Neetel Inside 文芸新都
表紙

両手に夢を、股間に自我を
学校に向かえ

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やあ、よいこのみんなぁ!

こーんにーちわぁーっ!


お兄さんは今起きたところなんだけど、今日は何曜日かな?

…そう、月曜日だね!よいこのみんなは学校に行く準備をしてるかな?!


え?「お兄さんは?」っていいたいの?




大丈夫っ!お兄さんは勉強こそ並以下だけどこういうことはとてもきにするたいp…




針は8:30を指していた。






―― 顔を洗って意識を澄ませる。そこでやっと腹が減っているということに気づく。
ああ、やっぱり俺は健康だ。胃が空腹という信号を脳にちゃんと伝えているし、脳は昨日冷蔵庫に入れておいた菓子パンのことを思い出させている。
両足はえっちらおっちらと筋肉を伸び縮みさせ、上体が崩れ落ちないように微妙なバランスを保ちながら利き足より冷蔵庫に向けて歩き出す。
階段を下りる時、手は自然と上体のバランスを保つサポートへと回り手すりにそっと触れている。
股座はというと、……おいこら勝手にテントを張るんじゃあない。時間が迫っている上に今日は修学旅行なのだ。
そう、修学旅行だ。うちではない、どこか遠くに泊まるのだ。しかもわが校の伝統、男女混合なのだ。
男女混合。その言葉に反応するがごとくテントはチョモランマとの合間、富士山へと変貌し俺は焦る。
ややっ、こいつめなんと不埒な考えを。不埒不潔腐乱。風呂場で便所で班別行動で。
一人二人はたまた大勢。抜くや挿すやの大騒ぎ。これぞ青少年のあるべき姿ではないのか。おお、そうなのだ。
俺は息を荒げつつ、さらに深く思考の中へ飲み込まれていく。

いつの間にか今まで空気だった左手の暗躍によりベールを脱ぎ去ったチョモランマから少量の雪崩が噴出するとこれを潤滑液として周りの岩肌がずるっと剥げ落ち、
麓より幾分か幅のある噴火口がその赤い姿を現した。剥げ落ちた岩肌は麓に向かい数cm下降したところで止まった。余ったものはぷっくりとした噴火口の尻のところにひだを作っていた。

完全に臨戦態勢となったチョモランマ、もといハル○ンネンは少し触れただけで過敏に反応しさらに硬さを増す。
鼓動とともに銃身は上下に運動し、まともに照準が合わない。これでは目標を劣化ウラン弾で貫くことすらままならない。
ベルナド○ト隊長!私はいったいどうすれb……




ばっしゃぁあん、と音がして急激に体温が下がっていく。息を荒げていたので少し水を吸い込み、階段上でむせる。


「眼ェ、醒めた?」と本日二回目、…というのか夢で聞いたあの台詞を母に言われ悪寒が走る。
○ルコンネンは既に萎縮し100均の水鉄砲となり、銃口はカバーで大切に保護されていた。



「あんた、ナチスの総統にでもなったつもり?口から駄々漏れだったわよ、あんたの妄想」
ええい、その話は忘れろ。忘れてくれ。頼む。
「そんな報告はいいから早く飯をくれ。あと、今日から修学旅行だか「はい」」

流石マイマザー。キッチンマ○ーやク○ラップにもひけを取らないほど準備が早い。毎度の事ながらどうも心を見透かされている気がしてならない。
いつから母は勾玉持って心の鍵を開けるどこぞの弁護士に弟子入りしたのだろうか。旅行から帰ってきたときにゃ、「待った!」だの「くらえ!」だの叫んでいそうで怖い。
てか突きつけるのは資料にしろ。冷水は辛い。すきっ腹にこれは堪える。

