Neetel Inside ニートノベル
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「まぁ、作戦って程でもないんだけどね」
 初めに、彼女は照れたようにそう前置きした。
「恐らく敵はいくつかの小隊に分かれて行動してると思うの。それで、結局のところ、のび太さんが目的を達成するための障害はここに向かっている追跡部隊と、のび太さんの家で彼の侵入を防ぐべく待ち伏せているであろう部隊、この二つを排除してやれば良い」
 言って指差す先には折込広告の裏面の白紙に書かれた簡易地図。
「いかにのび太さんに策があるとはいえそれが二回も通用する保証はないでしょ? できればこの二つを同時に叩かせてあげたい。そのほうが、敵の数は増えるけど効率は良いと思うの。何だかんだいってのび太さん運動音痴だし」
 自分で言っておいて苦笑する静ちゃん。
「ボール投げは手を放すのが遅くて真下に投げるしな」
「で、思いっきりバウンドしてきたボールで顔面殴られてね。眼鏡変えたのその時だっけ?」
 それに続くジャイアンとスネ夫。
 僕は顔を真っ赤にしながらそれを遮る。
「仕方ないじゃないか! 誰にだって向き不向きはあるんだよっ! 今はそんな話関係ないだろ」
 なんだか静ちゃんがやけに幸せそうに頬を上気させて、潤んだ目でこっちを見てる気がするけどきっと気のせいだ。こんな時にそんな顔をするのは本当にやめて欲しい。昔はもっとうまく「お嬢さん」の仮面を被っていたと思うのだけれど、最近は僕らといるときはだいたいこんな感じだ。
 何が原因かは知らないが幸せそうだからいいのだろう。
 投げやりにそんなことを考えていると――コホン、と彼女が咳払いをして話を戻す。
「だから、たけしさん達にはそれを手伝ってもらうわ。私がこの辺りにいる部隊を合流地点に誘導し、二人にはのび太さんの家の近くで、彼の目撃情報でも流してもらう。相手の最優先目標はのび太さんの確保でしょうから、どちらも動いてくれるはず。あとはうまく目的地で二個小隊が合流するようにタイミングを調整すればいい」
「なるほど……」
「あとはのび太次第ってわけか」
 神妙な顔で二人がうなずく。
 しばしの沈黙。
 その間に考える。流れとしては綺麗だし問題もないように見える。敵がこちらの誘導に従って動いてくれるかは実際問題静ちゃん達次第なのだが、ここはみんなを信じるしかないだろう。
「合流地点は僕が指定しても言いのかい?」
「できればこことのび太さんちの中間地点がいいんだけどね」
 その言葉に僕はうなずく。
「ならちょうどいいよ。ここにしよう」
 言いながら僕が指差すと、
「お前、こんな開けたところで本当にいいのか? 囲まれたら終わりだぜ?」
 ジャイアンが顔をしかめる。
 僕が指差したのは最早言うまでもなくいつもの空き地で、そこは彼の言うとおり1対複数の戦闘には向かない場所だった。だけど、
「大丈夫。ここがいいんだ」
 僕は答えた。
 その理由は単に、もしそこで死ぬとしたら、少しでも自分にかかわりの深い場所で死にたいからというひどく後ろ向きな理由だったりした。
「決まりね」
 静ちゃんが真剣な目で僕を見据える。
「大丈夫だよ」
 僕は笑って、
「みんなありがとう」
 そして、手を差し出した。
「おう」
 すぐにそれをつかむジャイアン。
「死ぬなよ」
 縁起でもないことを言ってそこにスネ夫が手を重ね、
「……」
 無言で口角を吊り上げて手をのせる静ちゃん。
 僕らはまるで大会前に運動部がやるようにそれを大きく下に振り、そして手を放した。
「じゃあ、先に僕は行くよ」
「靴は裏口にあるわ」
「ありがとう」
 言って、裏口を目指す。
「ところでさ、もしもう裏口も囲まれてたらどうするの?」
 なんとなく思いついて、足を止め、尋ねると、
「運が悪かったと思って戦ってちょうだい。あなたなら見えなくても当てられるでしょ。住居不法侵入よ、容赦しなくていいわ」
 肩をすくめながら静ちゃんが答えた。
「りょうかい、じゃあまた……未来で」
 少し格好つけてそういうと、みんなに笑われた。
「まぁ、それでもまだ不法“侵入”ではないよなぁ」
 僕はつぶやきながら外に出た。
 太陽はいつの間にか沈んでいて、雲に覆われた重い空が広がっていた。
 警戒しながら外に出たけど、源家の裏口が細い路地に面していたおかげか僕は何とか襲われることも襲うこともなく、空き地を目指した。

       

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