Neetel Inside ニートノベル
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 しばし、そのままぼんやりしていると、
「ドラちゃーん?」
 がらりと襖が開いてお母さんが現れた。
「あぁ、ごめんなさい」
 窓の外を眺めていたドラえもんがその音にはっとして振り返ると、
「あら綺麗ね」
 その間に窓のそばまできていたお母さんが言う。彼女はそのままドラえもんの隣まで来て一緒に窓の外を眺めると、
「もう五年になるのねー」
 感慨深げに呟いた。
「なんだか、すいませんね。こんなに長いこと居ついちゃって」
 ドラえもんが苦笑いを浮かべて言うと、
「何言ってるの。のび太が高校にいけたのもドラちゃんのおかげだし、もううちの子みたいなもんじゃない」
 お母さんが笑った。ドラえもんは言葉につまったようで、一瞬沈黙した後ははっと息を吐きながら破顔する。
「ありがとうございます」
 そして、
「いいのよ。けど、さすがにそろそろ部屋分けたほうがいいのかしらねぇ」
 ふと、思いついたようにお母さんが言って、ドラえもんの表情が変わった。何を言っているのかわからなくて思わず笑ってしまったようなそんな感じだ。
「いや、もうのび太も高校生でしょ? さすがに……ねぇ」
 パジャマ姿のドラえもんを上から下まで見ながらお母さん。
「けど僕、ロボットですよ?」
「けど貴方も恥ずかしいでしょ? ここで着替えたりするの。だからいつも朝ごはんのときパジャマなんでしょ?」
 言われてドラえもんが赤面する。
「ドラちゃんにもプライバシーあるでしょうし、部屋なら物置を空ければ良いしね。近いうちに考えましょ」
「ありがとうございます」
 ドラえもんがペコリと頭を下げるのを見て、お母さんは笑った。
「それじゃあおやつにしましょう。ちゃんと着替えてくるのよ?」
「はい」
 部屋を出て行くお母さんを見送ってドラえもんは押入れに戻っていく。誰がいるわけでもないのに襖を閉めると、中からごぞごぞと音が聞こえた。再び襖が開いてそこから出てくると、彼女はいつもの格好に着替えている。
 それでも寝癖だけがひょろんと跳ねていた。
 彼女はもう一度だけ桜の木を窓から眺め、部屋から出て行った。

 おやつを食べたら彼女はそのまま一階のリビングでテレビを眺めたりお母さんの手伝いをして時間をつぶし、そのまま昼食を二人で作って一緒に食べて、そして部屋に戻る。それが大体の彼女の行動サイクルだ。
 長いことこうして暮らしていると、ロボットなどというファンタジーな肩書きよりも家事手伝いという肩書きの方がふさわしいような気がしてくる。とりあえずこれならフリーターよりは多少は聞こえがいい。
 そうして今日もいつもとおんなじように昼食を終え、乾いた昨日の洗濯物を持って部屋に戻ってきた彼女は散らかしっぱなしになっていたのび太の服や参考書、漫画の片づけを始める。すっかり意識も覚醒したようでせかせかとかいがいしく動き回る彼女の頭は、顔を洗ったときにでも直したのかちゃんとしていた。
 箪笥にのび太の洗濯物を直す途中、初めてではないだろうに彼女はしばし手を止めて、顔を赤くしながらのび太の下着を箪笥に入れていた。入れるなり箪笥を閉める辺りよほど気になるらしい。
 なんとか全ての洗濯物を直し終わり、大きく息を吐く彼女。
 続いて彼女は立ち――、
「ご飯だってー」
 不意に声をかけられた『私』はひどく驚いた。

       

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