Neetel Inside ニートノベル
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 瞬間、背骨に電気をながされたかのような衝撃があって、全身の筋肉が弛緩した。
 体重を支えきれなくなった膝がポキリと折れるように曲がり、彼女の細い腕に抱き止められる形でかろうじて僕は立っている。彼女の背に回していた腕も力を失いだらんとたれ下がっている。
 力が入らない。
 まぶたが重い。
 だんだんと暗くなっていく視界の中、かろうじて動く目でもって彼女を見ようとしたけれど、体がちかくにありすぎてそれも叶わない。なんとか体を動かそうとしたけど、かすかに腕が持ち上がっただけだった。
 ゆっくりと、押し入れの仕切りから下りたドラえもんが僕を畳の上に座らせる。
「あ……ぅ。な、んで」
 唇を震わせながら尋ねると、ドラえもんは僕を抱く手に力を込めた。
「このままのび太くんを引き渡せば君の罪は不問にしてくれる、そういう約束だから」
 彼女は片手をポケットに入れ、どこでもドアを取り出すと、僕を抱いて立ち上がる。連れていく気だ。ドアを横目にそれを察した僕が必死で肩を揺すって抵抗しようとすると、彼女は僕を抱く腕に力を込めた。
「ボクだってずっと一緒にいられたらって思ってた。
 キミたちといるのがあまりに楽しすぎてついつい離れられなくなってしまった。
 さっきはごめんね。
 本当はすごく楽しかった。すごく幸せだった。
 キミといられて良かった」
「か……こ、けいは……やだ、よ」
 力が入らない。
 声が震える。
 溢れる涙をこらえることもできない。
「もう少ししたら、いかなきゃだもん。もう少しだけ、もう少しだけ……」
 まるで言い訳するように彼女が繰り返すのが悲しかった。しばし、無言のまま時間が過ぎた。
「ねぇ、のび太くん」
 ささやくような小さな声。
「キミはボクと会えて良かったかい?」
「あた……り、まえ、でしょ?」
 切々になんとかそう返すと、不意に彼女の体が離れた。なんとか薄く目を開くと、涙で滲んだ視界に、肩を両手でつかむ彼女がいた。 彼女は悲しそうに微笑むと、
「両想いだからいいよね。最後だからいいよね」
 すがるような声で言って、彼女は、微かに唇を触れ合わせた。
 離れた時には感触も残らないような一瞬の口付け。
「ふふ、のび太くん、初めてだよね」
 照れたように、嬉しそうに笑う彼女が僕の胸を締め付けた。何も出来ない僕をもう一度強く抱き、彼女は呟く。
「じゃあそろそろ行こうか。キミは日常に帰るんだ。キミなら大丈夫。大丈夫だから」
 自分に言い聞かせるようなその言葉のあと、彼女はドアを開いた。
――イヤだ!!
 僕の心の中の叫びは声にすらならず、微かな呼気になり、ドアから吹き込んできた外気の中、白い湯気になってたゆたった。

       

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