Neetel Inside 文芸新都
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過去の東京
戦の始まり-2

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完全装備・・・には程遠いが、現状ではこれがフル装備なのだからしょうがない。
もう一度自分に言い聞かせる。
いつも夢に見ていたことがいま現実に起こっている。
たとえ夢だとしてもかまわない。
それこそ夢ならいまから人を殺すのは肯定される出来事になる。
「刀は振らない・・・突くんだ・・・。」
その辺の足軽が持っているような刀では切りかかっても対して傷はあたえられない気がした。
腕や足が切り落とせれば別だが、勇気が・・・土壇場で出ない気がした。
突くのなら目をつぶってもあたるかもしれない。

今の僕の最優先事項はこの【あたるかもしれない】を【あたる】という確定事項に変えることだった。
後ろから行くか?でもそこを見られたら卑怯者のレッテルが貼られる。
戦場には〔戦目付け〕とよばれる役目の人がいてその人たちに、どの武士が手柄をたてたとか、相手の陣地を取ったとか
そういうのを監視する人だった。
後ろから突き殺すのを戦目付けの人に見られたらそこで、僕の戦国ライフは、北条家ではできなくなる。
やはり、真正面からだ。
相手は刀の相手の方がいい。
電撃的に一瞬で切り結んで終わるのではなく、しばらくにらみ合いたい。
相手が我慢しきれず振りかぶったところを、左片手突きを正中線のどこかに決まればこちらの勝ちだ。
胸なら、もしかしたら少し突く場所がずれて骨のある場所に当たったら・・・
捨て身で飛び込んでいるのだから左手首が折れるかもしれない。
相手にもダメージを与えることができるかもしれないが、間違いなくその後その相手ではないかもしれないが殺される。
だから骨のない、喉もしくは腹が一番良い。
貫いたらそのままズブブブと左手で突いた刀のつばが相手を貫いた肉体と接するまで一気に突く。
戦略は整った。
後は気もちの問題。
いざ人を殺せるのか?
テレビやマンガでよくあるシーンのように吐いてしまうのか?

「大丈夫・・・大丈夫・・・」
自分で自分に言い聞かせる。
「お前はできる・・・・部活でも一番突きがうまかったじゃないか・・・」
尚も言い聞かせる。
「ふう・・・落ち着くんだ。冷静になるんだ。」
「熱くなるな。冷静に行くんだ。確実に行くんだ。」
自己暗示は案外うまくいく。
適当にやってみても何の効果も得られないが、集中して本気でやるとマジで強くなった気がする。
「いける・・・いける・・・いける・・・」
ブツブツ言いながら主戦場へ歩いていった。
刀はむき出しで担ぎながら歩いていった。

罵声と怒号、歓声と悲鳴。馬の駆ける音。鉄砲はまだないのか、発砲音は聞こえなかった。
とにかく騒がしいところだ。
常人が見たら右往左往するようなところを僕はものすごく冷淡に風景を見ていた。
死体が散乱し、馬に踏み潰されて原形をとどめていない人の頭。血だらけの草むら。
そんな場所なのに、ものすごく落ち着いていた。
馬印が見えた。五色段旗。北条氏康のものである。
その旗が向いてる方向。即ち、いま北条家が攻めている方向である。
その向きに目を向ける。
なるほど乱戦である。その乱戦の中にはすでに右腕がないものが、左腕だけで懸命に戦ってる姿なども見られた。
いてもたってもいられず、乱戦に加わる。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
とりあえず叫んでおく。
自分自身に気合を入れるためである。
そして乱戦に突っ込み一人の男と対峙した。
見れば男は腰に二つの首をぶら下げている。即ち二人殺したということだ。
男の持っている槍は朱に染まっており、その朱色はもともとの色か、血の色かわからぬほどであった。
「ハァハァ。・・・勝負!」男は僕の目を見て悟ったようだ。
この少年は自分に勝負を挑んでいると。
その男、正々堂々のつもりなのか、僕が年端も行かない子供だからか。
どっちかはわからないが、槍を捨てて腰に差している刀を抜いてきた。
これは僕にとっては好都合だった。
槍に刀で勝つには三倍の力量がいる。
弥彦もそういってたな・・・。しかしいまは相手が親切心からか余裕なのか、自分からこっちの土俵に下りてきてくれたのだ。
お互い中段で構える。
竹刀とはまるで違う。緊迫感、圧迫感、なによりも、相手の殺気―――。


       

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