Neetel Inside 文芸新都
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・・・しき、この
FIRST DAY

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 なんだ、なんだなんだなんだ。一体何が起こった。

 あ・・・ありのままに今起こったことをはなすぜ!
「電車事故で あ、こりゃ死んだわ と思っていたら 森の中にいた」
走馬灯か?俺の頭はおかしくなったのか?



――――― ・・・しき、この ―――――



 周りを見渡す。状況を整理してみよう。
俺の名は青木明夫。修学旅行中の男子中学生。青木だけにモテスリムで恋愛体質の愛されボーイ。
よし、頭はおかしくなってないはず。後半に気の迷いがあるが大丈夫だ。
 確か海沿いを電車は走っていた。そんで脱線したんだっけか?
なんにせよ、森にいる理由にはならない。電車もない。
周りの人もクラスメイトやらリーマンやら、一応乗客たちらしい。ざっと200人ってとこか。
「あれ・・・たすかったの?」
 隣に座り込んでいた白石里美が立ち尽くす俺に問う。
森にゴスロリのあみあげドレス、合わない組み合わせだ。つか修学旅行に何着て来てんの君。
答えについては俺もわからない。返事は「えー・・・さぁ?」
 里美もいるなら、もしかしたらここは天国かもしれない。寂れた所なんだな。
しかし挙動不審にパニックと、周りは騒々しい。あれ、地獄だったかな。俺たち何か悪いことしたか?

そこに突然、ピー、ガガガと巨大なノイズ音が鳴り響く。

「あーあーテステス、よしOK ・・・えーい、貴様ら心して聞けぇー」

 緊張感の無い声が大音量で響き渡る。
音のする方向に全員が振り向くと、そこにはついさっき見回したときにはいなかった3人組。
声の主は・・・少女? 赤いパーカーのフードを深々とかぶってメガホンをかまえている。
大きな箱に腰掛ける声の主を挟むように、高級そうな服に身を包む2人の男女。 



 「みなみなさまぁ、生き返りたければ7日間、生き残れ。以上」



 全米、いや森の中が唖然とした静寂につつまれた。聞こえるのはメガホンのノイズのみ。

「シェリー様、ちゃんと説明しないとわからないって毎回言ってるじゃないですか」
「えー、めんどくさぁい じゃーちかねちゃんが説明しちゃってよ」
 正気を取り戻した者から順に、こんな呑気なやり取りで済む話題でない事に気付く。

   生 き 返 り 、 た け れ ば ?

 どういうこと!? 俺たち死んでるのか!? てんでばらばらな喚き声の応酬。
里美は・・・あー、まだ放心してる。

「黙れヨクトグラムどもがぁ!まずは奴から公理を得ねぇと何も証明できねぇだろうが!」

 辺りが静まり返る。中3の分際で一喝しやがった。里美もこれでやっと正気に戻ったらしい。
うちの学校のもんなら誰でもわかる。この奇抜な語り口はヤツだ、南師 狭(みなみもと きょう)。
「やるねぇ少年。じゃ静かになった所でルール説明といきますか☆」
 少女の脇にいたチカネと呼ばれた軽そうな女―態度変わりすぎだろ―が話し始める。
説明は物語の流れを止めるから嫌だけど、前提はいるでしょ?と前置きをして説明を始めた。

「ここはアンダーグラウンド。あんた達は今・・・そうね、いわゆる魂だけの存在。
 これからこっちからミッションを出すから、それをクリアすれば生存☆・・・まぁ死んでるわけだけど★
 パートナーと共に7日間生き延びれば生き返れる。簡単でしょ?」
 
 ざわ・・・ざわ・・・。唐突に、一方的に不条理に。どよめく周囲。魂?生き返り?ミッション?
「あきお・・・どうなるの・・・?」
ええい、いつもいつも俺を頼られても困るよ。里美はその腕に抱くらぱんちゃん人形にでも願掛けしてろ。

そこに、挙手が一筋。

「疑問。 何故そんなことが出来る? 何故こんなことをさせる?」

 あの根暗そうな口調、その割に積極的な行動。そして不遜な態度。大家 朝利の野郎だな。
その先にはわくわくしたまま、ただ開始を待ってるだけの少女。質問には答えようぜ。
疑問にはどのリーマンよりもピシッと決めた、三人組の中のスーツの男が答える。

「えらく抽象的な問いだな。しかし『納得』は必要だ。答えよう。
 何故出来る。それがこの方の『力』だ。何故させる。これが『死神のゲーム』だからだ。
 他に質問が無ければ『バッジ』を配布、開始する」

 答えになってないのは気のせいだろうか。
この方ってその娘?なぜにバッジ?しかし誰も応えない。俺も応えられない。
質問は無いと判断したのか、男が少女を持ち上げ女が箱を開ける。少女は「むぅ」とか言ってる。
あの中にバッジが?と考える間も無く突如、ポケットに突如ジャラジャラした感触が現れる。

「じゃ、バッジも配ったしスタート☆」 空箱をみせる女。え、もう?
「今日のミッションはー、[森から脱出せよ]でいいかなぁ?」 いやいやいや。
「では、検討を祈る」 祈るなら健闘にしてくれ。

 待て、待て待て待て。また大切な部分を緊張感無く言いやがったぞこの子。
つーかなんだ、電源のないメガホンといい、突然現れたバッジといい、不可解な事が多すぎる。
幽霊ならなんでも許されるのか?聞いてもさっきみたくチカラだなんだで有耶無耶にされそうだ。
いいんだな、ひとまず森を出ればいいんだな?

「キーワードは、『パートナー』『バッジ』『ノイズ』、そして『イマジネーション』だ」
「はやくパートナー見つけないと、くまさんにやられちゃうぞ☆」

 くま?

 叫び声。

 思考が追いつかないまま、現実らしからぬ現実をみる。
人が襲われている。腕が刺青のようになった熊に。
空中に禍々しい紋章みたいな物が浮いていて、そこから熊が湧いている。
刺青のような腕に引き裂かれ、人が分解されるように消えていく。
人がゴミのようだ?そんな甘っちょろいものじゃない。塵のように霧散していく。

 あ、俺のところにも来た。でけぇ。

 熊の唸り声に身を竦ませる内に、俺の生き返るチャンスは終わった。
 消える間際に、里美の悲鳴。
 なんだよ、俺、主人公じゃないのかよ。それならあばよ。


                 浅ましき、この現実。



                      AOKI END 残り167人 残り7日 

       

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