を述べる彼女。そこには確かな説得力が存在していた。
それならばタイムパトロール達がタケコプターを使って追って来なかったのも頷ける。
「これで目だけじゃなく足も奪われたわね、のび太さん。ここまで用意周到な相手よ、恐らくは私達がこの時間ののび太さんに事情を説明することは許されないでしょうね」
「……」
「どうする? 恐らくタイムマシンも押さえられてるわよ」
「……ここにいるタイムパトロール達を全員行動不能にする、しかないか」
言うと、
「そういうわかりやすい話、私嫌いじゃないわ」
彼女は笑った。
笑った瞬間に、タイミング良く、チャイムが鳴って、僕らは顔を見合わせて笑った。