「あんたは私より料理が上手いんだからね……。たまには楽させておくれよ…。」
今月に入って昨日まで母は包丁や鍋にまったく触れていない。単純に俺がギャンブルで負けたからである。
我が家は「じゃんけん」という確率の勝負を好まない。すべて勝負やギャンブルの類は緻密な策にどう相手を貶めるか、それに伴いどこまで自分を“張れる”か。
これに集約される、というのが我が家である。喰うか喰われるか。我が家において全てのことは勝負であり、それがたとえどんなにちっぽけなことであろうと疎かにはしない。
殴り合いの喧嘩が始まろうものなら、その勝敗を左右するため、俺たち家族一人一人は総力を挙げこの勝負を支配しようとする。
加勢したり、武器を持たせたり。最終的には喧嘩をしにきた連中がなぜか観客側に回り、我が家の伝統的な乱闘を観戦していることもしばしばだ。
また、「勝者は誰か?」という賭け以外にも「最もひどい怪我を負った部位は?」「始まってから警察が来るまでに何人観客が集まるか?」など事細かに結果を分析し、我が家での勝者を決めるので、
ただひとつの禁止ルールとして、各種統計を記録されるまでは情報操作など法螺を流してもいいのだが、記録されたものには一切手をつけてはならない、というのがある。
こうして得た「勝者」という肩書きの力は絶対であり敗北した者らは勝者の命令を無制限に聞かねばならない。金銭から労働、必要あらば体で支払わせることもある。
ちなみに俺の童貞は二つ上の姉(現在別居中)の命により、彼氏にフラれたストレスを発散させるために否応無く献上させられた。
てか一晩で二桁はさすがに当時の俺にはきつかったはずだ。今の俺は「絶倫」のあだ名がつくほどのやり手、といいたいところだがまったく普通である。
無論、敗北した者らが団結し勝者を引きずり落とすチャンスも無いことはない。
しかし、勝者がそれを許さねばそれまでだ。逆転はありえない。そう、ありえないはずだったのだ。


話をそのギャンブル時に戻そう。
その日は土曜であり、遊ぶ約束があったため友達が家にくることとなっていた。
昼食を食べてしばらくするとインターホンが鳴り、季節外れのニット帽をかぶった右京がやってきた。俺の幼馴染であり、我が家のギャンブルのよき理解者である。
「そのニット帽はどうにかならないのか…? 暑いだろうに………」
「これはニット帽じゃない、カツラだっ!……そういう君も自宅でぐらい制服を脱いだらどうだい?」
「これは俺のポリシーだプライドだパジャマだ戦闘服だ。俺ら学生にとって試験とは戦争ッ!試験勉強とは己との戦いだぁッ!他人を蹴落とし踏みつけ土台にして初めて“合格”という勲章を頂戴できるのでありますっ!貴官はこのことがお判りであるかっ!」
直立不動の姿勢で遥か遠くに失われた軍国主義に思いを馳せながら、俺が試験とは何か何故試験を受けるのかなどをべちゃくちゃ喋くっている間に右京は既に俺の部屋にいてお茶をすすっていた。

そもそも、今日の目的は右京が噂のW○iを買ったというのでぜひ俺の家でやろう、といった少々自己中なものである。
右京はいつも見せないような誇らしげな笑みを伴いながらせっせとTVにそれを接続している。数分たって、準備が完了した。


「…どうだい? このフォルム、軽さ、コンパクトさ! どれをとっても他の追随は許さない素敵な仕様だよ」
「…本当に軽いな。まるで中身が無いみたいだ」
「そう、君みたいにね」かこーん、とニット帽の上から鉄拳制裁。

「心外だな。僕は君のそういうところが好きなのだが」黙れこのホモニット帽略してHNB。次はオトすぞ。
「……まったく酷い言われようだな僕は。して早速やってみようじゃないか」

電源を入れて少しして気づいた。
「なぁ、なんでインターフェイスが中国語なんだ?」
「私疑問思所。」
「似非中国語でしゃべらんともよい。大体どこで買ったんだ。」
「………貰った、福引で。商店街の」
商店街の福引にしては高く弾んだものだ。しかし、外国仕様のW○iなど貰ってもわからないので交換してもらったほうがいいのではないだろうか。
「交換してもらったら?」
「…外国仕様のW○iもおもしろいじゃあないか。もの珍しいだろう」そう聞いて俺はあるひとつの可能性に気づいた。

「………………なあ、それ本当に噂のW○iか?」

「……まさか君、疑っているのかい?この僕がパクリ商品をつかまされたとでも? ふっ…ならご・ゆ・る・り・と、ご覧あれっ!」
彼は起動中のそれをひったくって俺の顔面に突きつけた。


えーと……………なになに…………V…ii?
ちょっと視線をずらすと……


「あ゛ああああぁぁ゛ぁぁぁあああああっ゛ぁぁぁ゛ああああああぁぁっ゛!」

「女々しいな、なんだい。なにか虫でも付いてたのかい…って………えええええええええええええええっ!」






「「これ威力棒だぁぁああぁあぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!!111!」」



       

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