野比家、のび太の部屋。
 六畳の狭い室内をドラえもんが歩き回っていた。
 まったく、心配症で落ち着きのない奴だ。よほど気になるのか今日のおやつにも手をつけていない。
 そんなにも心配してくれているなんて……。
 ちょっと感動しつつもそんなんに信用がないだろうかと悲しくなる。
「遅いなぁ。ダメだったのかな? 事故にでもあったのかな?」
 いかに勘のいいドラえもんとはいえ、まさか出来杉くんにつかまって、それから静ちゃんのストレス発散に付き合わされているとは思うまい。
 僕は彼女のおやつのどら焼きをつまみながら、僕のからの電話を待った。
 しかし、おやつにどら焼き8個ってどうなのだろうか。これだけ食べているくせに体型を維持できているのはロボットだからだろうか。
 不思議だ。

 ***

 それから一時間ほど経って、ようやく野比家の電話が鳴った。
 ドラえもんはハッとして部屋から飛び出し、電話まで駆けていくとみせかけて踏み留まる。
 彼女は何やら深刻な顔でうつ向くと、そのまま部屋に戻った。
 結局電話は鳴り続け、ママがそれを取った。
「ホントに!? 良かったわぁ。お母さんも鼻が高いわ。源さんにもよろしくね。ドラちゃんに変わるわね」
 階下からママの嬉しそうな声が聞こえ、それを聞いたドラえもんが大きく溜め息を吐く。その内に彼女はしゃくりあげ出し、さめざめと泣き始めた。
 僕の合格、嬉しくなかったの?
「ドラちゃ~ん、ドラちゃ~ん? のび太がドラちゃんに変わってほしいって」
 ママがドラえもんを呼ぶ。
 だけど彼女は立ち上がらない。そして畳の上に座り込んだまま大きく一つ唾を飲み込んで、
「聞こえてた~。なんだか涙が出ちゃって話せないからおめでとうって伝えといてください」
 言った。
 目の前で彼女を見ていた僕にはそれが嘘だとすぐにわかったが、ママはそれを信じたらしく、
「フフフ、ドラちゃんったら嬉しくて泣いちゃってるみたいよ」
 そんなことをこの時間の僕に言っていた。
 僕は声を押し殺して号泣する彼女に何をしてあげることもできず、ただ呆然と見つめていた。