Neetel Inside 文芸新都
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帰宅部。
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 「一つ! 決められた時間には必ず帰る!
一つ! 部員は帰る時間を統一すること!
一つ! 委員会などの集まり以外の遅刻は一切認めない!
一つ! 安全を第一に、無事をずっと!」


 「それ何度聞かせるつもりだ」
 「うるさいわねっ! そういうものなの!」


 もともとロッカールームだった場所を適当に置き換えて作った部室。
2つしかない窓からは既に夕日が差し込み始めていた。
 この部屋の前には"帰宅部"という札が立派に飾ってある。
 高校に入ってから俺は気付いた。この学校は部活動は絶対に入部しなければならないと。
疲れることは嫌だし芸術にも億劫な俺は、どうしたものかと頭を悩ませた。
ついに入部届けを申請する入学1ヵ月後のその日、ヤツはやって来た。

―――「一緒にこの部活入るのよ!」

 この高校まで付いてきた幼馴染は2つも飛んで向こうにある教室から
弾丸のように扉を叩いて俺の机まで飛んできた。
 机に叩きつけられたのは入部届け、そこにはこんなものが書いてあった。

 「き・・・帰宅部?」
 確かに希望部活名の欄には帰宅部と書いてあった。
 「お前、ギャグも大概にしろよ」
 「ギャグじゃないわよ、ちゃんと見てみなさい」


 手渡されたのは部活の案内書であった。しかしめくるにめくれど帰宅部などという文字は無い。
 「やっぱりギャグじゃないか、冷やかしなんて止めてくれよ」
 「ちゃんと見なさいよ! ほらここ!」


 確かに、確かにそこには帰宅部という文字があった。しかしそれは
最後のページの半分の半分の半分のスペースに帰宅部と3文字だけ書いてあった。
 「この書き振りから胡散臭いだろ、ちゃんと調べたのか?」
 「去年は3年生が3人いたらしいけど、2年生の部員はゼロ、2人以上部員がいない場合は
即刻廃部だったらしいわ。ちょうどいいとはおもわない!?」

 正直この話が本当ならこの上なくおいしい話だ。
帰宅部なんていうのはただの形、そのまま焼こうとしたクッキーを型取りしただけのようなものだ。
それにこれが部活というなら他の部に強制的に入れされられるということも無い。

 「まぁ・・・本当なら別に俺はかまわんが」
 「ならおっけーね! ハンコは私が持ってるから」
 「おまっ! また俺の部屋に侵入して!」
 へらへら笑いながら俺はただ見ているだけでスラスラと入部届けが
コイツの手により記入されていく。


 「じゃ、私が2つとも先生に出していくから~」
 「ちょっと待て、顧問の先生は?」
 「登下校指導委員の先生が兼任しているそうよ、校門以外ほぼ会う事は無いわね」

 そういい残すとまた弾丸のようにあいつは駆けていった。職員室とは逆の方向へ。


―――ということがあり、今ではすっかり秋だ。

 別段変わったという話でもない、中学校とまったく変わらない
ただ高校の生活の中での余った時間を潰すための空間がある、
それだけが変わったくらいで、登下校自体はずっとあいつと一緒にやっている。
 それが部活になろうが授業になろうが、変わることのない日常だった。


 「私今日日直だから、少し待ってて!」
 授業が早々に終わり帰宅部の部室で呆けている俺に
一言吐き捨てて返事も待たずあいつはまた駆けていった。

 勝手に帰ってしまったことが数回ある。そのたび怒るならまだいいほうだ、
あいつの場合、変にすねるところがあるから後々の処理が面倒になる。
しかし昔からの付き合いもあり、もはや無い様で有る、そして
なくては困る窒素のようなヤツなのだ、したがっているわけではないが、
 ・・・いや、有る意味従わされているのかもしれない。
 もっと言ってしまえば周りからして見れば直意にもなるだろう。


 かばんに顔を伏せ、暑さの引いた窓辺でまどろんでいると
  ヴーヴーヴー
 「・・・? メールか」
 『From母 Sub Re: 本文 夕食に使うネギとこしょう忘れちゃったから帰りに買ってきて!』

 「はぁ・・・またか」
 俺はかばんを引っさげてさっさと部室を出る。
たいていウチの母が俺に買い物を頼むときは暗示的に早く帰って来いという意味だ。
理由はわからない、ただ昔からだと条件反射で体が動く。


 実際寝ていたのだろうか、食料品店についた頃には辺りが暗くなり始めていた。
ネギ2本とこしょうを一つ、レジを通して外に出る、そんな短い間に
日はすっかり沈んでいた。


 妙に暗い帰り道、足元を見ながら日落ちしたあとの風の寒さを季節とともに感じる。


 「・・・・・くぉぉぉぉらあああ!!!!」
 「ごふっぅぅぁ!!」

 ・・・唐突だった。背中を何者かに思い切りけられた。

 「いたたた・・・」
 「ぬぁに勝手に帰っているのよ!」


 目の前にはやはりというかなんというか"あいつ"がいた。
 「普通にこんな時間まで残ってるのがおかしいだろうが!」
 「うるさいわねっ! 私だってすぐに戻ろうとしたのに教室に積んであった本が
ばらばらになっていたから逃げようとおもって教室を出たら担任に見つかって
それを一人で片づけさせられて・・・それで部室戻ってみたらあんたもういなかったじゃない!」
 「それで今まで何してたんだ」

 倒された衝撃でついた落ち葉を落としながらしおれたように折れたネギの緑の頭の様子を伺う。
 「だから・・・探したのよ、校門の周りから・・・ずっと」
 「誰をだよ?」

 「あんたよあんた!」
 右手の人差し指をびしっとさして俺に視線をぶつけている。
 「別にそこまでいる必要ないだろ、前から思ってたけど、帰宅部なんて形だけだろ」

 「・・・ひ、一つ! 決められた時間には必ず帰る! 部員は帰る時間を統一すること!」
 「わ、わかったから、もう帰るぞ」

 そういうとすっと声が静まり、俺は歩を進め始めると
それを一緒にこいつも歩き始めた。


 街灯が見えるとおりに出た、この先を抜ければすぐに家だ。
こいつの家は向かいのすぐとなりにある、帰る場所なんて同じようなもんだ。


 「なぁ・・・」

 「・・・・・なによ」


 街灯が頭上で光っている。

 「わ、わかってると思うけど、これは帰宅部だから・・・!」
 「はいはい」
 「ちょっと聞いてるの!? 私は別に・・!」
 「帰宅部憲章ー一つ、決められた時間には必ず帰る」

 俺は間を取らなかった。
 「帰宅部だから。わかってるって、」

 「な・・・ならいいのよ」

 その時の俺は特に注意はせずただその風景を覚えていた。

 そいつは目線を少し下げて、ただ同じ歩速で歩いていた。


 まだそんなに寒くないのに、白い息が見えた。

       

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