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そして一人になった部屋で、僕はようやく我に返った。
引きつった笑いを浮かべつつ、
「まったくドラえもんったらたちの悪い冗談だよ……」
呟きながら引き出しを引く。
そこに広がっていたはずの真っ暗な空間はなく、あたりまえの木の板があるだけだった。
「そんな??、嘘だッ!!」
ばしばしと板を叩いてみるがそれが抜けることもなく、時空間に繋がる入り口なんて存在しなかった。まるでいままでそこにそんなものがあったことのほうが嘘みたいに、どこまでも普通の引き出しが存在している。どうやら冗談じゃなく彼女は未来に帰ってしまったらしい。
あまりにも距離が近付きすぎて、忘れていた。
彼女が未来からやってきたのだと言うことを。
あまりにそばにいすぎて忘れていた。
いつかは、帰らなければならなかったということを。
まともな大人になれば喜んでくれる。
幼かった僕は単純にそう思っていたけど、それは同時に一緒にいられる時間の終わりも意味していたのだ。
そんなの嫌だ。
嫌だけど、彼女が決めたのなら……認めなくてはいけないんだと思う。
納得しなくてはいけないんだと思う。
そうして誰もいなくなった部屋で、僕は涙をぬぐった。
格好つけたつもりなんだろうけどこんな別れ方許さない。
早く帰って押し入れで寝ている彼女を起こして、たくさん話すんだ。
悔いが残らないよう。
笑ってさよならできるよう。
家からでた僕の足はしだいに早まり、気が付けば走っていた。
なんだか歩かなければいけない気がしたけど、そんな気の迷いは一瞬で振り切った。
どれだけがんばっても運動音痴だけは直らなくて、すぐに息はあがってしまったけど、それでも僕は走って走って、裏山を目指した。
タイムマシンに乗り込み、時空間にダイブする。そしてパネルをいじって元の時間に帰るべく操作をしようとした瞬間、タイムマシンが勝手に動き出した。
突然のことに呆然としている間にもタイムマシンはぐんぐんすすむ。
そういえばドラえもんがさっきタイムマシンにのったばかりなのを思い出す。
これはきっと時空間に同じタイムマシンが二台入り込んだために、エラーが発生して目的地が勝手に設定されてしまったのだろう。
つまりはこのまま行けばドラえもんに追いつけるということ。
せっかくだから話をしようか。
ずんずん動いていくタイムマシンの上で、僕は思った。