Neetel Inside ニートノベル
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 同時刻、源家。
「いるんでしょ? 事情なら聞いてるわよ」
 玄関を開け、何もない空間に向かって言う静。
「……」
 返事はない。
 彼女は大きくため息を吐くと、
「いるのはわかってるって言ってるの。それともあなた達は捜査に協力しようとしてる一般人を邪険に扱うわけ?」
 けだるげに言う。しばしの、沈黙。
 彼女はもう一つため息を吐くと、髪を後頭部で二つ結びにしていたゴムを外して、頭を振った。細い髪の毛がふわりと揺れて、降ろされた瞬間に、幼く見えた彼女の表情が一瞬で大人のそれに変わる。
「ねぇ」
 そして、
「協力……とはどういうことだ?」
 何もない空間から声が聞こえた。落ち着いた、大人の声。
 瞬間、ニヤリ、とまるで賭けに勝ったかのような顔で静が笑い、
「そう。協力。彼ならとっくの昔にここを出てるしね。事情を知らずにちょっとかくまったからって逮捕されるのも嫌だし、彼の居場所を教えるからそれで手打ちにしてほしいんだけど。ずっとそうやって囲まれててもたまらないし」
 言った。再びしばしの沈黙があって、
「……司法取引か?」
 声が尋ねる。
「そんな大げさに考えなくていいわよ。私は面倒が嫌いで善良な一般市民。わかる?」
「了解した」
「嫌なのよ。自由がないのも、面倒なのも」
「情報が本当なら、君の自由は約束しよう。それで、彼はどこに?」
 一瞬だけ静は沈黙し、呼吸を止めた。そして、
「空き地よ」
 笑顔で言った。
「情報感謝する」
 声が返す。
「あら、けっこうあっさり信じてくれるのね」
「嘘なら罠を蹴散らしてタイムマシンで戻ってくるまでだ」
「なるほど。それは効率的だわ」
 言って、静は手を振った。扉を閉め、家の中に戻った瞬間、寒さから来るものではない震えに襲われ、床に座り込んでしまう。
 しばしそのままでいて、落ち着きを取り戻すと、
「頼りたくはないけど、あんなやつでも弾除けにはなるか……」
 つぶやいて立ち上がり、受話器をとった。
「あ、もしもし、こんな時間にごめんなさいね、出来杉さん。ちょっと勉強で教えてほしいことがあって……うん。うん。出来たら家に来て欲しいなぁ、なんて」
 壁に寄りかかり、また座り込む彼女。
「ダメ? 受験前なのはわかってるのよ? どうしてもダメかしら」
 受話器を放して大きくため息を吐き、再びそれを耳に当てると、
「ねぇ、出来杉さん。いま私、家に一人なの」
 言った。
 答えは決まっている。
「それじゃあ待ってるわね」
 言いながら、受話器を置き、
「ごめんなさいね、のび太さん。私の身を守るためなの」
 彼女はつぶやいた。

       

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